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4-5

 夏休みのおよそ一ヶ月の間、茉唯は宗和の家で過ごした。もちろん、そのほとんどの時間をヒルダとともに過ごしている。まだまだぎこちないが、会話も多少はできるようになっていた。

 亜希子に言われた通り、茉唯はヒルダと一緒に夏休みの宿題を終わらせた。国語や社会は、ヒルダにとってはまったくの未知の世界だった。アルマセレルも一般的には十進数なので、算数については言葉さえわかればすぐに理解できた。理科についても同じで、言葉さえわかれば理解できた。小学校でも高学年になれば、アルマセレルには存在しない物質なども出てくるかもしれないが。

「どうしたの?」

 茉唯がヒルダに言う。茉唯とヒルダは近くの林の中にいる。ヒルダは木の幹をじっと見ていた。

「あっ、カブトムシだね」

 茉唯が教える。ヒルダの視線の先にはオスのカブトムシがいた。

「カブトムシ?」

 アルマセレルにも虫は生息しているが、甲虫目のようなものは生息していない。

「そう、カブトムシ……あっ」

 茉唯は何かに気づいて周りの地面を見渡す。一箇所に目を止めてそこへ近づくと、地面を手で掘り始めた。数日前に掘り返した場所なので土が柔らかい。掘り返したのは陶芸に使えないかと思ってのことだが、その辺りの土は陶芸には適していなかった。

「いた、いた」

 茉唯は何かを手に取ってヒルダの元に戻る。

「これが……こうなるんだよ」

 茉唯はヒルダに教えたが、茉唯の手のひらにいたのはコクワガタの幼虫だった。数日前に掘り返した時に見つけていたのだ。

(生き物なのか)

 ヒルダはそう理解した。見たことがないものだったので判断しかねていた。人工物であれば警戒する必要がある。もっとも、偽装している可能性もあるので、必ずしも安心できるものではない。しかし、ヒルダの能力で探っても、警戒すべき対象とは感じられなかった。少なくとも電波を発している様子はない。情報を蓄積するものでもなさそうだ。

 ヒルダが警戒しているのはこの星の監視網だ。明確な監視カメラ以外でも監視されることがあるのではないか。

 もちろん、地球上にヒルダの正体を知る者はいないだろう。ヒルダとして捕捉されることはないが、身元不明者として捕捉されることがないか。ヒルダはそれを警戒している。しかし、その可能性があまり高くないだろうということも感じていた。この星で全ての人間が監視カメラによって識別可能とは考えていない。セキュリティが高い施設などではない限り個人が特定されることはないだろう。つまり、少なくともこの付近にいる限り、ヒルダの存在自体を不審に思われることはない。気をつけるべきは今までに姿を見せてしまった者たちだけだ。とはいえ、看護師と巡査以外ははっきりと覚えていない。姿を見られないように気をつけることは、これからも続けなければならない。

(今度見つかったらどうなるだろうか?)

 またどこかへ連れて行こうとするだろうか。身元不明者が連れていかれる場所といえば想像がつく。看護師が連れて行こうとしたのは診療所だが、ヒルダはそれを知らない。もっとも、その後で警察に連れていくつもりではあったが。

(身元を調べようとしてもわかるはずもない)

 その場合どうなるだろうか。身元がわかるまで拘束されるか。それはつまり解放されないことになる。地球ではヒルダの身元はわからない。

(やはり姿を見られることは極力避けなければならない)

 ヒルダは改めてそう思った。

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