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2-12

 茉唯は先日の年賀状を持ってきた。

 自身を指差してから下を指差し、年賀状の写真の家を指差す。

「帰る」

 そう言って、もう一度同じ動作を繰り返す。家に帰ると伝えようとしているのだ。

 ヒルダにもそれは伝わった。

「マイ……カエル?」

 言いながらヒルダは写真の家を指差す。

「そうそう。そして……」

 茉唯はひと呼吸おいた。表情が曇るのにヒルダは気付いた。

 息を吸い込んで茉唯はヒルダを指差す。その指で写真の家を指差してから、両手の指でバツを作った。

「帰れない」

 言葉がおかしいことに茉唯は気づかない。

「カエレナイ? カエル……ナイ?」

 ヒルダの言葉がおかしいのは仕方がない。しかし、状況は理解できた。茉唯は写真の家に帰る。そして、ヒルダはその家には行けない。

(もう頼れないのだろうか?)

 ヒルダはこれからのことを考えた。言葉については宗和と志津に頼れなくもない。関わるのが少し苦手なだけだ。

 情報機器についてはどうだろうか。この家にはないようなので、どこかで調達する必要がある。もちろん、持って帰るわけにはいかない。一人で使い方を理解しなければならない。言葉がわからなので困難なのではないか。

(仕方がない。しばらく様子を見てから考えよう)

 ヒルダとしても今は宗和の家を拠点にしたい。時間はかかるかもしれないが、現時点ではそれが最善だろう。

 問題は、茉唯がいなくなっても、本当に宗和の家にいられるのかだ。茉唯がいたからこの家にいられたのは間違いないだろう。その茉唯がいなくなったらどうだろうか。

(また、どこかに連れて行かれるかもしれない)

 その時はまた逃げれば良い。そのためには、宗和の家の周辺の状況を、確認しておいた方が良いだろう。今までは、いつも茉唯と一緒だからできなかった。これからは一人だから可能だ。しかし、それを宗和と志津がどう思うかわからない。

 警戒するだろうか。それでも良いと思った。無難に過ごしていたのでは何も進まない。少しくらい無茶をしても良いだろう。

 ヒルダが考え込んでいると、茉唯が不安そうな表情で見つめていた。

(この子の印象をもう少し良くしておくか)

 ヒルダは茉唯を指差す。

「マイ」

「うん、そうだよ」

 茉唯は表情を少しほころばせた。

 次にヒルダは自身を指差す。

「ヒルダ」

「ヒルダ? ……あなたの名前?」

 茉唯の言葉にヒルダは頷く。言葉を理解したわけではないが通じたと確信した。頷くのが肯定の意味ということは理解している。

「ヒルダ……良かった、名前覚えてるんだね」

 茉唯は目にいっぱいの涙を溜めて、自身を指差しているヒルダの右手を両手で握る。

 ヒルダがその上から左手を重ねる。

 茉唯の目から涙が溢れ出す。

 ヒルダは左手でその涙を拭ってあげた。

 少しの時間が流れて、ヒルダが口を開いた。

「マイ」

「なに?」

 ヒルダは茉唯を指差してから、年賀状の写真の茉唯の家を指差す。その指を続けて下に向ける。

「マイ、カエル?」

 この家に戻ってくるかという意味だ。

「うん、絶対にまた来るよ」

 茉唯は何度も頷いた。言葉はわからなかったが、茉唯が戻ってくることはヒルダに伝わった。しかし、言葉がわからないため、いつ戻ってくるかをヒルダは訊くことができない。今は春休みなので、おそらく夏休みになるだろう。かなり先だが、ヒルダはそのことを知ることができなかった。

 それから少しして、茉唯は祐輔と亜希子に連れられて帰っていった。

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