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政府に設立された対策室には関係者が集まっていた。発生から三日後のことだ。
「今回の件は、五年前のヒルダ・カールランピの逃亡が関係している可能性がある。ヒルダ・カールランピについて、現在の状況はわかっているのか?」
対策室の責任者を務める副総統のサムリ・タイメラが言う。
「ヒルダ・カールランピが乗っているメジスラナクアは、計算上ではガレオマレニ第三惑星に到達していてもおかしくはありません。実際に観測できているのは、一ヶ月ほど前の状況ですが、接近していることは確認できています」
宇宙センター長官のトピアス・セタラが答えた。前任のオリヴェル・イソニエミは、五年前の件で死亡している。トピアスはその直後からの後任だった。
「一ヶ月前にその位置にいたのなら、そこからアルマセレルに戻ってくるのは不可能ではないですか?」
軍の総合参謀本部の参謀議長タルヴォ・エテラマキが疑問を口にする。
「確かに一ヶ月、いや数日で戻ってくるのは不可能と考えられなくはありません。ですが、現時点で不可能と断定するのは早いと思われます」
「それでは光速を超える速度で移動したことになる。そんなことが可能なのですか?」
トピアスの反論に、国立研究所第一ラボ所長ミエス・ニスカヴァーラが反発する。
「アルマセレルの技術では実現できていません。しかし、ワームホールが存在するのであれば可能かもしれません」
「ワームホールの存在は確認されていません。仮に存在していたとして、自由に利用することが可能とは思えません。あるいはガレオマレニ第三惑星は、それを可能にしているというのですか?」
ミエスは引き下がらない。
「私もそれはわかりません。あくまでも可能性は否定できないということです」
「その通りだ。今の状況では全ての可能性を考慮する必要がある」
サムリが言う。明らかに否定できない限り、可能性は排除しないと考えている。
「異星人と思われる遺体が発見されたと聞きましたが」
国立研究所第三ラボ所長クレメッティ・タルヴィティエが発言した。
「はい、DNAパターンが我々とは違う遺体が発見されています。発見場所や遺体の状態から早い段階に犠牲になったと思われます」
国立研究所第二ラボ所長エルネスティ・アランコが答える。
「早い段階というと?」
「遺体の傷は胸部を噛み付かれたもののみとなっています。付近で発見された遺体は、損傷が激しいものばかりです」
「他と比べて損傷が少ないと?」
「そうです。最初に犠牲になって、放り出してから暴れ出したとも考えられます。あくまでも可能性の話ですが」
エルネスティは最後の一言を強調した。
「メジスラナクアがガレオマレニ第三惑星に到達したとすれば、セギオラを連れて一緒にやってきたとも考えられますな」
軍の安全保障局局長アクセリ・ペルホが付け加える。エルネスティからの報告を聞いた時点で、その可能性も考えていた。
「もちろん、時間的な疑問は残りますがな」
アクセリは付け加える。
「いや、時間的な問題を解決できたとしても、まったく感知されずにアルマセレルに入り込むことは不可能ではないですか?」
またもタルヴォが疑問を呈する。
「それも可能性は完全に否定できない。認めたくはないが、その可能性も考慮する必要はある。現にセギオラは街に突然現れた。どのように街に入り込んだのか、今のところ不明だ」
サムリは集まっている一同を見渡した。
「解決しなければならないことはいくつかある。まずはセギオラがどのように街に来たのかだ。それが判れば自ずと答えは出る。本当にヒルダ・カールランピが連れていた個体か否かもだ。しかし、その調査は芳しくない」
サムリはアクセリを一瞥する。状況は安全保障局が中心となって調査している。ショッピングモール以前のセギオラの行動はまったくわかっていない。
「そもそも、本当にヒルダ・カールランピはアルマセレルを脱出したのですか?」
ミエスがトピアスに問う。
「ヒルダ・カールランピは輸送機ごとメジスラナクアに乗り込みましたが、そのどちらからも脱出した気配はありません。これは軍でも確認できているはずです」
トピアスの言葉に、一同の視線がアクセリに集まる。
「それは間違いありません。輸送機を捕捉してからメジスラナクアに収容された後まで、脱出するものはありませんでした。輸送機に乗るまでは捕捉できていませんが」
「我々も輸送機に乗るところまでは確認していません。確かあなたはその場にいたということでしたが」
言いながらトピアスはエルネスティに顔を向ける。今度は全員の視線がエルネスティに集まる。
「ヒルダ・カールランピは、コンテナ車ごと輸送機に収容されました。コンテナ車の運転手はその直前に車外に放り出されましたが、ヒルダ・カールランピがその後も乗っていたことは間違いありません」
エルネスティが言う。苦い経験だ。当時も軍から散々事情聴取された。輸送機に収容される瞬間にはヒルダの姿を見ていない。しかし、コンテナ車に乗り込むところは見ている。その後コンテナ車から降りた者はいない。ヒルダがコンテナ車にずっと乗っていたことは間違いないと考えている。そして、当時はヒルダの目的が判明していたので、メジスラナクアに乗っていない可能性は誰も考えていなかった。
「ヒルダ・カールランピがアルマセレルに留まっていたとしても、なぜ今になって行動を起こしたのかが疑問だ。今である理由がわからない。それに今までどこに潜んでいたのか。メジスラナクアがガレオマレニに到達するタイミングになったのは偶然なのか。むしろ、ガレオマレニに到達したことによって今回のことが起こった、と考えた方が自然ではないのか」
サムリが言う。場が静まり返った。道理は通っている。しかし、アルマセレルの技術では解明できない部分が多い。しかし、ヒルダがアルマセレルにいるとしたら何故今なのか。その説明が誰にもできない。
「総統の考えを伝える」
サムリは続ける。方向性は最初から決まっていたようだ。
「大きく分けて三つの可能性が考えられる。一つはいま言ったようにガレオマレニが関連している可能性」
サムリは一旦言葉を切る。誰も声を発しない。
「二つ目はヒルダ・カールランピとセギオラが五年前にアルマセレルを離れなかった可能性。この場合、どこかに五年間潜伏していたことになる」
サムリはまた言葉を切る。やはり誰も口を挟まない。
「最後はそれ以外の第三者による可能性だ。以上のそれぞれの観点で調査を進めてもらいたい」
「ヒルダ・カールランピかセギオラ、どちらか片方のみアルマセレルに残った可能性は考えられませんか?」
タルボが疑問を口にする。
「可能性は考えられるが、先ほどの内容を調査すれば明らかになるだろう。セギオラだけが残ったのであれば第三者の存在が不可欠だ。ヒルダ・カールランピの関連は断定できない。ヒルダ・カールランピだけが残った場合も同じだ。第三者の関連は否定できず、ヒルダ・カールランピの関連も断定できない。いずれにせよ、セギオラがどのように街に現れたかが鍵になるのは確かだ」




