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「これ以上近づくのは危険だ」
警備隊の者が言う。およそ五十メートル先にセギオラがいる。
「だが、ここから狙うのは厳しいぞ」
セギオラの周囲には逃げ惑う人々がいる。
「俺が行こう」
「俺も行く」
腕に覚えのある者が何人か走り出した。
「無理はするな!」
残った者がその背中に声を掛ける。
「お前たちは民間人の誘導にあたれ」
小隊長が何人かに指示する。
さらに続ける。
「狙撃手は狙撃ポイントを探せ。狙えると思ったら自己判断で発砲して構わん」
狙撃手の腕は信頼している。
「残りの者は奴の進路を予測して先回りして構えよ」
小隊長が言う奴というのは、もちろんセギオラのことだ。
「我々はどうしますか?」
副隊長が訊く。副隊長と通信士は行動を共にしている。
「奴の後ろに回り込む」
小隊長はそう言うと、迂回してセギオラが通ってきた通りに向かう。
「ひどいですね」
通信士は顔を顰めた。セギオラが通ってきた通りには、多数の犠牲者が横たわっている。中には息がある者もいるらしく、そこかしこから呻き声も聞こえてきた。
「セギオラです」
およそ百メートル先に、副隊長がセギオラの姿を認めた。
「後ろからの方が狙えるかもしれないな」
小隊長が言った。セギオラはほとんど後ろを見ていない。警備隊として被害を広げないように前に要員を配置したが、セギオラを駆除するには、背後からの方が良いように感じた。
「奴が通過したら、再び前に回り込まずに後ろから狙うように」
小隊長が隊員に指示を出す。
「もう少し近づきますか?」
「そうだな。慎重に近づこう」
セギオラも注意しなければならないが、足元の犠牲者にも気を使わなければならない。
銃声が轟いた。狙撃手ではなく最初にセギオラに向かった隊員のようだ。
数発の銃声が続く。その中には狙撃手のものも含まれていた。
「どうした?」
小隊長が通信機で問う。
「隊員がやられました。ここからは一人しか見えません。自分も撃ったのですが外しました。奴の姿は見えません」
狙撃手の一人が答えた。最低でも一人の隊員が犠牲になったと言うことか。
「無事なら返事をしろ!」
今度は副隊長が通信機に言う。最初にセギオラに向かった隊員たちに向けてのものだ。
少し待ったが返事はなかった。
「駄目か……」
副隊長が呟く。
「セギオラです。無傷に見えます」
別の狙撃手から通信が入る。直後に銃声が轟く。報告した狙撃手が撃ったのだ。
「外しました」
やはり、単発の銃で動きが速いセギオラを撃つのは難しい。
「本部から連絡です。防空砲兵隊がこちらに向かっているそうです。我々は民間人の誘導に専念せよとのことです」
通信士が小隊長に言う。本部とは警備隊の本部だ。
「防空砲兵隊か。我々より奴の対応には向いているな」
小隊長は言ったが、ほかに適している組織は思いつかない。
「全員、セギオラの駆除ではなく民間人の誘導に専念せよ。狙撃手は我々に合流するように」
小隊長が通信機で指示する。狙撃手は民間人の対応には慣れていない。また、防空砲兵隊の支援に回る可能性もある。
「防空砲兵隊です」
近づいてくる車両に通信士が気づいた。
「状況は?」
防空砲兵隊の部隊長が警備隊の小隊長に訊く。
「芳しくない。こちらは銃だけなので厳しい」
「了解した。以降はこちらで引き取る。民間人の誘導に尽力してほしい」
「了解。こちらの狙撃手は必要か?」
問われた防空砲兵隊の部隊長は回答に一呼吸置いた。
「そちらで一緒に対応に当たってほしい」
合同訓練は実施していない。部隊長の回答は最初から決まっていた。相手の申し出に敬意を表して間を空けただけだった。




