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紗耶香が亡くなったことを、優梨奈が知ったのは、二日後のことだった。連絡先を教えていなかったので、由香からの連絡は学校に入った。二限目が終わった時に、担任が教室に来て優梨奈に伝えた。
(どうして?)
優梨奈は病院で見た紗耶香の様子を思い出していた。最初は明るい表情だった。途中から表情は曇ったが、思い詰めている感じではなかった。理由はわからないが避けようとしていると優梨奈は感じた。
避けられる理由は思いつかない。会話の途中からだったと思う。しかし、大した話はしていない。
最初は古い本のこと。その次が転落した時の話。思い出させてしまったが、その時の様子は、それまでとはあまり変わらなかったように思う。
その後で優梨奈は少し考え込んだが、考え事をしていたので会話はしていない。その後の会話から、紗耶香の様子が変わったように思う。
(茉唯さんなら何かわかるでしょうか?)
優梨奈と茉唯は別のクラスだ。休み時間なら話ができるが、寮に帰ってからゆっくり話した方が良いと思い、優梨奈は今は考えるのをやめた。
学校が終わり寮へ帰ると、優梨奈は紗耶香のことを茉唯に話した。
「うーん、三度目の正直か……」
不謹慎だが茉唯の言う通り三度目だった。最初がオーバードーズ。その次が公園の階段。最後が病院の窓。三度目で成就したことになる。
「そういう言い方は可哀想ですよ」
優梨奈が嗜めた。
「本当に可哀想なのかな?」
「どういうことですか?」
「念願が叶ったのなら本望だよ」
茉唯はあっさりと言った。
「そうかもしれませんが、亡くなっているんですよ」
優梨奈は非難している訳ではない。茉唯の言葉に他意がないことはわかっている。知り合ってからは一年半と短いが、長い時間を一緒に過ごし、たくさん話もしている。茉唯はただ事実を言っているに過ぎない。
紗耶香が死ぬつもりだったのなら、三回目でやっと叶ったということだ。反対に死ぬつもりがなければ、なぜ三回も繰り返したのか。いや、もしかしたら、もっと繰り返されたかもしれない。
「問題は、目的は何だったのかということよ」
「目的……ですか?」
優梨奈には茉唯が言わんとしていることがわからなかった。
「そう。死にたいんだったら、最初から飛び降りればよかったのよ。階段じゃなくてビルからね」
「そうですね。階段は変ですよね」
これには優梨奈も同意した。
「オーバードーズは一旦置いとくとして、その次が何故階段だったのかよ」
「少し前に助かった人がいましたよね」
優梨奈の言葉で茉唯はハッとした。
「そっか……死ぬつもりはなかったんだ」
「それは、どういうことですか?」
「つまり、死ぬことが目的じゃなかったのよ。理由も目的もわからないけど、死なないようにしていたんだわ」
茉唯はそう言ったが、自分でも何を言っているのか理解できていなかった。
「全然わからなくなってきました」
優梨奈も全く理解できていない。
「たとえば、何かのおまじない……とか」
茉唯は少し躊躇いながら言った。
「おまじないですか?」
「そう。死ぬような思いをすれば何かを得られる……なんてことはないかな?」
最後は自問する形になった。
何かを死ぬ気でやれば、良い結果を得られるかもしれない。しかし、死のうとして良い結果を得られるだろうか。
優梨奈は何も言わずに考え込んでいる。
「おまじないというより、願掛けに近いのかな?」
「願掛けですか?」
先ほどから優梨奈はオウム返しだ。
「死にそうになっても、死ななければ幸運が訪れる。死んでしまったら運が悪い」
「そんなこと……実行する人がいるでしょうか?」
「だよね」
茉唯自身も馬鹿げたことだと思っている。
「ですが、先ほどのおまじないでしたら、それほど見当違いではないのかもしれません」
「どういうこと?」
優梨奈は紗耶香の病室で見た古い本のことを説明した。本について質問した時のこと。その後の会話と、紗耶香の様子が変わったこと。
「ふーん、少し気になるわね」
「どんなところがですか?」
優梨奈に訊かれて、茉唯は考えを整理した。
「最初に本のことを質問したのよね?」
「ええ、特に気になった訳ではないのですが」
優梨奈としては、何を話したら良いかわからなかったので、たまたま目についたものを話題にしたのだ。
「その後で転落のことを質問した」
「ええ、本の内容を話しても仕方がないですから」
フランス語の辞書がないことは少し気になったが、追求するようなことではなかった。
「その時に、スマホを見ていた、という答えに引っかかったのよね?」
「ええ、スマホの位置が変でしたので」
それについては、実際に公園で試して、優梨奈を見ていたのかもしれないという仮定を立てている。
「その後で様子が変わったのよね?」
「そうですね。わたしのことを探るように見てきました」
その視線が嫌で優梨奈は病室を後にすることにしたのだ。
「秘密に気づかれたと思ったんじゃないかしら」
「秘密……」
茉唯の言葉を聞いて優梨奈はしばらく考えたが、特に思い当たることはなかった。
「本のことを話してすぐに転落の話をしたから、優梨奈が本と転落を関連付けたと思ったってことはない?」
「わたしはそうは思わなかったですが」
「優梨奈が思ったんじゃなくて、紗耶香さんがそう感じたんじゃないかってこと」
「……」
茉唯の話を聞いても、優梨奈は全く理解できていない。
「その本に、転落とか死にそうな思いをすることを示唆するようなことが書かれていたのかも」
「……何のため……ですか?」
「それはわからないから、その本を読んでみたいね」
茉唯は催促するような目で優梨奈を見つめた。




