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航空防衛隊の基地では出撃準備が完了していた。
その報告は総合参謀本部にも入っていた。
タルヴォが総帥に連絡すると攻撃命令が下された。
「もう少し待ってくれ。兵の撤退が間に合わない」
防空砲兵隊本部長が待ったをかける。
「時間がない。セギオラが被害区域にいる今は絶好の機会だ。まだ被害を受けていない区域に移動されれば更に犠牲が増える」
タルヴォに言われ、防空砲兵隊本部長は口を噤む。優先すべきは兵の無事ではない。
「出撃命令を」
タルヴォが航空防衛隊本部長を促す。防空砲兵隊本部長を一瞥して、航空防衛隊本部長が航空防衛隊本部に連絡する。
命令を受け、航空防衛隊の基地から九機の航空機が発進した。対セギオラ電磁波発生装置を搭載した機体が三機、指向性エネルギー砲を搭載した機体が六機。すべて空中で静止できる機体だ。
九機は展開しながら低空を飛行する。セギオラから距離を置いて包囲し、一気に上空まで上昇する算段だ。セギオラを上空から捉えるまでは発見されることを避けたい。
セギオラの能力が及ぶのはおよそ八キロメートル。九機は三〇キロメートルの距離で包囲すると、そこから高度一万メートルまで上昇しながら、包囲する半径を五キロメートルまで狭める。
セギオラは気づいていない。
「目標を発見。位置を共有します」
セギオラを発見した機体の乗員が航空防衛隊本部に報告する。セギオラの周囲の建物はほとんとが倒壊している。火災は続いているが粉塵は収まっているので視認性は問題ない。程なくして全機の乗員がセギオラを視認した。
「電磁波の照射を開始せよ」
本部からの命令で、三機が一斉に高周波電磁波の照射を開始した。
セギオラが低く唸り声をあげた。この感覚は味わったことがある。ヒルダに捕獲された時に味わった感覚だ。その時はすぐには正体が分からずに狼狽えたが今は学習している。
浴びせられている電磁波を中和しながら発信源を探る。
上空。
すぐに気づいた。空を見上げる。何かある。目で形を捉えることはできない。しかし、ソレが発信源であることは確信した。
セギオラは低く長く唸り声をあげた。能力が及ばないことはわかっていた。それ以前に、能力を使えば電磁波を防げない。正確に狙うことができないので、指向性エネルギー砲で撃ち落とすこともできない。
周囲を見回す。ヒルダに捕獲された時には地面に仕掛けがあった。檻が迫り上がってきたのだ。
仕掛けは見つからなかった。当然だ。仕掛けなどない。セギオラは自身に迫る運命を考えた。捕まるのか。それとも殺されるのか。
セギオラの動きは止まっていた。上空からもそれはわかった。
「セギオラが動きを止めた。攻撃を開始せよ」
本部から攻撃命令が下った。上空からの映像は本部にも中継されている。
一筋の閃光がセギオラの腹部を貫いた。激痛にセギオラは身悶えた。身悶えながら死を悟る。
セギオラは触手を振り回し、指向性エネルギー砲を連射した。光条が周囲に四散する。周囲はほとんど瓦礫となっていたが、それらが悉く破壊されてゆく。
粉塵が舞い上がりセギオラの姿を隠した。
「奴はもう動けない。奴がいた場所に撃ち込め」
六機が指向性エネルギー砲を連射する。粉塵が更に舞い上がる。
セギオラが連射していた指向性エネルギー砲が途絶えた。エネルギーがなくなったのか。それとも息絶えたのか。
「一旦砲撃を停止せよ。セギオラを発見次第状態を確認せよ」
本部からの命令で砲撃が止む。それでも粉塵はしばらく収まらないだろう。
「上空からではなく地上から確認できないか?」
タルヴォが防空砲兵隊本部長に問う。上空からの映像は総合参謀本部にも共有されていた。
防空砲兵隊本部長が防空砲兵隊本部に連絡する。
部隊長は車両で移動していたため無事だった。車両を使えるので部隊長がセギオラの状態を確認することになった。
兵の半数以上は犠牲になっていたが、そのほとんどはセギオラの攻撃によるものだった。高周波電磁波により犠牲になった者も何人かいた。
「地上からの状況確認を指示しました」
防空砲兵隊本部長が言うと、全員がモニターに視線を移す。部隊長の車両は映像の外側なので確認できない。
部隊長を乗せた車両は、セギオラを最後に確認した地点に急ぐ。戦地を移動する車両なので多少の瓦礫は問題ない。
やがて車両はセギオラがいた地点に近づいた。速度を落とし慎重に近づく。部隊長の隣りでは、部下の隊員が指向性エネルギー砲を構えている。出力は最大だ。
「あれじゃないか?」
部隊長が前方を指差す。そこには黒い物体があった。指向性エネルギー砲を構えた隊員が狙いを定める。
「慎重に近づけてくれ」
部隊長は続けた。車内に緊張が走る。
黒い物体がセギオラであることは間違いなかった。しかし、何かが違う。違和感はすぐにわかった。
「頭部が見当たりません」
助手席に座るナビゲーターが言う。頭が隠れる体勢ではない。さらに近づくと後肢も存在していないことがわかった。最初に攻撃を受けたものなのか、脇腹にも深い傷が見える。
「停めてくれ」
部隊長は言うと、停車した車両を降りてセギオラに近づいた。指向性エネルギー砲を構えた隊員が続く。
セギオラは息絶えていた。最強生物と言われていても、この状態ではどう考えても動けない。頭部はなかった。前肢は左側、後肢は両方とも存在しない。腹部には穴が空き、脇腹も深く抉れている。二本の触手は無事だがぐったりしていた。その傍にひしゃげた指向性エネルギー砲が二基転がっていた。
「セギオラの死体を確認しました。駆除完了です」
部隊長が映像と共に本部に連絡した。




