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4-3

 祐輔は亜希子とともに、茉唯を連れて宗和の家にやってきた。

 亜希子と茉唯を宗和の家に預けると、祐輔は一人で漁港へ向かう。ヒルダについて情報を得るためだ。とはいってもどのようにするのかは考えていない。誰かに訊くとしてもどのように訊くのか。

 考えていると、診療所の近くで医師と看護師を見つけた。往診からの帰りのようだ。以前、茉唯が熱を出して世話になったことがあるので、看護師には見覚えがあった。診察室の中には亜希子が付き添ったので、医師とは面識がなかった。

「こんにちは」

 祐輔が二人に挨拶する。

「こんにちは」

 医師が応える。

「こんにちは。えっと……確か」

 看護師は祐輔を思い出そうとしているようだ。

「榧野茉唯の父です。以前、茉唯が熱を出してお世話になりました」

「ああ、あの時の」

 看護師は思い出した。

「ひとつお聞きしたいことがあるのですが」

「わたしにですか?」

 看護師は首を傾げた。

「はい。お時間は取らせません」

「私は先に診療所に戻るよ」

 医師は看護師に言うと一人で診療所に向かった。

「なんでしょう?」

 医師を見送ってから看護師が祐輔に向き直る。

「以前、茉唯と同じ年頃の金髪の女の子を助けたと伺いましたが」

「はい」

 看護師は短く答える。

「逃げだしたとのことでしたが見つかったのでしょうか?」

 祐輔が言うと看護師は複雑な表情をした。見失ってしまった罪悪感と、祐輔がなぜそれを訊くのか理解できない感情が入り混じっている。

「見つかってはいませんが、たぶん家に帰っていると思います」

「帰っている?」

 看護師の言葉が祐輔には理解できなかった。ヒルダは宗和の家にいるのに、帰っているというのはどういうことか。

「いえ、確認できたわけではないんですけど、笹井さんが言うには行方不明者に該当者はいないようで……」

「笹井さん?」

 祐輔の知らない名前だ。

「駐在所の巡査です。笹井さんが言うには、行方不明者には該当者はなく、誘拐も発生していないようです」

「誘拐?」

 なぜ誘拐が出てくるのか祐輔にはわからない。

「誘拐された子供が離れた場所で解放されることもあるみたいで……」

 看護師は少し不安げに説明した。このことを充分に理解しているわけではなかった。

「そういうことか……」

 祐輔は今まで誘拐の可能性を考えていなかった。もっとも、誘拐されたのであれば、やはり家には帰りたがるはずだ。祐輔はそう考えて、誘拐の可能性は頭の中で否定した。

「……いや、下田では熊も出没しているので茉唯が心配で」

 看護師の視線に気づいて祐輔は誤魔化した。

「そうですね。でも女の子がいなくなったのは自分からだし、熊はこの辺りで見つかっていないので、危険はないかと思います」

 看護師は表情を和らげた。行方不明と熊を心配している父親像が伝わったようだ。

「ありがとうございました。変なことをお聞きしてしまいすみません」

 祐輔は看護師に深々と頭を下げた。

「この辺りの人は良い方ばかりなので、何かあれば助けてくれると思いますよ」

 看護師の言葉は、祐輔の胸を少し痛ませた。ヒルダを匿っているということは、その人達を騙していることになる。看護師や笹井巡査もずっと心配していたはずだ。現に笹井巡査はしばらくの間、行方不明者や誘拐事件を確認していた。その間は心配していたに違いない。いや、今だって無事だということを確信できているわけではないだろう。

(いつかはこの人たちに本当のことを言えるだろうか?)

 祐輔は一瞬そう考えたが、すぐにその考えを打ち消した。本当のことを打ち明けるには時間が経ち過ぎている。いや、早くに打ち明けてたとしても別の心配が生まれただけだ。真相を知っているのは祐輔たちだけで良い。

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