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4-11

 春休みも終わりに近づき茉唯は家に帰っていった。

(さて、どうするか?)

 ヒルダはスマートフォンをどうするか考えていた。茉唯がいる間はすぐにでも入手したいと考えていたが、すぐには動けないと考え直した。

 誰かのスマートフォンを盗めば、当然いつかは紛失したことに気づく。すぐに気づくかもしれないししばらくは気づかないかもしれない。しかし、すぐに気づかれることを想定した方が良いだろう。

 捕まることを恐れているわけではない。見つかっても逃げ切る自信はある。心配なのは身元が割れることだ。アルマセレルのことではなく、宗和の家にいることを知られたくない。

 奪ったスマートフォンを利用できる時間は限られている。何度も繰り返すことになるだろう。宗和の家の近所で繰り返すわけにはいかない。かといって不審に思われてしまうので、長時間の外出はできない。もっとも、徒歩移動なので移動距離はあまり見込めない。周辺の地理も把握できていない。

(すぐには動けないか……)

 ヒルダはもどかしく感じた。早くに宗和の家という滞在場所が見つかったが、生きる術についても考えておくべきだった。そうすればいつでも宗和の家を離れられた。

(これからはこの星で一人で生きていく方法も考えなければ)

 住むところはなくても良いと考えていた。あった方が良いが宗和のように住まわせてくれる者は滅多にいない。しかし、暑さと寒さを凌ぐ方法を考えなければならない。アルマセレルでヒルダが住んでいた場所は、一年を通して比較的過ごしやすい場所だった。それに比べると一年の気温差がかなり大きかった。

 一番重要なのは食料だ。多少なら貰うことも可能かもしれないが、やはりこれも盗むことになるだろう。日本の法律を理解してはいないが、捕まるようなことをしなければ生きていけないことを覚悟した。

(捕まるわけにはいかない)

 ヒルダの場合は捕まったら厄介だ。能力を見せれば普通の人間ではないことは伝わるだろう。しかし、それで別の星から来たことが信用されるのか。信用されたとしてもそのまま解放されることはないと思われる。そうなると、やはり別の星から来たことは伏せた方が良いのか。その場合も身元を証明できないので解放はされない。つまり、捕まってしまえばその後はどうなるかわからない。

(ここを出たらできるだけ離れた方がいいな)

 宗和たちを巻き込むのは避けたいとヒルダは思った。

 それからのヒルダは言葉や情報だけではなく、この星での生活の仕方も注意深く観察するようになった。いずれは宗和の家を出る。その後は誰にも頼れない。いや、頼ってしまっては駄目なのだ。自らの手で道を開かなければ惰性で生きているだけになってしまう。アルマセレルに帰れなくても、そんな生き方はしたくなかった。

 その翌年の七月のある夜、ヒルダは覚えのある電磁波を感じ取っていた。

(これは……まさか)

 それはアルマセレルのセンサーのものと同じだった。偶然かもしれないが、少なくともこの星に来てから一度も感じ取ったことはない。

 ヒルダは意識を集中して発信元を探る。海の方角だ。家を抜け出して用心しながら海の方へ向かう。ヒルダにアルマセレルでの惑星調査の詳しい知識はないが、一番最初に調査対象の惑星に進入するのは無人探査艇だ。注意すれば様子を伺うことは可能と判断した。目視できるほどの距離には近づけなくとも、ヒルダの能力である程度の情報を得ることができる。

 センサーの発信元はやはり無人探査艇だった。海岸から四キロほど離れた海上にその姿はあった。肉眼では見えない。

(ここに来たのは偶然か? それとも)

 ヒルダが気にしているのは着水地点だ。ヒルダの存在を捕捉しているのか。しかし、それは考えにくい。

 では偶然か? まったくの偶然とも思えない。何らかの根拠があると考える方が自然だ。

(メジスラナクア……)

 ヒルダはそう考えたが、それでも宇宙空間からの捕捉は困難ではないかと思う。しかし、それが一番納得できる答えでもあった。ヒルダ自身もメジスラナクアはこの海のどこかに沈んでいると考えている。

 ヒルダが対応を考えていると、無人探査艇は海中に潜っていった。

(メジスラナクアを見つけたのか?)

 発見したから潜水したのか、それとも探索するために潜水したのか。ヒルダには判断がつかなかった。しかし、いずれにしてもヒルダ自身は捕捉されていないと確信した。いや、捕捉しているが後回しの可能性はある。

(多少の余裕はあるな)

 ヒルダは一旦宗和の家に戻った。紙とペンを探して、拙い文字を書き記す。宗和や志津、茉唯への伝言だ。特に茉唯は心配させたくない。宗和と志津にも感謝している。黙って出ていくことはできなかった。

 伝言を書き終わると、ヒルダは玄関から外に出る。戸締りできないことが少し気がかりだ。

(マイ……元気でね)

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