第三章 セギオラ
アルマセレルのショッピングモールでは大勢の人々が逃げ惑っていた。出入り口に殺到して転倒する者が続出している。しかし、後から来たものは、転倒した者を踏み越えてゆく。他人のことなど構っていられない。
奥の方からはセギオラの咆哮と人々の悲鳴、破壊音などが徐々に出入り口に近づいてくる。
とうとう、出入り口の外からも、その黒い肢体を捉えられるようになった。
外で成り行きを見守っている者たちも慌てて逃げ出す。その中にはカレルヴォの家族もいる。
「お父さんは?」
カレルヴォの子供が母親に訊く。
「お父さんは大丈夫だから早く逃げましょう」
カレルヴォの妻はそう言って、二人の子供の手を引いて走り出した。無事かどうかはわからない。祈ることしかできないが、今はその時間さえない。カレルヴォの妻は、子供たちが転ばないように注意しながら走り、どこに逃げたら良いか辺りを見回した。
人が少ない路地があった。そちらの方が逃げやすいが、大勢に紛れた方が安全だろうか。
迷ったがその路地に逃げ込んだ。
同じ頃、セギオラはショッピングモールの外へ出た。倒れているものには容赦なく爪を立て、立っているものは肩から生えた触手で薙ぎ倒す。まるで殺戮が目的のように次々に襲いかかる。
そう。食べるために狩っているのではない。食事はフードコートで済ませた。空腹を満たした今は、怒りに任せて暴れるだけだ。
最初は人間に対しての怒りではなかった。一瞬でも怯んでしまった自分が許せなかった。そして目の前の景色が一変した。何が起こったのか理解できていないが、人間たちのせいでこうなったのは間違いない。中でもあの者たちだ。探し出してズタズタに引き裂いてやりたい。
セギオラは一番獲物の多い通りを選んだ。
カレルヴォの妻は、子供たちを連れて走りながらも後ろを確認していた。セギオラが大通りを直進するのを見て、ほんの少し安堵した。油断はできない。それにカレルヴォも心配である。しかし、子供たちも限界だろう。走るのをやめて、歩きながらこれからどこに逃げるか考える。
カレルヴォに連絡してみたが通じない。無事なのか。通信端末が壊れただけなら良いのだが。
交差点に辿り着く。それなりに人がいる。ショッピングモールの騒動を知らないのか、普段と様子が変わらないように見える。あるいは、知っているが区画が違うので安全だと思っているのか。
確かに、セギオラの具体的な凶暴性はあまり知られていない。普通の肉食獣のように思っている者がほとんどだ。ショッピングモールの人たちも、目の前で惨状を見たから慌てていたのだ。区画が違えば、すぐに危険はないと考えても仕方がないだろう。
カレルヴォの妻はどうするか迷った。カレルヴォとの合流を考えて、あまり遠くには行かない方がいいのか。いや、カレルヴォは軍の人間だ。無事だとしても家族と一緒に逃げることはないだろう。
(少しでも遠くに離れよう)
自宅はセギオラが向かった先の方角にある。一番近い駅から地下鉄で五駅だ。ショッピングモールからなら四駅だが、その駅もセギオラが向かった先にあった。
カレルヴォの妻は駅に向かう。そこから自宅とは反対方向に移動するつもりだ。三駅目の近くに知人の家があるのでそこへ向かう。




