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「さて、これをどうするか……」
茉唯は神妙な面持ちをしていた。向かいには優梨奈が座っている。
寮に帰った二人は、紗耶香が読んでいた本のページを開いていた。
「フランス語……なんですよね?」
優梨奈は英語を多少話せるが、フランス語は全くわからなかった。
「そうだと思う。これ……フランス語で見たことある」
茉唯はアクサン・グラーブが付いた文字を指差した。その文字はフランス語以外でもあると優梨奈は思ったが黙っていた。
「紗耶香さんはフランス語って言ってたんだよね?」
「そう言ってました」
「でも、フランス語はわからないとも言ってたんだよね?」
それなら、何故フランス語と断言できたのだろうと茉唯は思った。
「調べながら読んでいたということですから、調べるうちにフランス語だとはっきり分かったのだと思います」
「明日学校に行ったら、フランス語の辞書を探してみるか……あるよね?」
「あると思います」
優梨奈が答えた時、スマートフォンの着信音が鳴った。同じ中学校出身の一年生からだ。茉唯に視線を送ってから優梨奈は電話に出た。
しばらく話して通話を切る。
「茉唯さん、ごめんなさい。これから第六学生寮に行ってきます」
「第六学生寮?」
茉唯には第六学生寮に行く理由が想像できなかった。特に親しい友人がいるわけではなく、特別な設備もない。
「アフタヌーンティー同好会が、学校公認になるかもしれないそうです」
優梨奈はアフタヌーンティー同好会に所属していた。学校には認められていないので、同好会とは名ばかりの集まりでしかない。それが学校公認になるというのだ。
「学校公認?」
茉唯が疑うような目で優梨奈を見た。優梨奈を疑っているわけではない。濤嘉女学館では、学生の活動として有意義と判断されなければ、部活動や同好会を公認することはない。公序良俗に反しなければ、活動すること自体は許される。公認されれば、教師に顧問を依頼することが可能になり、活動内容と人数によっては、部として予算が割り当てられる。
茉唯が知る限り、アフターヌーンティー同好会が、有意義な活動をしているとは思えない。
「わたしも信じられないんですけど、集まって欲しいとのことですので行ってきます」
優梨奈は部屋を出ようとしたが、何かに気づいて戻ってきた。
「茉唯さん。今思い出したのですが、わたしの後輩のルームメイトが、それと似たような本を持っていました。よろしければ尋ねてみてはいかがですか?」
「後輩って同じ中学の?」
「はい。今の電話がそうだったので思い出しました」
優梨奈は少し申し訳なさそうに言った。
「その子の部屋はどこなの?」
「第二学生寮の306号室です」
茉唯と優梨奈は第五学生寮なので別の建物だ。
「ありがと。これから行ってみる」
二人は一緒に部屋を出た。茉唯は本を手にしている。
寮の玄関を出ると二人は左右に分かれる。茉唯は第二学生寮なので右に、優梨奈は第六学生寮なので左に向かう。
茉唯は第二学生寮の玄関に着くと、扉の前で逡巡した。当然だが、茉唯が持っている部屋の鍵では、第五学生寮以外のオートロックは開錠できない。この寮の学生か寮監を呼び出して、開けてもらわなければならない。
茉唯はインターホンで306号室を呼び出してから、相手の名前を知らないことに気づいた。優梨奈の後輩とは面識があるが、第六学生寮にいるようなので不在のはずだ。
「はい」
すぐにインターホンから応答があった。
「あたしは……菱川さんの中学の先輩のルームメイト……ってわかりにくいよね。二年の榧野茉唯っていうんだけど、少しお話しできないかしら?」
茉唯が言うと、少し間があってから返答があった。
「……そちらへ行けばいいですか?」
「できれば中へ入れて欲しいのだけど。部屋に入るのは無理?」
「……いえ、大丈夫です……今、開けますね」
玄関の扉が開いた。
「ありがと」
茉唯は言うと、インターホンを切って寮の中へ入った。階段で三階に向かい、306号室のドアをノックする。
ドアが開いて、この部屋の住人が顔を見せる。
茉唯は一瞬たじろいだ。
迎えてくれたのはエメラルドブルーの瞳、腰まであるストレートのプラチナブロンドの髪。日本人ではないように見える。
(日本語通じてたよね?)
茉唯は少し前のやりとりを思い出していた。
「どうぞ」
部屋の住人に促され、茉唯は部屋に入る。




