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翌日、ラクロワ家を一人の女性が訪れた。家にいたのはカリーヌ一人だった。
女性は占星術師のアネルマ・クレーモラと名乗った。占星術師と聞いて、カリーヌは数日前の近所の人達の会話を思い出した。
数日前から見慣れない女性の姿が見られていた。リヨンの市街地からは離れているので、他の地域から訪れる者は少ない。宿がないので、知人がいなければ宿泊しての滞在は難しい。その女性はどこかに宿泊している様子はなく、近くの町から毎日のように訪れているようだった。
何が目的かわからないので用心した方が良いと近所の人たちは話していた。
「占星術師の方がどんなご用でしょうか?」
「あの小屋は何のためのものですか?」
アネルマはクレマンが研究に使っている小屋を指し示した。それを聞き、カリーヌは身を固くした。
「あなたに教える理由はありません」
カリーヌは強い口調で言ったが、アネルマは表情を変えずに言葉を続けた。
「使っていないようなら、すぐに壊してしまった方が良いでしょう。使っているのであれば、本当に必要なものだけ取り出して、すべて処分してください。取り出したものは、再び使う前に清めてください」
「何故ですか?」
カリーヌの口調がさらに強くなる。
「悪いものが集まっています。何か心当たりはありませんか?」
アネルマはやはり表情を変えない。反対にカリーヌは、明らかに不快な顔をした。アネルマもそれには気付いたが、まったく気に留めることはなかった。
「あなたが来たから」
カリーヌの精一杯の皮肉にアネルマは初めて表情を変化させたが、怒りや困惑ではなく優しい微笑みだった。
「そうかもしれませんね」
「もういいですよね。帰ってもらえませんか」
カリーヌの言葉に対して、アネルマは何も言わずに立ち去った。
(何だったのかしら?)
カリーヌはアネルマの訪問の目的を考えた。言葉通りなら何か悪いものが集まっているということだろう。悪いものが何かはわからない。
小屋を壊せと言っていたが、小屋が気に入らない訳ではないだろう。家に近づけば外からでも見える。しかし、不快感を与えるようなものとは思えない。
(おじいさまならわかるかしら?)
クレマンの帰宅を待って、カリーヌはアネルマの訪問を伝えた。
「占星術師のアネルマ?」
「そう名乗ったけど知っているの?」
「いや……そんな名前に聞き覚えはない」
クレマンは少し考えてから答えた。少なくとも名前に覚えはなかった。
「悪いものが集まっているから研究室を壊せって」
「悪いもの?」
「それしか言わなかったから……何だかわかる?」
カリーヌは心配そうな表情でクレマンを見た。
「……ひょっとしたら、占星術師ではなく魔女なのかもしれないな」
クレマンは少し考えてから答えた。
「魔女?」
「わたしの力に嫉妬しているのだろう」
クレマンは言ったがその言葉を信じてはいない。
「嫉妬?」
「そうだ。だから邪魔しようとしたのだろう」
「おじいさまの敵なの?」
カリーヌは今度は不安そうな表情をした。クレマンに危険が迫っているのではないか。
「心配はいらないよ。その魔女はわたしの足元にも及ばない。だから大人しく引き下がったのだろう」
「それならいいけど……」
カリーヌはまだ不安そうだ。クレマンはアネルマを知らないと言った。知らないのであれば力の差などわからないのではないのか。それに、クレマンの魔法は人を傷つけるものではない。争いになったら負けてしまうのではないか。
「カリーヌ、心配はいらないよ。わたしは負けはしない。このことは家族に言ってはいけないよ」
不安な表情のままのカリーヌに、クレマンは優しく微笑みかけた。




