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5-6

「ここで何をしている?」

 パウリが言う。質問している訳ではない。

(殺すつもりか? それとも捕まえるのか?)

 ロイネはパウリの様子を探る。面識はないが情報局で何度か見かけたことがある。職務上は銃を携行していることはないが、この状況であれば持っている可能性はある。

 仲間の存在も気にしなければならない。パウリが単独で総統を拘束しているとは考えられない。近くにいるかどうかは不明だが備える必要はある。

「なぜ総統を拘束しているの?」

 答えないだろうことはロイネもわかっている。次の行動を決める時間稼ぎだ。

「答える必要はない」

「これは液体爆薬ね。底にあるのは重量の変化を感知する起爆装置かしら?」

 確信を持ってロイネは言った。

 総統を救い出すためには、手足を拘束している鎖を切断しなければならない。しかし、切断する器具を液体爆薬に入れれば、重量が変化して起爆装置が作動する。先に起爆装置を解除するには床下からになるが、おそらく床下にも何らかの仕掛けがあるだろう。重量が変化しないように、液体爆薬を吸い上げながら救い出す選択肢しかないのではないか。そのためには、総統を拘束した者を全員確保する必要はあるだろう。

(総統を救い出すのは困難だな)

 ロイネは考えたが救出したい訳ではない。

「さすがに鋭いな。下手に助けようとすれば総統は死ぬことになる」

 パウリが答える。隠す必要はない。

「私には関係のないことだわ」

「そうだな。今のお前はこれから自分がどうなるかが心配だろうな」

 パウリはうっすらと笑みを浮かべた。ロイネが嫌いな笑い方だ。

 ロイネはパウリとの距離を測っていた。七、八メートルといったところか。

(もう少し近づいた方がいいか)

 ロイネの背後には水槽がある。仮に強化ガラスだとしても、銃を発砲するのは躊躇するのではないか。しかも、まだ銃を構えてはいない。

「私を殺すの? それとも捕まえるのかしら?」

 ロイネは少しずつ前に進む。パウリの顔から笑みが消える。

「何のつもりだ?」

「まだ銃を構えていない。ここでは撃てないのかしら? なら、首を絞めるの?」

 パウリは狼狽えた。今まで人を殺害したことはない。ロイネをどうするか迷っていたのは、むしろパウリの方だった。このまま逃すわけにはいかないが、かといって殺すこともできない。捕まえて誰かに相談するしかなかった。

(ここからなら)

 ロイネは走ってパウリに飛びかかろうとした。不意を突かれたパウリは、咄嗟に伸ばされたロイネの手を右手で払おうとした。

 それはロイネにとっては好都合だった。パウリの右手を両手で掴むと、ロイネは手から電流を流しんだ。

 ロイネも電場と磁場を操る能力を有している。人を気絶させるほどの電流も、自らの体で発生させることができた。死に至るほどの電流を発生されることも可能だとロイネは考えていた。自分の命をも脅かすことなので試したことはないが。

 パウリの体が崩れ落ちるのを確認すると、ロイネは電流の放出を停止した。

(さて、コレをどうするか?)

 このままにしておくわけにはいかない。運び出すのは困難な上に見つかる危険性がある。

(殺すしかないか)

 能力を知られている。総統の件と交換条件で口を噤ませることも可能かもしれないが、それでも能力を知られては生かしてはおけない。

 ロイネはパウリの所持品を調べた。銃などの殺害に使えるようなものは持っていなかった。

 パウリがここに来たのはロイネの侵入に気づいたからではない。情報局からの出向者の研究室がこの区画にある。その出向者から受け取るものがあったからだ。目的の研究室に行く途中で、この部屋の扉に開いた形跡があるのに気づき、念のために中を確かめに入ったのだった。

(何度経験してもあまりいいものではないな)

 ロイネはパウリの首に手を当てると、ゆっくりとその手に力を込めていく。

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