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2-4

 宗和は鋭い目つきでヒルダを見る。その視線に気付き、ヒルダは一瞬だけ宗和を見てから、茉唯の後ろに隠れる仕草を見せる。もちろん演技だ。堂々とし過ぎると疑われる。

(この人の家だろうか?)

 この星のことを知らないとはいえ、人が住むような場所には見えない。

 そこは宗和の工房だった。ここで陶器を製造している。住む家はこの奥の建物だ。

「ひいおじいちゃん、この子自分のことがわからないみたいなの」

 茉唯の言葉に、宗和は一度視線を茉唯に移してから、もう一度ヒルダを見る。言葉の意味はわからなかったが、ヒルダは自分のことを話していると気づいた。

「茉唯はどうしたいのかね?」

 宗和は茉唯に問う。

「あたしは……しばらく一緒にいてあげたいの」

 茉唯は「駄目かな?」という表情をした。

「……茉唯がしたいようになさい」

 宗和はもう一度ヒルダに視線を移し、少し考えてから言った。

「ありがとう」

 茉唯は満面の笑みを浮かべた。そのままヒルダの方に振り返る。

(何が嬉しいのだろうか?)

 会話の内容はわからないが、茉唯が喜んでいることはヒルダにもわかる。

「行こう」

 茉唯はヒルダの手を引くと宗和の住居へ向かった。ヒルダは素直に着いてゆく。茉唯から悪意は感じない。

 家に入ると居間に向かいテレビを点ける。ヒルダが何かを思い出すきっかけになればと考えてのことだ。

 放送されていたのは地域の情報を伝えるニュース番組だ。

 最初のニュースは、昨夜下田の病院に熊が出没したというものだった。ヒルダを蘇生した看護師と巡査が話していた件だ。下田の病院に熊が侵入し、入院していた小学三年生の女児が行方不明になっていると伝えた。近くの森で一頭の熊を駆除したが女児は発見されていない。

(あれは……セギオラ?)

 放送された防犯カメラ映像に、ヒルダはセギオラらしい姿を見つけた。セギオラであれば両肩から触手が生えている。しかし、映像が不鮮明なので触手は確認できなかった。言葉がわからないので、駆除されたことをヒルダは理解できない。もっとも、駆除されたのはセギオラではない。正真正銘のツキノワグマだ。

(やはりセギオラは一旦諦めた方が良いだろう)

 この星の人間がセギオラを探しているのなら、ヒルダが横から奪い取ることは不可能だ。捕獲されるか、あるいは捕獲をあきらて駆除されるか。どちらにせよ、この星の人間の先を越すことは不可能だとヒルダは判断した。今となってはセギオラに固執する必要もなかった。

 次のニュースは、昨夜伊豆半島の南海上で、火球のようなものが観測されたというものだった。映像も流れたので、メジスラナクアだろうとすぐにわかった。

 また、関連は不明だが最大五〇センチメートルの津波が観測されたとも伝えられた。何かが落下したとしたら駿河湾の沖合だが、範囲が広く水深が深いため落下物の調査は行われないとのことだった。もちろん、それらのことをヒルダは理解できていない。

(周囲に注意を払った方が良いか)

 メジスラナクアを認識された可能性をヒルダは考えた。ヒルダが搭乗していたことに気づかれる可能性があるかもしれない。とはいえ、人との接触を避けるくらいしか今は方法がない。

(いま使えるのはこれだけか)

 ヒルダはテレビとテーブルの上に置いてあるリモコンを見た。茉唯が使うのを見て電源の入れ方は理解できた。言葉は分からなくても映像から何かを得ることはできるだろう。時間はかかるが仕方がない。

 茉唯がリモコンを手に取ると画面が変わった。アニメーション番組だ。ヒルダにとっては初めて見る映像だった。実写でもコンピューターグラフィックスでもない映像。ヒルダはおそらくコンピューターグラフィックスの一種だろうと考えた。

「これ?」

 茉唯はヒルダがリモコンを見つめていることに気づいて、リモコンをヒルダの手元に差し出した。ヒルダはリモコンを受け取って、全体をまじまじと眺めた。

「ここを押すんだよ」

 茉唯がチャンネルボタンを指差す。ヒルダはそのボタンを押してみた。ボタンであることは理解できる。

 画面が変わった。今度は再放送のドラマだ。ドラマならアルマセレルにもあるが、言葉がわからないので中継映像と区別できない。

 ヒルダは別のボタンを押してみた。画面に何も映らなくなった。

「あ、そのチャンネルは映らないよ」

 ヒルダが押したボタンを指差してから、茉唯は両手の人差し指をクロスさせた。「ダメ」のつもりだったがヒルダには通じなかった。ヒルダは分かりやすく首を傾げる。理解できていないことを伝えていった方が良いと考えている。

「これと、これと」

 茉唯はひとつずつ視聴できるチャンネルを指す。茉唯が何を教えようとしているかは理解できたが、何故そうなっているのかがヒルダには理解できない。

(使えないボタンか……なんて無駄な)

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