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そして、あの日。
紗耶香は階段の上に立った。スマートフォンをカメラモードにして、インカメラで背後に誰か来れば見えるようにする。階段の下は直接見ることができる。
ほどなくして、画面に人影が映った。
人影を認めて、スマートフォンのカメラモードを終了し、代わりにSNSアプリを起動する。操作していたことを装うためだ。自ら転落したと悟られたくなかった。
ひと呼吸して、空中に一歩踏み出す。踏み出した足は階段を空振りし、紗耶香の体はバランスを崩した。
紗耶香は階段を転落していく。必死に両手で頭を守りながら。
最低でも頭だけは守らなければならない。
しかし、階段の一番下まで転落する頃には、紗耶香は気を失っていた。頭を守っていた手も離れ、途中からは無防備になっていた。
紗耶香にはそこからの記憶はない。次に気がついた時には、病院のベッドに寝かされていた。
そして、今。
紗耶香は資格を得たと信じていた。
『もう一度会って謝りたい』
強く念じた。
何も起こらない。
もう一度、強く念じてみる。
やはり何も起こらなかった。
「どうして?」
紗耶香は不満を口にした。
「なんで何も起こらないの!」
紗耶香は狼狽えた。これで問題ないと思っていた。だが何も起こらない。
「まだ足りないの? これじゃダメなの?」
次第に涙声になってくる。紗耶香の瞳からは涙が流れていた。
紗耶香は限界だった。希望が叶えられると思ったから耐えられたが、命を落としていたかもしれなかった重圧。
希望が今は絶望に変わっていた。本来ならそこまで思い込む必要はないのだか、紗耶香は魔法にのめり込みすぎていた。
窓に映る自分と目が合った。その顔が、今の紗耶香には哀れんでいるように見えた。
花瓶を手に取ると、窓に映る自分に向かって投げつける。
大きな音を立てて窓ガラスが割れる。
廊下を走る足音が近づく。
ガラスの割れた窓を開ける紗耶香。
紗耶香の病室のドアが開く。
看護師の姿を確認すると、紗耶香は窓から身を投げた。恍惚な笑みを浮かべながら。




