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翌日には大方の被害状況が明らかになった。死者数は十二万七四六三人、行方不明者数は一万二八〇五人に上った。死者の状態により、高周波電磁波による犠牲者は三万人近くに上ると見られていた。
明らかになったことは他にもある。駆除したセギオラは、五年前にヒルダが連れていた個体であることが確認された。
「それは間違いないのですか?」
軍の安全保障局の局長アクセリ・ペルホが、報告をした国立研究所第二ラボのエルネスティ・アランコに確認する。エルネスティは監査室長を経て、今年から第二ラボの所長になっていた。
五年前のヒルダの件で、当時の第二ラボ所長は責任を取って退任していた。第二ラボとしては大きな責任はないと考えていた。しかし、責任論が外部から噴出したため、ヒルダの研究施設を吸収した責任者として当時の所長は退任した。後任に監査室長を任命し、空いたポストにエルネスティを据えた。それにより第二ラボに大きな責任がないことをラボの人間に示した。外部からは反発もあったが。
「はい。保管されていた血液とDNAが一致しました。他に保有しているサンプルはすべて異なっているので、同一個体と断定して問題ないとのことです」
エルネスティが答える。駆除したセギオラは、国立研究所の第二ラボで調査した。ヒルダが捕獲した個体は、調査のため血液のサンプルを保存していた。そのサンプルは他の資料と合わせて第二ラボに移管されていた。それ以外にも、第二ラボには過去に駆除した全てのセギオラのサンプルが保管されている。サンプル数は少ないが、全ての個体でDNAが異なることは判明していた。
「そうなると、五年前にアルマセレルから連れ出された個体が、何らかの方法で戻ってきたことになります。あるいは、最初からアルマセレルから離れてはいなかった」
アクセリが言う。
「それは――」
エルネスティの言葉をアクセリは遮った。
「わかっています。あなたは移送担当でしたね。可能性のひとつとして考慮する必要はあります」
アクセリに言われ、エルネスティは口を噤む。コンテナ車にセギオラが収容されていたことは確認している。その後は輸送機を経由してメジスラナクアに収容されたはずだ。そのどこかでセギオラを別の場所に移動した可能性は否定できない。
「もうひとつ報告があるとのことでしたが」
「ショッピングモールで収容された遺体の中に、我々とは異なるDNAのものがありました」
「我々とは異なる?」
アクセリはエルネスティが言わんとすることを理解しかねていた。DNAは個人により異なるのではないのか。
「DNAは個人によって異なりますが、共通の部分に我々のものとは違いがあるとのことです」
エルネスティは研究者ではないので詳細までは理解していない。
その遺体はショッピングモールのフードコートにあった。胸部に噛まれた跡があり、肋骨が折れて心臓に突き刺さっていた。おそらく牙も突き刺さっていただろう。三十代から四十代と見られる女性だった。
「第二ラボではどう見ているのですか?」
アクセリが問う。
「アルマセレルの人間ではない可能性も視野に入れて調査中です」
「……この星の人間ではないとするとガレオマレニ第三惑星」
メジスラナクアがガレオマレニ第三惑星に到達していれば可能性はある。ただし、疑問は残る。メジスラナクアはガレオマレニ第三惑星まで五年かかる。つまり、五年間では行くことはできても帰ってこられない。
「そう考えられないこともないですが、まったく別の星の人間が既に入り込んでいる可能性も考えられます」
エルネスティは言ったがあまり信じてはいない。ガレオマレニ第三惑星の人間というよりは信憑性は高そうだが。
「そちらについては引き続き調査をお願いします」
「わかりました」
エルネスティが言うと通信が切れる。
(……まさかな)
エルネスティは先ほどのアクセリの言葉を思い出していた。ショッピングモールの遺体のことだ。ガレオマレニ第三惑星の人間とは想像もしていなかった。メジスラナクアがガレオマレニ第三惑星に到達しているのであれば、その星の人間がセギオラを連れてきたとも考えられる。しかし、それには早すぎる。到達してから数日しか経っていないはずだ。とても移動できるとは考えられなかった。それとも、移動を可能にする技術を持っているのか。研究者ではないエルネスティには想像もできなかった。
アルマセレルではメジスラナクアの観測を続けていた。距離があるためリアルタイムでの観測はできない。計算上では到達できている可能性はあるが、実際の観測ではまだ到達できていない。観測により確認できるのは、おそらく一ヶ月以上先になるだろう。
エルネスティもその情報は得ていた。一ヶ月以上前の状況では、メジスラナクアはガレオマレニ第三惑星に近づきつつある。つまり、その距離まで移動したことは間違いない。
しかし、その先は今後観測されることになる。現時点の状況がわからないのは痛いが、予測をしながら逐一修正していく他なかった。




