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5-10

「それが向こうからの攻撃を誘発していたということはないのですか?」

 エルネスティがサムリに問う。

「それであれば突然攻撃されたとはならない。情報では突然攻撃されたことになっている」

 サムリは言ったが、先ほどの話では「突然」とは言っていない。

「一〇〇隻に対して五〇隻足らずで大丈夫ですか?」

 今度はマイオニだ。言葉の通り、アルマセレルに戦艦は五〇隻弱しか存在しない。

「我々はガレオマレニまで五年かかるが、彼らはここまで数日か、場合によっては数時間しかかからないと考えられる。彼らにとっては出撃まで五年あるということだ。我々の艦隊が到達する頃には、攻撃の計画すら立てていないと思われる。そこを叩けば少数でも勝機はある」

 サムリが強い口調で言う。クレメッティは、サムリ自身も不安を抱えているのではないかと感じた。だからこそ、自分を鼓舞するために力強く言ったのではないかと。

 会議室にはその日何度目かの沈黙の時間が訪れた。

 沈黙を破ったのはクレメッティだった。

「先制攻撃の結果はわかっているのですか?」

「結果?」

 サムリが怪訝そうに聞き返す。

「先進波による通信は完成しています。であるならば、結果を過去に伝えることをこの会議で決定しておけば、その結果が予め伝えられてきていることになります。つまり、本来ならすでに結果がわかっているのではありませんか?」

「それはあり得ません」

 割って入ったのはユレルミだった。ユレルミは続ける。

「過去に干渉したことにより変わってしまった世界は、その未来とは異なる時間軸の平行世界に構築されます。それは当然のことです。未来を知らない世界と、知ってしまった世界が同じであるわけがありません」

 ユレルミは一旦言葉を切る。その場のほぼ全員が理解できていない顔をしている。

「つまり、先制攻撃により勝利したことを過去に伝えたとしても、それを知らない我々が今いるこの世界とは異なるのです。我々はその過去を知らないのですから」

「……うーん、私には良くわからない世界だな」

 クレメッティが独り言のように呟いた。

「無理もありません。所長にとっては専門外でしょう」

 ユレルミの言う通りクレメッティの専門は物理学ではない。それ以前に、第三ラボ自体が物理学を専門としていない。それなのに第三ラボに研究室が置かれた。

 クレメッティはそれをロイネの母親を関わらせるためと考えていた。ロイネの母親も第三ラボに所属していた。先進波の研究に誘われていたが、ロイネの母親は断り続けていた。クレメッティはその時に間に入ったり、そのほかのことでも色々と便宜を図っていた。その関係性があるから、ロイネもクレメッティのことを信頼している。

「そうなると、最適な解決策を知る方法はないということになりますね」

 口を開いたのはエルネスティだった。

「それは仕方がありません。ですが、危機を回避するきっかけにはなります」

 その後、サムリから各関係者に通達が行われた。

 軍と宇宙センターに対しては艦隊の出撃準備を進めること、国立研究所には本件への対応を優先することが指示された。

 特に第三ラボには、ガレオマレニの調査隊から送られてくるデータの解析を、最優先で行うように念を押された。ガレオマレニのことはまだほとんどわかっていない。艦隊が到着する五年後までには、明らかにしなければならないことが山ほどある。

「どう思いますか?」

 会議室を出ると、エルネスティはクレメッティに声をかける。ヒルダの件で双子の姉ロイネに話を聞いているので、エルネスティとクレメッティは面識があった。

「私はラボの人間をうまく導くだけです」

「導く?」

 エルネスティは首を傾げる。クレメッティが言わんとすることを理解できない。

「ラボの人間が不利益にならないようにね」

 クレメッティは答えたが、やはりエルネスティには理解できない。研究者は見えているものが違うのだと、元々研究者ではないエルネスティは思う。何か独自の考えがあるのだということは感じ取れた。

「不利益ですか……」

 エルネスティは語尾を濁した。命令に従うことが不利益になるのか。あるいは命令に背くことが不利益になるのか。それともまったく別の何かがあるのか。

「あなたのところは後方支援でしたね。支援を要請することもあると思うので、その時はよろしくお願いします」

 エルネスティの第二ラボは自然科学が専門なので、今回の件では具体的な指示は出ていない。それで他のラボの支援に回ることとなった。

「はい、お力になれるように善処します」

 当たり障りのない会話を交わして、二人はそれぞれの研究所に帰っていった。

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