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ヒルダは志津の家事を積極的に手伝って、自分の居場所を作っていた。ヒルダにとって宗和の家は必ずしも居心地のいい場所ではない。しかし、ほかに居場所がないことも確かだ。新しい拠点を作るためにも、その足掛かりとなる場所を確保しておきたい。
家事は得意ではなかった。その上アルマセレルとは勝手が違う。最初はぎこちなかったが、器用なこともあり次第に卒なくこなすようになってきた。ただし、志津とともに外出することはなかった。
それについては、家の中のことをよくやってくれていることもあり、宗和も志津も何も言わなかった。もっとも、体の小さいヒルダに荷物を持たせるつもりはない。買い物などに連れて行っても同行するだけになる。それであれば無理に連れて行く必要はなかった。
また、ヒルダは熱心に宗和に陶芸を教わっていた。ヒルダとしては宗和の信頼を得ることが目的だったが、宗和にとってはヒルダの感性が良い刺激になっていた。
「ヒルダ、ちょっと来てくれるかしら」
居間でテレビを見ていたヒルダに志津が声をかけた。ヒルダはできるだけテレビを見るようにしている。情報端末がないのでテレビは唯一の情報源だ。言葉はまだ大部分が理解できないため、内容はほとんど理解できていない。それでも情報を得るために見続けていた。テレビのおかげで理解できたものも多少はある。
宗和と志津はそんなヒルダを優しく見守っていた。それはヒルダも感じていた。茉唯が帰ってからしばらくは不安に苛まれたが、今はあまり不安はない。下手なことをしなければここにいられることを確信していた。しかし、それにただ甘えているわけにはいかない。これから先どうするか。アルマセレルに帰るのであれば、このままでは何も前進しない。それ以前に帰れるかどうかもわかっていない。
(今は足元を固めなければならないな)
ヒルダは志津がいる台所に向かう。
「そこにある玉葱の皮を剥いてくれる」
「ワカッタワ」
ヒルダはテーブルに置いてある玉葱の皮を剥き始める。このくらいの会話であればできるようになっていた。
料理の中では簡単なもののみ、志津はヒルダに任せるようにしていた。小学校低学年くらいに思っているので、志津はヒルダに包丁は持たせない。
ヒルダはアルマセレルで料理の経験はなかった。アルマセレルの食生活のせいというのもあるが、ヒルダにとって食事は栄養補給でしかない。そのために時間を使うのは無駄だと考えていた。しかし、今は少しずつ料理も悪くはないと思い始めていた。心にも余裕が出てくる。この星の情報を得ることだけに集中しなくてもいいのではと思い始めていた。
アルマセレルからヒルダを迎えに来る者などいないだろう。ただし、連れ戻そうとする者はいるかもしれない。その場合、アルマセレルに戻っても良い扱いを受けるとは思えない。あんな方法でアルマセレルを脱出した時点で、簡単には帰れないことは覚悟していた。目的とは違う星に来てしまったが、ここから本来の目的地に行けるかは不明だ。少なくともヒルダ一人では限りなく不可能に近い。それであれば、この星に順応しつつ機会を伺うくらいの心づもりで良いのではないか。ヒルダはそう考えるようになっていた。
心残りなのは、本来の目的を果たせないということだ。アルマセレルを離れたい理由があったとはいえ、簡単にはアルマセレルに帰れない覚悟を決めたほどの目的だ。まだ完全に諦めたくはない。
(果たしてこの星にキリスアベルまで行ける宇宙船があるのだろうか)
ヒルダは疑問を感じていた。数日前にテレビで観たSF映画。宇宙船はもちろん、施設も含めて明らかに作り物とわかった。作り話なのだからというのもあるが、現実に存在しているものをモデルにしているように思えなかった。
(宇宙船どころか宇宙船の技術もないかもしれない)
そう断定することが早計であることはヒルダも理解している。まだこの星のことをほとんど理解できていない。あくまでも印象でしかない。調査が進めばはっきりするだろう。その調査も少しずつ進めれば良い。キリスアベルに辿り着いていたとしてもそれは変わらない。目的が完全に異なってしまったが、未知のものを調査することは、ヒルダにとって嫌いなものではない。ただし、調査する手段、つまりメジスラナクアを失ったことだけが悔やまれる。
(あるいはアルマセレルからやってくる者がいれば)
そうも考えたが、アルマセレルから来る者がいれば、それはヒルダの味方である可能性は低い。しかし、わざわざ殺害するためだけに来ることはないだろう。アルマセレルに帰れる道は開ける。アルマセレルに帰れさえすれば、その先は改めて考えれば良い。




