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祐輔は亜希子とともに、茉唯を連れて宗和の家にやってきた。
亜希子と茉唯を宗和の家に預けると、祐輔は一人で漁港へ向かう。ヒルダについて情報を得るためだ。とはいってもどのようにするのかは考えていない。誰かに訊くとしてもどのように訊くのか。
考えていると、診療所の近くで医師と看護師を見つけた。往診からの帰りのようだ。以前、茉唯が熱を出して世話になったことがあるので、看護師には見覚えがあった。診察室の中には亜希子が付き添ったので、医師とは面識がなかった。
「こんにちは」
祐輔が二人に挨拶する。
「こんにちは」
医師が応える。
「こんにちは。えっと……確か」
看護師は祐輔を思い出そうとしているようだ。
「榧野茉唯の父です。以前、茉唯が熱を出してお世話になりました」
「ああ、あの時の」
看護師は思い出した。
「ひとつお聞きしたいことがあるのですが」
「わたしにですか?」
看護師は首を傾げた。
「はい。お時間は取らせません」
「私は先に診療所に戻るよ」
医師は看護師に言うと一人で診療所に向かった。
「なんでしょう?」
医師を見送ってから看護師が祐輔に向き直る。
「以前、茉唯と同じ年頃の金髪の女の子を助けたと伺いましたが」
「はい」
看護師は短く答える。
「逃げだしたとのことでしたが見つかったのでしょうか?」
祐輔が言うと看護師は複雑な表情をした。見失ってしまった罪悪感と、祐輔がなぜそれを訊くのか理解できない感情が入り混じっている。
「見つかってはいませんが、たぶん家に帰っていると思います」
「帰っている?」
看護師の言葉が祐輔には理解できなかった。ヒルダは宗和の家にいるのに、帰っているというのはどういうことか。
「いえ、確認できたわけではないんですけど、笹井さんが言うには行方不明者に該当者はいないようで……」
「笹井さん?」
祐輔の知らない名前だ。
「駐在所の巡査です。笹井さんが言うには、行方不明者には該当者はなく、誘拐も発生していないようです」
「誘拐?」
なぜ誘拐が出てくるのか祐輔にはわからない。
「誘拐された子供が離れた場所で解放されることもあるみたいで……」
看護師は少し不安げに説明した。このことを充分に理解しているわけではなかった。
「そういうことか……」
祐輔は今まで誘拐の可能性を考えていなかった。もっとも、誘拐されたのであれば、やはり家には帰りたがるはずだ。祐輔はそう考えて、誘拐の可能性は頭の中で否定した。
「……いや、下田では熊も出没しているので茉唯が心配で」
看護師の視線に気づいて祐輔は誤魔化した。
「そうですね。でも女の子がいなくなったのは自分からだし、熊はこの辺りで見つかっていないので、危険はないかと思います」
看護師は表情を和らげた。行方不明と熊を心配している父親像が伝わったようだ。
「ありがとうございました。変なことをお聞きしてしまいすみません」
祐輔は看護師に深々と頭を下げた。
「この辺りの人は良い方ばかりなので、何かあれば助けてくれると思いますよ」
看護師の言葉は、祐輔の胸を少し痛ませた。ヒルダを匿っているということは、その人達を騙していることになる。看護師や笹井巡査もずっと心配していたはずだ。現に笹井巡査はしばらくの間、行方不明者や誘拐事件を確認していた。その間は心配していたに違いない。いや、今だって無事だということを確信できているわけではないだろう。
(いつかはこの人たちに本当のことを言えるだろうか?)
祐輔は一瞬そう考えたが、すぐにその考えを打ち消した。本当のことを打ち明けるには時間が経ち過ぎている。いや、早くに打ち明けてたとしても別の心配が生まれただけだ。真相を知っているのは祐輔たちだけで良い。




