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ロイネは補助脳についての資料を集めていた。補助脳の研究開発は第一ラボで行われている。頭脳の部分だけなら第三ラボの方がふさわしいが、補助脳は第一ラボが唯一の研究所だった頃から研究が続けられている。そのため、現在でも第一ラボで研究が続けられていた。もっとも、頭脳に関するものなど情報処理に関するものについては、第三ラボに協力を求めることもあった。
注目したのは相互作用性だ。本来、補助脳は情報の蓄積と検索を中心としたものだった。自分の脳で記憶する代わりに補助脳で記憶する。検索についてはその記憶だけではなく、補助脳から接続可能なあらゆる情報から行うことができた。つまり、補助脳は完全に受け身のものだった。
それを補助脳の方から働きかけるようにしたものが相互作用性だ。補助脳が体を直接動かすことで、専門知識や経験がなければできないようなことができるようになる。
まだ実用化はされていないので、実際に相互作用性を有効にしている者は少ない。そのほとんどが研究者だった。
その中にはガレオマレニの調査団の者もいる。目的は翻訳だ。本人が言葉を理解できなくても、補助脳を利用することで直接の会話が可能になる。もちろん、補助脳が会話するわけではない。補助脳が聞いた言葉を翻訳して本人に伝え、本人の考えを補助脳が翻訳して発声する。補助脳に会話まで任せることも可能だが、その場合は相互作用性の制限を緩くしなければならない。相互作用性はまだ研究段階なため、制限の緩和は推奨されていなかった。制限を緩和した場合、補助脳が不正侵入されれば、肉体を乗っ取られる可能性がある。また、補助脳自体の不具合に見舞われてしまう可能性もあった。
(おそらく総統にはこれを応用したものが使われているのだろう)
ロイネは確信した。
資料には明確化されていないが、相互作用性により偽の記憶を植え付けることも可能と考えられた。偽の記憶と現実の記憶をうまく組み合わせれば、思想を変えることも可能になるのではないか。
(総統はいずれ解放される)
その先に苦難が待っていることは容易に想像できた。いずれはもう一度、本物と偽物の総統が入れ替わることになるだろう。その時にどんな状況になっているのかはわからない。しかし、総統を続けられるような状況ではないとロイネは考えていた。場合によっては死が待ち受けているのではないか。そのために生かされている。
(そこまでして何をするつもりだ?)
ロイネにとって総統の生死は重要ではない。何が起こるにしても、それに巻き込まれるようなことがあってはならない。ロイネに影響がないのならそれに越したことはないが、できる限り早い段階で見極めて回避したい。
(やはり一度姿を消したほうが良いか?)
パウリを殺害したことで、ロイネはすでに巻き込まれてはいる。何かが動くのを待っていて良いのか。
考えていると、ロイネの研究室をクレメッティが訪れた。クレメッティは昔話をして去っていった。
(何しに来たのか?)
他愛のない話だったので、ロイネはクレメッティの訪問に疑問を感じた。
翌日、クレメッティが辞表を提出したことをロイネは知る。
(最後の挨拶だったのか。言ってくれれば違う話もできたのに……)
ロイネは胸騒ぎがした。クレメッティの最後の言葉が気になる。
「君は何も心配しなくていい」
クレメッティはそう言った。
(何も?)




