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第四章 姉と妹

 茉唯が通う小学校が夏休みを迎えた。茉唯は陶芸家の曽祖父である宗和の家に、泊まりに行く準備をしていた。

 母親の亜希子は、茉唯が宗和の家に行くことに最初は難色を示していた。ヒルダがまだ宗和の家にいることを知っているからだ。祐輔が伝えたので茉唯もそのことを知っている。だから余計に茉唯は宗和の家に行きたがっている。

 亜希子は茉唯をヒルダに会わせたくない。

「おじいちゃんは何を考えてるのかしら」

 祐輔は亜希子のこの言葉を何度も聞いている。最初は毎回苦笑していただけだが、このままで良いとは思っていない。いずれは親元に返さなければと思っている。ヒルダの親は地球にいないのだが、祐輔がそれを知る由はなかった。もっとも、アルマセレルにもヒルダの両親はいない。

 ヒルダには父親はいない。ヒルダの母親は、ロイネとヒルダを人工授精で出産している。血縁上の父親は存在していたが、ヒルダの母親に殺害されている。そして母親も、ロイネとヒルダが物心つく前に、信頼できる知人に二人を託して自殺している。母親にはそうする理由があった。

「まだ親元に返すのは早いと考えているんだろう。ずっと預かっておけないことくらいわかっている」

「そうかもしれないけど、家族が騒いでいたら後々面倒よ。そんなのに巻き込まれたくはないわ」

 亜希子の心配はもっともだ。すでに三ヶ月以上が過ぎている。家族がいれば騒いでいるはずだ。普通なら今ごろは大騒ぎだろう。警察沙汰になっていてもおかしくない。

 それは祐輔も考えていた。ヒルダの存在が知られていれば何らかの動きがあるはずだ。その動きがないのは何故か。ヒルダの存在を知られていないだけなのか。それとも家族が何も動いていないのか。その場合、家族が動かない理由は何か。子供を捨てた、あるいは捨ててはいないが不要なのか。不要だから探そうとしない。

「果たして家族は探しているのかな?」

 祐輔が呟く。

「え?」

「いや、家族が探しているのなら、とっくにあの子に辿り着いてるんじゃないかな」

「誰にも見られないようにしてるんじゃないの?」

 亜希子は宗和がヒルダを隠していると思っている。実際にはヒルダが隠れているのだが。

「あの子も隠れようとしているのかもしれない。じゃなければ今まで見つからないこともないだろう」

「そういえばあなた、最初にあの子を見た時に捨てられたのかもと言ってたわね」

「ああ、捨てたのなら家族が探そうとしないのも納得できる。あの子も捨てられたのがわかっているから、家に戻されないように隠れているのかもしれない」

 祐輔の言葉を聞いて、亜希子はヒルダが海で助けられたことを思い出した。海に投げ込まれたとすれば帰りたくないのも無理ないのではないか。宗和もそう思っているからこそ、ヒルダを警察に知らせていないのか。

「もしそうなら可哀想ね」

「そうだな。その可能性を考えて、おじいちゃんは家に置いているのかもしれない」

 祐輔も亜希子と同じように考えていた。もっとも、今後どのようにすべきかは二人とも考えていない。本来なら戸籍などをどうするか考える必要があるのだが、祐輔も亜希子もそこまで考えが至っていなかった。戸籍が不明なまま生きていくのは大変だろう。仕事を得る事も難しい。そのために戸籍をはっきりさせる必要がある。それには、やはり家族と連絡を取らないわけにはいかない。

 しかし、ヒルダは地球の人間ではない。戸籍もなければ親族もいない。警察に知らせたところで、その先はどうする事もできない。ヒルダは何も話せない。言葉を理解できていない事もあるが、理解できたとしても話すことはない。いや、本当のことを話したとしても誰も信じないだろう。仮に信じたとしても対処しようがない。つまり、結果的にヒルダにとって都合がいい状況になっていた。

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