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3-6

 防空砲兵隊は苦境に立たされていた。一進一退どころか一方的に被害を受け続けている。隊員が攻撃すると、それを合図とするかのようにセギオラの攻撃がくる。隊員の攻撃はセギオラにはほとんど効かない。対してセギオラの攻撃は被害が大きい。もっとも、被害地域は生存者が少ないため、新たな犠牲者はあまり増えていない。それについては部隊長の命令のおかげだが、セギオラを駆除できないのなら意味がない。

「単発で攻撃しても駄目だ。連携してまとめて撃ち込め」

 部隊長が隊員に指示する。難しいことはわかっていた。しかし、やらなければならない。

「エネルギー砲を最大出力で撃てるのは二〇回だったな?」

 部隊長が共に車両に乗っている隊員に確認する。

「その通りです」

「つまり、奴はまだ三〇回は撃てるということか」

 部隊長が忌々しげに言う。現時点で隊員の犠牲は十一人。指向性エネルギー砲を奪われた二人。その時に一発撃っている。そのあとは、七人の隊員が攻撃して、それぞれに応戦している。それに二人が巻き込まれて、隊員の犠牲は十一人になっている。セギオラの発砲は合計八回。指向性エネルギー砲が二〇回撃てるのであれば、二基で合計四〇回と言うことになる。最初の隊員の発砲は、出力が小さいので合わせても最大出力一回分には及ばない。

「部隊長、最大出力での発砲許可を願います」

 隊員から通信で連絡が入った。

「何か策があるのか?」

「セギオラの現在地の近くに二七階建てのビルがあります。その屋上、いえ、上層階ならほぼ真上から狙えます。出力を上げても被害範囲を狭めることが可能と考えられます」

「わかった。最大出力での発砲を許可する」

「ありがとうございます。すぐに移動します」

 そう言って隊員はそのビルに向かった。問題はセギオラがその間にどのくらい移動するかだ。

「セギオラはどんな様子だ?」

 部隊長は通信機に向かって言う。

「落ち着いているというと変ですが、凶暴さはあまり見られなくなっています。まわりに人影がないからかもしれませんが、こちらから攻撃しない限り悠々と歩いています」

 セギオラに接近している隊員が報告した。

(理由はわからないが、怒りが収まったということだろうか?)

 部隊長は考えた。もともと暴れていた理由はわからない。凶暴とはいっても常にそうではないだろう。何らかの理由で凶暴になる瞬間はあるはずだ。そして。凶暴ではなくなる瞬間もあるだろう。そのどちらも部隊長にはわからなかった。しかし、今の状態がセギオラを駆除するのに適しているのではないかと考えた。

「全員しばらくセギオラを刺激するな。ビルからの狙撃まで一旦攻撃を中止しろ。代わりに狙撃に合わせて攻撃できるように備えよ」

 部隊長が隊員に指示した。

 隊員に見守られる中、セギオラはあの気配を探していた。先ほどは怯んでしまったが、今度会ったら怯まない。この爪で引き裂いてやろうと考えていた。

 しかし、なかなか気配は感じられない。気になる気配はほかにもある。ヒルダとは似て非なる気配。あれは何だったのだろうか。

 セギオラは気づいた。目の前の景色が一変したことで慌ててしまったが、あの時にも近くにいたのではないのか。元の場所に戻れば気配を感じ取れるかもしれない。

「セギオラがこちらに戻ってきます」

 部隊長に報告が入った。

「戻ってくる? どういうことだ?」

「分かりませんが走り出しました」

「発砲します!」

 狙撃のためビルの上層階に向かっていた隊員からも連絡が入った。

 隊員は指向性エネルギー砲で窓ガラスを割り、身を乗り出してセギオラの姿を探す。不安定な体勢だが充分狙うことはできた。幸い周囲に動く民間人はいない。

 最大出力の指向性エネルギー砲がセギオラに向かって発射される。鋭い閃光がセギオラに突き刺さる。

 しかし、少しずれていた。脇腹を抉られたセギオラは狙撃者を探す。

 直後、今度はセギオラからビルの高層階に向けて閃光が走る。高層ビルは縦に割れ、ゆっくりと崩れ始める。セギオラは指向性エネルギー砲を垂直に動かしていた。

 セギオラはなおも周囲に向けて連射する。怒りがぶり返していた。気配を探ることはどうでも良くなっている。

「外したのか?」

 部隊長の問いに答える者はいなかった。狙撃した隊員はもちろん、付近にいた隊員もセギオラの攻撃に巻き込まれていた。

「状況はどうなっている? 報告しろ!」

 部隊長が通信機に向かって叫ぶ。

「煙がひどく目視できません。セギオラの位置は不明です」

 報告の通り、セギオラがいる付近は、粉塵や火災の煙でひどく視界が悪くなっていた。

(やはり地上からだけでは無理なのか?)

 標的の位置を上から捉える方法がないか部隊長は考えた。衛星から捕捉することは可能だが、その座標を地上から攻撃するための装備はない。結局はおおよその位置を特定して攻撃するしかなかった。

 部隊長の真横を光跡が走る。セギオラが撃ったものだ。狙ったわけではない。全方位に向けて攻撃しているのだ。移動しながら発砲しているので、セギオラの位置は特定できない。

 部隊長の表情に焦りが見え始めた。セギオラの指向性エネルギー砲は、おそらく残り二〇回近く発射可能だ。撃ち尽くすのは時間の問題だが、それまでには更に被害が拡大するだろう。そうなればセギオラを探し出すのはより困難になる。

 唐突に防空砲兵隊本部から通信が入る。

「全員撤退せよ」

 部隊長が訝しがる。この状況で放棄しろと言うのか。

「撤退とはどういうことですか? 被害は拡大し続けています」

 部隊長は食い下がった。

「だからこそだ。この後は航空防衛隊が引き継ぐ。十五分後には攻撃が開始される。撤退の完了は待たない。巻き込まれるな。以上だ」

 本部からの命令は問答無用だった。

 どのような攻撃がなされるか、部隊長には想像もできなかった。民間人の犠牲を厭わずに高火力の武器を使うというのか。

(民間人を誘導する時間はなさそうだな……)

 どの程度の民間人がこの付近にいるのか部隊長には把握できていない。もっとも、どの程度の攻撃範囲かもわからないので、どこまで避難すれば良いのか判断がつかない。そもそも、撤退する自分たちでさえどこまで行けば安全なのか。

「十五分後にこの区域は航空防衛隊の攻撃を受ける。全員この区域から撤退せよ。できる限り遠くに離れろ」

 部隊長は隊員に命令を下した。

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