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4-12

 

 ヒルダが姿を消したことは、すぐに志津から亜希子に伝えられた。亜希子にというよりは、亜希子経由で茉唯に対してだ。合わせて、ヒルダからのメッセージを郵送することも伝えられた。

「いなくなった?」

 祐輔が聞き返した。茉唯が自分の部屋に行ったのを確認して、亜希子はヒルダがいなくなったことを祐輔に話した。

「そうなの。家に帰ったらしいんだけど」

「家に? 帰れたのか?」

 祐輔は首を傾げる。

「それはわからないけど、帰るって書き置きが残ってたって」

「……大丈夫なのかな? 帰りたくなかったんじゃないのか?」

 祐輔の言葉は独り言に近い。

「私に訊かれてもわからないわよ。おばあちゃんの話だと、良く出歩いていたみたいだから家の様子を見ていたんじゃないかって」

「歩いて行ける距離に家があったのか?」

 祐輔は納得がいかない。そんなに近ければすぐに見つかっていたのではないか。

「それもわからないわよ。別荘でもあったんじゃないの?」

「別荘ねえ……」

 やはり腑に落ちない。

「五年もいたんだから今さら嘘をついていなくならないんじゃないの?」

「それもそうだけど……」

「信じてあげるしかないんじゃないの? まさか探すわけじゃないでしょう?」

 亜希子は顔を顰めたが、いくら祐輔でもそこまでするとは思っていない。

「探しはしないけど帰って大丈夫なのかなと」

「そうね。本人は帰っても大丈夫と思っても家族がどう思うかね」

 祐輔の言葉に亜希子も同意した。

「それに……」

 祐輔は言葉を切る。

「それに?」

「あの子は茉唯と比べても小さかった。家族がそれをどう思うか」

 確かにヒルダは茉唯と比べて小さかった。茉唯は平均より少し小さいくらいだから明らかに小さい。アルマセレルの人間の成長速度のせいなのだが、そのことは祐輔も亜希子も知る由のないことだった。そもそもヒルダは年齢からして茉唯とは違う。

「まさか虐待されていたとは思わないでしょう。そんなことしていないし、そんなふうにも見えないわ」

「おばあちゃんの食事を食べていたんだから栄養も大丈夫だとは思う。だから、勝手に家に置いていた以外はこちらに落ち度はないだろう。でもトラブルの可能性は否定できない」

 祐輔は真剣な表情で言った。

「……あの子が無事に帰っていたとしても、まだ完全には安心できないってことね」

「ああ。それで茉唯には?」

 祐輔は茉唯の部屋の方に顔を向ける。

「まだ伝えてないわ。メッセージが届いた時に一緒にと思って」

「そうだな。それがいい」

 二日後に郵便が届き、学校から帰ってきた茉唯に、亜希子はヒルダがいなくなったことを伝えた。

「嘘っ――」

 ヒルダからのメッセージを見つめながら、茉唯は表情をこわばらせた。唇を噛み締めたまましばらく動かない。

「茉唯……」

 亜希子の言葉は茉唯の耳に届かなかった。

「……なんで急に……」

 呟いた茉唯の肩に、亜希子は優しく手を添える。

「……帰れてよかった……」

 精一杯の笑顔で顔を上げた茉唯の瞳には涙が溢れていた。嬉しいのか悲しいのか、亜希子にはわからなかった。

 ヒルダからのメッセージを手に、茉唯は自分の部屋に逃げるように向かった。

 部屋に入りもう一度メッセージを見る。そこには拙い文字でこう書かれていた。

『いえかえる だいじぶだからしんぱしないで』

 その文字の上に涙の雫が落ちる。

(ヒルダ……元気でね)

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