↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
76/85

7-2

 家に帰ると、マティスは机の上でノートを開いた。もちろん、ノートなので何も書かれていない。

 マティスは何を書くか考えたが、このノートに書くのであれば思いつくのはひとつだった。

 魔法の書。

 そうだ。祖父の話に出てくる『魔法の書』がこのノートに似ていた。だからこそ、このノートを買ったのだ。

 だが、問題があった。魔法の書の内容がわからない。いや、内容というよりは、どのように書けば良いのかわからなかった。見たこともないので当然だ。

 マティスは祖父の話を思い出すことにした。


 十五世紀末フランスはリヨン、カリーヌ・ラクロワは、家の近所の丘に咲くミモザの花を摘んでいた。花籠いっぱいに摘み取ると、カリーヌは急いで家に帰る。誰にも見られないように部屋に入り、摘んできたミモザを机の上に広げた。選別したミモザを麻縄で縛り、それを手にして、再び誰にも見られないように裏庭に向かう。

 裏庭には使っていない古井戸がある。井戸の屋根の下、棚に置いてある物をいくつか下ろすと、空いた空間にミモザを置く。棚から下ろしたものは、家の方からは見えないように井戸の陰に隠す。

 カリーヌはスワッグを作ろうとしていた。ここで三日ほど乾燥させたら、リボンで飾り付けてクレマンに贈る。

 クレマンはカリーヌの祖父だ。カリーヌの父親は十一年前、カリーヌが二歳の時に亡くなっている。だからカリーヌは父親のことをほとんど覚えていない。

 カリーヌはクレマンを父親のように慕っていた。三日後はクレマンの七十歳の誕生日。そして、ミモザはクレマンが一番好きな花だ。だから、ミモザのスワッグを贈ろうと、カリーヌは準備をしていた。

 それからの三日間、カリーヌはスワッグが見つからないか心配だった。本当は部屋で乾燥させたいのだが、カリーヌの部屋の窓は南向きなので、乾燥させるには日が強すぎるのではないかと考えた。かといって他の部屋に置くわけにはいかない。考えた末、日も当たらずに風通しもよく、あまり人が近づかないので、あの古井戸で乾燥させることを決めた。

 三日後、スワッグを取りに行ったカリーヌは、古井戸の周りが片付いていることに気づいた。慌てて棚の上を確認すると、スワッグは確かにそこにあったが、そこにあったものは少し移動されていた。そこにあったものはいくつか失くなっていて、残っていたものはスワッグを隠すように置かれていた。ただし、風通しが悪くならないように、隙間を空けて置かれていた。

 スワッグの状態は良かったが、古井戸を片付けたのが誰なのかカリーヌは気になった。

(おじいさまでなければ良いのだけど……)

 部屋に戻ると、カリーヌはスワッグをリボンで飾り付けた。クレマンは青色が好きだったので、三種類の青いリボンを使う。準備はできたので、カリーナは夜になるのを待った。

 クレマンは日中、庭の隅にある研究室にいることが多い。研究室といってもただの小屋だ。母親のミュリエルに、危ないから近づくなと言われているので、カリーヌはクレマンの研究室に入ったことはない。母親の言いつけを守っているというより、クレマンの邪魔をしないようにしていた。ただし、何をしているのかは大いに興味があった。もう少し大きくなったら、研究を手伝いたいと言うつもりでいた。

 夜になり家族が食堂に集まってきた。

 ラクロワ家には六人が住んでいる。クレマン夫妻と長女エステル夫妻、次女ミュリエルと娘のカリーヌ。ミュリエルは結婚して家を出たが、夫が亡くなったためにカリーヌを連れて戻ってきた。

 エステルの夫は貿易商をしていて、長期間留守にしているので、食堂に集まったのは五人だった。

 五人が集まると、カリーヌは一度席を外し、スワッグを背中に隠しながら戻ってきた。

「おじいさま。お誕生日おめでとう」

 カリーヌはスワッグをクレマンに差し出した。

「これをわたしに……こんな素敵なものを。ありがとう、カリーヌ」

 クレマンの満面の笑顔を見て、カリーヌも嬉しくなった。スワッグをクレマンが知っていたかは、どうでも良くなっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。