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クレメッティは注意深く、それでいて周囲の者たちに気づかれないように、総統ヴィルヘルム・サルメンハーラを観察していた。
ロイネがパウリを殺害してから数日が経つ。パウリの所在は依然行方不明とされていた。
そんな中、議題不明の会議が緊急開催された。会議参加者には総統ヴィルヘルム・サルメンハーラが含まれている。それはロイネを不安にさせた。何かが動き出すのではないか。そして、それはパウリ殺害と関連があるのか。
そんなロイネの心中を知っているかのように、クレメッティはヴィルヘルムを観察していた。
会議の冒頭では、第三ラボの研究者ユレルミ・ニスラが研究成果を発表した。第三ラボに所属しているが、クレメッティは研究の詳細を把握していない。
ユレルミが研究していたのは先進波だ。爆発に巻き込まれて五年前に死亡した研究者の後を引き継いでいる。先進波とは簡単に言えば時を遡って過去へ向かう波のことだ。その波を任意の物質で構成して、過去へ送ることができないか研究していた。
その研究の第一段階として、先進波に任意の信号を含ませることに成功したというのだ。つまり、過去に情報を送ることを可能にしたということになる。
「実験に成功したということですが、その実験は本当に信用に足るものなのですか?」
第一ラボ所長のマイオニ・ハンネスが疑いの目を向ける。研究の内容から、第三ラボより第一ラボの方がふさわしいと思っている。その反発も含まれていた。前任者の解任で急遽所長に就任したが、研究者は続けている。とはいえ、先進波の研究を担当したかったわけではない。
「それについてなんですが……」
ユレルミは戸惑い気味にヴィルヘルムに視線を移す。
「構わない。事実の通りに伝えたまえ」
ヴィルヘルムに促され、ユレルミは言葉を続ける。
「先日小惑星が落下しましたが、実は未来からの先進波による情報で、被害を予見することができていました」
ユレルミの言葉に会議室がどよめく。
「それは被害を防ぐこともできたということではないのか?」
「確かにそうですが、総統府とも相談してこの情報は公表しないことになりました」
ユレルミが言うと、何人かがヴィルヘルムに視線を移す。クレメッティも遠慮なくヴィルヘルムを凝視する。今なら怪訝に思うものなどいない。
「私としても苦渋の決断だった。確かに大勢を救うことができたかもしれない。しかし、この研究の実用性を示す機会でもあった。将来のもっと大きな被害を予知するためにも、今回は未来からの情報を検証することとした」
ヴィルヘルムの言葉に何人かが何かを言いたそうだったが、実際に言葉を切り出す者は一人もいなかった。クレメッティは場を見回した。
「結論としては、小惑星の落下地点、被害者数が先進波による情報と一致していました。これで実用性も証明されたのではないでしょうか」
ユレルミは表情を変えずに淡々と言ったが、何人かの者はあからさまに不快感を表情に出した。大勢の犠牲を出しながら研究の成果を誇っているように感じたのだろう。
(実用性は証明されていないのではないか?)
クレメッティは思った。もともと先進波には懐疑的だ。言いたいことはあったが、ここでの発言は控えることにした。これが本題とは思えない。この後で本題が語られるのだろう。そして、それは先進波と関連があるはずだ。
「さて、今日集まってもらったのは、このことに関連することだ」
副総統サムリ・タイメラが切り出す。この会議の議長を務めている。総統と副総統が顔を並べていたので、この会議がかなり重要であることは誰にも想像できた。
「小惑星の落下を知らせた先進波による通信。それが新しい情報を伝えてきたのだ」
サムリは一旦言葉を切って一同を見渡す。場は静まり返っていた。
「今から一〇年後。我々は大きな危機を迎える。それに対処するためにこうして集まってもらった」
「何が起こるのですか?」
第二ラボ所長のエルネスティ・アランコが早口で言う。まるで勿体ぶるなと言うかのようだ。
「ガレオマレニ第三惑星から一〇〇隻を超える戦艦が攻めてくるのだ」
サムリの言葉に会議室が静まり返った。サムリの言葉を飲み込めていない。
「……それでどうなるのですか?」
しばらくの沈黙の後、エルネスティが口を開く。
「そのあとは伝わっていない。連絡が途絶えたのかもしれん」
再び会議室が静まり返る。連絡が途絶えたということは壊滅的な被害を受けたのではないか。先進波による通信設備が破壊されたと考えるものはいなかった。
「どのように対応するかは決まっているのですか?」
クレメッティが訊く。
「先手を打つ。こちらから攻撃を仕掛けることに決定した」
サムリは答えながら軍の総帥に視線を送る。総帥は無言で頷く。少なくとも軍と連携は取れているようだ。




