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4-10

 ヒルダが地球にたどり着いて四年間が経過した。

 小学五年生になった茉唯は、この春休みも宗和の家に遊びに来ていた。

「それは?」

 ヒルダが茉唯に訊く。

「スマートフォン。ついに買ってもらったの。ヒルダにも使い方を教えてあげるね」

 茉唯が嬉しそうに答える。

 ヒルダにとっては待ちかねていたものだった。スマートフォンが通信機器であることをヒルダは理解している。茉唯の物なので使うことはできないとしても、多少は知識を得ることはできるだろう。

「ほかの人に使われたりしないの?」

 ヒルダが気にしているのは他人の物を入手して使用できるかどうかだ。

「顔認証があるから大丈夫だよ」

「顔認証……」

 ヒルダは低く呟いた。解除するには相当な時間がかかるだろう。

「暗証番号もあるけどね」

「両方必要なの?」

 だとしたら更に時間がかかりそうだとヒルダは思った。

「ううん、どちらか片方だよ。電源を入れた時は暗証番号が必要だけど」

 茉唯の言葉にヒルダは少し安堵した。時間がかかるのは変わらないが顔認証よりは短縮できる。

「誰かに持っていかれちゃったらどうするの?」

「えっ?」

 茉唯は不思議そうな表情でヒルダを見た。さっきから質問が少しおかしい。

「大切な物でしょう。なくしたら大変だなと思って」

 ヒルダは誤魔化そうとする。茉唯のスマートフォンを奪うつまりはないが、勘違いされることは避けたい。

「探す機能があるから大丈夫だよ。お父さんかお母さんのスマホ……スマートフォンで探してもらえるよ」

 茉唯はヒルダにはできる限り正確に話そうとしている。

「それなら安心だね」

「電源が入っていないと駄目だけどね」

 ヒルダのおかしな質問が終わると、茉唯はスマートフォンを使ってみせた。

 茉唯のスマートフォンにはSNSやゲームは入っていない。禁止されているのではなく、それらに興味がないからだ。茉唯の両親もそれを知っているから強制はしていない。

 茉唯はヒルダに、電話やメッセージ、ブラウザに地図などを見せた。祐輔が電話とメッセージの相手をさせられた。ブラウザでは検索履歴に賎機焼(しずはたやき)や森山焼などが並んでいた。宗和はそのどちらでもないのだが。

 ヒルダは特にブラウザに興味を持った。情報を得られることはヒルダにも理解できる。問題なのは、文字があまり理解できていないことだ。言葉ではわかっても文字にできない。もっとも理解している言葉自体がまだ少ない。音声入力もできるが、茉唯が普段使っていないのでヒルダに見せなかった。

(やはり、まだまだ言葉の理解が必要だな)

 茉唯がスマートフォンを操作するのを見ながら、ヒルダは別のことを考えていた。見せてもらったものについては大体理解できた。電話やメッセージは当面の間使うことはない。

 問題は入手してから使うまでた。二つの障壁がある。

 一つは認証の解除。これはヒルダの能力を使えば、時間を短縮することは可能だろう。実際に何度も入力して試す必要もない。もっとも、何度も試していたらロックがかかってしまうが。

 問題なのは、解除するまでは位置が特定されてしまうということだ。認証を解除しなければ機能を停止することができない。

(電波を遮断できれば回避可能ではないか)

 アルマセレルにもGPSのようなものはあるが、スマートフォンでどのように位置を特定しているかは、ヒルダにはまだ理解できていない。しかし、電波を利用しているだろうことは想像できた。

 電波を遮断している間に暗証番号認証を解除して探す機能を停止する。その後は通信を再開すればしばらくは利用可能だろう。通信経路からおおよその場所を絞り込むことも可能だろうとヒルダは推測した。また、通信回線を遮断される可能性も考えた。紛失したことに気付けば、探したり利用を停止することは容易に想像がつく。しかし、具体的にどのようにするのかはわからない。

(利用できる時間は限られると考えた方がいい)

 ヒルダはこの考えが正しいのか試してみたいと思った。しかし、茉唯のスマートフォンで試すわけにはいかない。失敗して壊してしまったら茉唯に申し訳ない。

(茉唯が帰ったらどこかで試してみよう)

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