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2-5

 茉唯の家では夕食の時間を迎えた。ヒルダにも夕食が用意された。言葉は通じなくても食事は摂れるだろうとのことだ。

 ヒルダは目の前に並べられたものを順番に目を向ける。食べ物だということはわかる。ただし、食べても安全だという保証はない。この星の人間には安全でも、ヒルダにとっては毒になるものが含まれているかもしれない。

(食べても問題ないのだろうか?)

 ヒルダは考えたが、安全かどうかを確認する術はない。

(一口で即死することはないだろう)

 安全性が確認できたものから食べるようにすることは不可能だ。不安はあるがひとつずつ確認していくしかない。

 箸については、それを使って食べるのだろうと想像できたが、どのように使うのかは見当がつかなかった。刺すのであれば一本で良い。

(これで挟むのだろう。両手で挟むのか?)

 片手で挟むことを想像できない。アルマセレルにも片手で挟んで使う道具はある。ただし、ピンセットなどのように根本が繋がっている。

「いただきます」

 茉唯が手を合わせて言うので、ヒルダは真似してみた。

「イタダキマス」

 ヒルダが言うのを見て、茉唯が嬉しそうな表情をした。

「箸持てるかな?」

 茉唯は箸を持ちながらヒルダを見た。

(片手で持つのか)

 ヒルダは茉唯の持ち方をじっくりと観察して同じように持ってみた。観察眼が鋭く、器用なので持つことはできた。

「すごいすごい。こうやって動かすんだよ」

 茉唯は箸を動かして物を挟む動作をする。ヒルダは真似をしてみたが、同じように動かすことは出来なかった。

「フォークを持ってきてあげなさい」

 二人のやりとりを見ていた宗和が妻の志津(しづ)に言う。

 志津が台所からフォークを持ってきてヒルダの前に置いたが、ヒルダは一瞥しただけで箸との格闘を続けた。アルマセレルにも同じようなものはあるので、フォークが理解できないわけではない。箸を使えないことが悔しかった。

 宗和と志津は何も言わずに成り行きを見守った。二人ともまだ料理には口をつけていない。茉唯は真剣にヒルダの手を見つめている。右手はヒルダの手本になるように動かし続ける。

 しばらくして、まだぎこちないがヒルダが箸を動かせるようになった。

「すごいすごい」

 茉唯が無邪気に喜んだ。左手で味噌汁の茶碗を持ってヒルダを見る。

 ヒルダも同じように左手で味噌汁の茶碗を持つ。茶碗もアルマセレルにはない。

「お味噌汁」

 茉唯は名前を教えるために言った。

「オミソシル?」

 ヒルダにもそれはわかった。

「そうそう、お味噌汁」

 伝わったことが茉唯には嬉しかった。

 ヒルダは味噌汁から箸に視線を移してから茉唯を見る。

「あ、それは……お箸」

「オハシ」

 最初の言葉は理解できなかったが、間を開けた後ろの部分が名前だろうとヒルダは考えた。

「そうそう、お箸」

 茉唯は味噌汁を飲んだ。同じようにヒルダも飲む。味噌汁もアルマセレルにはないがスープならある。しかし、オミソシルがスープ全般なのかスープの一種なのかは判断がつかない。

 茉唯は味噌汁の茶碗を置き、代わりにご飯の茶碗を持つ。

「ご飯……あ、お米」

 茉唯はご飯のことを教えようとして途中で言い直した。ご飯だと目の前のもの全部になってしまうと思ったからだ。

「アオコメ?」

「じゃなくて……お、こ、め」

「オコメ」

「そうそう、お米」

 言いながら茉唯は一口食べた。ヒルダも真似して食べようとしたがなかなか口に運べなかった。器に口をつけて飲んだ味噌汁のようにはいかない。もっとも、アルマセレルでも、器に口をつけてスープを飲むことはない。

 なんとかヒルダが一口食べるのを待って、茉唯はサバの味噌煮を指し示した。

「サバ」

 味噌煮は難しいと思ったので省いた。

「サバ」

「そう、サバ」

「……オ?」

 ヒルダが不思議そうに言った。

「オ?」

 ヒルダが何を言いたいのか茉唯には分からない。

「オミソシル、オハシ、オコメ……サバ?」

 そう言われて茉唯も気づいた。

「サバのことをおサバとは言わないよね……『お』を付けちゃダメだったんだ」

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