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5-8

 ロイネは自室に戻った。あの部屋の近くにも人はおらず、自室に着くまで誰とも遭遇することはなかった。あの区画をロイネが通ったという目撃者は作れなかったが、クリスタの部屋からの帰りに通ったことは主張できる。厳密にいうと最短な道順ではないが、かといって不自然というほどでもない。

(さて、所長は何を知っているかだ)

 どのように聞き出すかロイネは考えた。ロイネがパウリのことを話題にするのは不自然だ。あの区画についても同じだ。話の流れでうまく誘導するしかない。

(調査を手伝うと言ったらどうか?)

 総統の監禁を調べているのなら断られるだろう。クレメッティがロイネを巻き込むことは考えにくい。

(いや、優先すべきは私自身の身の振り方か)

 パウリの死体が発見されれば、痕跡からロイネに辿り着く可能性はある。そうなった場合にどうするか考える必要がある。いや、そうなる前に行動しなければならないのではないか。包囲されてからでは逃げることもできない。

(今のうちに身を隠した方が良いか?)

 ロイネの目的からは遠ざかってしまうが命には変えられない。

 考えた末に、死体が発見されるまでは動かないという結論に達した。見つかるまでそれほど時間はかからないと思うが、それまで疑われることはない。

 ただし、その間に準備は必要だ。

 ロイネは第三ラボの入退出記録を調べた。秘匿される記録もあるが、ロイネならそれも含めて参照可能だ。現時点ではラボに所属している者以外は施設内にいない。もちろん、その中に仲間がいる可能性はある。

 人の出入りはないようだが荷物の出入りはどうか。中身の確認まではされないが申告は必要だ。申告された内容も記録される。対象者によっては秘匿されることもあるが、やはりロイネならその情報も参照可能だ。

(死体を運び出した形跡はないか)

 それは想定通りのことだった。運び出すのはリスクが高い。しかし、施設内に保存しておけるような場所はない。他のラボであれば低温保存可能な施設もあるが、第三ラボにはそのような設備はない。死体を常温で置いておくのは難しい。数日のうちに運び出すか、低温保存可能な装置を運び込むしかない。あるいは大量の氷や保冷剤を継続して運び込むか。

(動きがないのもかえって動きづらいな)

 ロイネはもどかしく思った。逃げなければならなくなった方が動きやすい。しかし、相手が動くのを待った方がいいだろう。

 ロイネは入退出記録をさらに遡って調べた。気になったのは半年ほど前だ。情報局からピエタリ・ランタサマリが出向してきたが、同時に大量の荷物が運び込まれている。政府管轄の研究ということで、具体的に何が運び込まれたかまでは記録されていない。秘匿されているのではなく、情報そのものが記録されていない。

 疑わしいのは、荷物の総量に対して作業員が圧倒的に少ないということだ。これは知られたくない荷物ということではないのか。政府の機密ということも考えられるが、それならここである必要はない。国の施設とはいえ政府が直接管理している訳ではない。機密であれば、政府が管理している施設の方がふさわしい。軍の情報局が絡んでいるのなら、軍の施設、それこそ情報局の方がふさわしいのではないか。

(この荷物の量ならあの装置も可能だろう)

 あの装置というのは総統を監禁していた水槽だ。

 荷物の動きからわかったことはもう一つある。荷物の中身を不問にされたということは、取り扱った者がそれなりの地位の人間ということだ。情報局の職員では不可能だ。たとえ荷物を運搬した者たちが無関係だったとしても、パウリが単独で行った可能性はほぼなくなった。

(やはり、死体が見つかるのは時間の問題だな)

 ロイネは改めて思った。今後も人や物の出入りを監視するために、ロイネは記録を監視するプログラムを仕掛けた。もちろん、誰にも気づかれないように監視可能だ。あわせて、施設内の人や物の動きも、可能な限り監視できるようにした。しかし、監視カメラのようなものは限られているので、こちらの方はあまり期待できなかった。

 それから数日後、軍の情報局からパウリの所在について問い合わせが入った。パウリの姿が見えないということで、関係先にひと通り連絡しているようだ。

(まだ見つかっていない?)

 ロイネは胸騒ぎがした。パウリに仲間がいるのは間違いない。パウリからの連絡は途絶えているはずだ。それであれば確認するのではないか。

(ほかの仲間はここに来る正当な理由を作れない?)

 考えられないことではないとロイネは思った。

(情報局からの出向者は仲間だろうか?)

 仲間だとすれば死体を発見している可能性が高い。しかし、仲間でないとすれば発見していないかもしれない。その場合、情報局には仲間がいない可能性が高くなり、死体がまだ発見されていない可能性も高まる。

 ロイネは確認したい衝動に駆られたが思いとどまった。罠という可能性もある。死体を確認に来る者を待っているのかもしれない。それであれば、まだロイネのことを疑っていないことは考えられる。あるいは疑っているが、はっきりとした確証がないのか。いや、疑う理由があるのなら確証など必要ないだろう。目的はわからないが、総統を監禁するような者たちだ。無関係な者に危害を加えるのも平気だろう。

(まだ慌てる段階ではないな)

 用心が必要だとロイネは気を引き締めた。

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