↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
64/85

6-2

 優梨奈は寮へ帰るとまっすぐ自室に入った。

 ルームメイトの榧野茉唯が優しく迎えてくれた。今日の出来事は大体知っているようだ。

 ここは私立濤嘉女学館高等学校の第五学生寮。七棟の学生寮がある。一学年百五十人。全校生徒四百五十人が暮らしている。それとは別に教職員用の寮も一棟あった。

「災難だったね」

 茉唯は少し不謹慎な言い方をした。亡くなってはいないが意識は回復していない。

 もちろん、茉唯に悪気はない。

「わたし、疑われてるのでしょうか……」

 優梨奈は独り言のように言った。優梨奈は同級生どころか、下級生に対しても丁寧な口調だ。独り言でも自然と丁寧になる。

「どうして?」

 目撃者だよね、と茉唯は思った。

「わたししか見ていないので、わたしの言ったことが本当かどうか、誰にもわかりません」

「そうだけど……優梨奈がやったの?」

 茉唯が真顔で訊いた。

「そんなことしません!」

 優梨奈は強く否定した。対して茉唯は笑顔で応える。

「ならいいじゃない。優梨奈がやってないという証拠はないかもだけど、優梨奈がやったという証拠は絶対にないよ」

 嵌められなければ、と茉唯は心の中で付け加えた。

「そうなのですが……」

「心配するんなら、転落した女の子だよ。まだ意識戻ってないんだよね?」

「そのようです……少し気になります」

 優梨奈は何か引っ掛かっていた。

「何が気になるの?」

「その子、自分から転落したように見えました」

 確信が持てなかったので、気づいた時には転落するところだったと警察には答えた。転落する前から見ていたと答えると、その時の様子を確実に質問される。上手く説明できる自信がなかった。

「自分から?」

 茉唯はわかりやすく首を傾げた。

「そうです。自分から階段を転落したように見えました」

「そんな訳ないって。ビルから飛び降りるのならともかく、階段を転落して死のうと思う人なんていないと思う」

 茉唯は否定した。自ら転落するなら自殺だろうと思ったのだろう。

「死のうとしたのではなくて、大怪我したかったのかもしれません」

 優梨奈自身も半信半疑ではあるが、自ら転落する理由を考えてみた。

「うーん……大掛かりな自傷行為ってこと?」

 茉唯は言ったが、さすがにそれはないだろうと思っていた。

「そうも考えられますが、仮病のようなことも考えられるかもしれません」

「仮病?」

 茉唯には優梨奈が言わんとすることがわからない。

「試合に出たくなくて、わざと怪我するような感じです」

「考えられなくもないけど、ちょっとやりすぎじゃない?」

「そうですよね。下手をしたら死んでしまいます」

 優梨奈も茉唯とは同意見だが、そうなると、やはり自ら転落した理由がわからない。

「あまり考えすぎない方がいいよ。その子が助かればわかるんだから」

 たぶん、と茉唯は心の中で付け加えた。

「ありがとうございます。茉唯さんはいいですね」

「なんで?」

「本当は色々と考えているのですけど、何も考えてないように見えます」

「何それ? なんか馬鹿みたいじゃない」

 茉唯は頬を膨らませた。

「そうではなくて、本当は繊細なのですが、それを他の人に見せないということです」

「よくわからないけど、まあいいか。飲み物淹れるね」

 茉唯は立ち上がり、部屋の隅にあるサイドテーブルで、カモミールティーを淹れ始めた。そのくらいであれば、食堂まで行かずに用意できる。

 カモミールティーを淹れる茉唯を、少し羨ましそうに優梨奈は見る。

 優梨奈の視線には気付かずに、茉唯は慣れない手つきでカモミールティーを淹れる。その姿も、優梨奈にとっては心地よい時間になっていた。

「はい」

 茉唯が優梨奈にカモミールティーを手渡す。

「ありがとうございます」

 カモミールティーに優梨奈が口をつけるのを見て、茉唯も自分のカモミールティーに口をつけた。茉唯はカフェラテの方が好きなのだが、部屋では淹れられないので、部屋にいる時は、優梨奈が好きな紅茶やハーブティーを一緒に飲んでいる。

 いつも、紅茶やハーブティーは優梨奈が淹れている。茉唯が淹れるのは優梨奈がいない時だけだ。そんな茉唯が淹れてくれたのが、優梨奈にとってはとても嬉しい。

「どう?」

 茉唯が優梨奈に訊いた。カモミールティーの味についてだ。

「茉唯さんにしては上出来だと思います」

 優梨奈は優しい笑顔で答えた。

「何それ……もう一生淹れてやらないんだ」

 茉唯は笑いながらも頬を膨らませる。丸い顔がまん丸になる。その頭にも丸いお団子が二つ。

 茉唯と優梨奈は寮のルームメイトになったことで出会った。茉唯は三組、優梨奈は五組なので、ルームメイトにならなければ、親しくはならなかったかもしれない。濤嘉女学館はクラス替えがないので、二人は三年間同じクラスにはならない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。