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寮に帰ると、優梨奈は茉唯に紗耶香のことを話した。
「オーバードーズに階段からの転落か……死にたいっていうより、誰かに助けを求めてるのかな?」
「そうかもしれませんね。明日お会いしてみれば、もう少しわかるかもしれません」
優梨奈が見舞いに行くのは、翌日の放課後だ。
「あたしも一緒に行こうか?」
「ありがとうございます。ですが、わたし一人の方がいいと思います」
「そうだね」
一緒に行くことを提案したが、茉唯も二人で行くのはどうかと思っていた。ただ、優梨奈一人で心配なところはある。紗耶香の真意に気づくことができるのか。優しい優梨奈には、心の闇を見ることはできないだろうと茉唯は考えていた。
紗耶香を心配しているわけではない。はっきり言って、茉唯にとって紗耶香はどうでも良い。優梨奈が巻き込まれてしまうことが心配だった。
「大丈夫ですよ。深入りはしません」
優梨奈も茉唯の気持ちを理解している。理解しているが、優梨奈の優しさが茉唯にとっては不安だった。
「わかっていると思うけど、優梨奈には何も責任がないからね。何か頼まれても断っていいんだよ」
そう言ってから、茉唯は何に不安を感じているか理解した。何かを頼まれてしまうのではないか。
紗耶香の頼みで、母親の由香が優梨奈を尋ねた。
その由香の頼みで、優梨奈が紗耶香を見舞う。いや、由香の頼みとは限らない。優梨奈が見舞いに来るところまで、紗耶香が由香に頼んだ可能性もある。それであるなら、何らかの意図があるはずだ。
(お礼を言いたいだけかな?)
それなら問題はないが、二度も命を落としかねないことをして、お礼を言うために呼びつけるだろうか。そこまで感謝するとは思えない。いや、感謝しているのなら、呼びつけたりはしないだろう。
(考えすぎかな?)
由香の言葉をそのまま信じれば、特に不審なところはない。
「茉唯さんは心配しすぎです。わたしはそんなに頼りないですか?」
「そうじゃなくて、優梨奈は優しすぎるの」
「それは悪いこととは思いません。ですが、茉唯さんがそうおっしゃるなら、心を鬼にします」
優梨奈は真顔で言った。
「鬼にする必要はないけど……で、紗耶香さんの状態はどんな感じなの?」
茉唯は話題を変えた。
「全身の打撲と、手足や肋骨を骨折しているそうです」
「となると、歩くのは大変なのかな?」
「そのようです」
優梨奈は由香から簡単に話を聞いていた。
紗耶香は頭を打っていたが、頭蓋骨に骨折などはなかった。全身に打撲があり、肋骨を二本と右手首を骨折している。左肩を脱臼し、手足の骨に数箇所亀裂が入っていた。精密検査の結果はまだ出ていないが、全治一ヶ月の見込みだった。
「あまり心配しすぎても仕方ないね。あたしがまた、美味しいカモミールティーを淹れてあげる」
小さな丸テーブルに移動した茉唯は、優梨奈をチラリと見てから、思いついたようにローズヒップティーを淹れ始めた。
「はい、優梨奈」
「ありがとうございます……もう淹れてもらえないと思っていました」
優梨奈はカップを持ち上げたが、怪訝な顔をして茉唯を見た。
「これは……ローズヒップですよね?」
「そうだよ。カモミールは一生淹れてあげないから」
茉唯は頬を膨らませて言った。
「茉唯さん……さっきまで忘れていませんでしたか?」
優梨奈は笑った。優梨奈の笑顔を見て、茉唯は膨らませていた頬を綻ばせた。もちろん、本気で怒っていたわけではない。
「気のせいよ。あたしのこと、ずっと見ていたわけじゃないでしょ」
そう言った茉唯は、あることを思い出した。
優梨奈が紗耶香を見つけた時のことだ。優梨奈の話では、紗耶香はしばらく階段の上に立っていた。自ら転落したように見えたということだったので、決心がつかなかったのではと考えていた。そうではなく、誰かに見られるのを待っていたということはないだろうか。何かの目的を持って、誰かに見せようとしていた。
(何のために?)
茉唯にはその理由が想像できなかった。
「どうしたのですか? 珍しく真剣な顔をしてますよ」
「珍しくって何よ。ローズヒップティーも一生淹れてやらないんだ」
茉唯は頬を膨らませる。




