表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/28

商人現る

戦国時代の名のある商人て意外といないんですね・・・専門書でもないと乗ってないんでしょうか?


「治水ってさぁ、どうやるんだろうね?」


 段蔵を伴って私は能生川を視察に来ていた。

 緩やかに増え続ける人口に対して食料自給率がヤバいのである。

 そこで新たな田んぼを開墾するために水利も考えながら、能生川付近の下見に来ていた。

 川筋に沿って開墾すれば水利はいいけど、災害時が怖い。

 そこで治水をするわけですが、その方法を私は全く知らないのである。


「土木は私も専門外ですよ?」


 いや、貴女は色々と専門外でも知ってる知識量は並外れてるでしょ?


「精々がローマンコンクリートを作って堤防を強化するぐらいしかできませんよ」


 そら見た事か。

 2000年を経過しても壊れない古代コンクリートの作り方を知っている現代人がそうそういて堪るものか。


「でも川全部を覆うなんて無茶はできませんよ?」


「それもそうかぁ・・・ところであそこに中州があるじゃん?」


 と川の真ん中で流れを分かつ陸地を指差す。


「ええ、ありますわね」


「あれがさっきからっ光ってるんだけど、何かな?」


 大きさもあり、目がチカチカと痛い。


「姫様、それは多分、治水するうえで邪魔だから取り除けって意味では?」


「そうか!」


 掌を打つ私。


「じゃあ、あっちの川から離れた所で光ってる場所は?」


 少し上流の離れた位置を指さすと、段蔵は少しこめかみに人差し指を親指を顎にあてて思案する。


「開墾に適した場所? ・・・いいえ、違うわね。今は治水の話・・・なら、ああそうか」


 どうやら考えが纏まったようである。


「恐らく、遊水地を作るに適した場所かと」


「なるほどね。溢れた水をためる場所か」


 それならと、所々に川底が点滅してるのは何かと聞いたら、


「浚渫して川底を深くするべき個所では?」


「なんだ。意外と治水も何とかできそうじゃない? 段蔵さんたら自分の手に負えないなんて謙遜してぇ」


「姫様・・・いいえ、あえて言うのはやめましょう。ただ、少しご自身のゲーム脳をもっと理解したほうがよろしいのではと言っておきましょう」


 疲れた顔で吐息をつく段蔵。

 もう、美人だから何をしても絵になるなぁ。


「でも治水と開墾、どっちを先にやるべきかな・・・」


「賦役になりますから、農繁期を考えると夏に治水、秋冬に刈り入れ後の開墾。がいいんじゃないでしょうか? 冬場に水に漬かりながらの作業は辛いですよ、越後ですし?」


 言われてみればそうだね。

 凍傷一直線だ。

 

「ああ虎様! 此処に居たのか! 探したぜ!」


 納得していると弥太郎さんが息せき切って駆け寄ってきた。


「あれ? どうしたんですか? 今日は城で調練のはずでしょう?」


「ああ、そうなんだけどよ、直江津の蔵田五郎左衛門殿がどうしても虎様に拝謁したいって居座ってるんだ」


 難しそうな顔をする弥太郎さんに彼ではどうしようもなかったんだなと悟る。

 普通、立場が上の主不在であれば、一度引き返して今度は先ぶれを出し、在居を確認の上で出直すものである。

 話によれば、今は宇佐美殿が相手をしているとか。

 老獪な彼なら、海千山千の豪商相手でも上手く対処してくれているだろう。


「蔵田殿と言えば、越後はおろか都にまで名が聞こえし人物。待たせるのも忍びないですね」


 そう思って、手綱を持っていた馬にひらりと飛び乗る。


「急ぎ、戻りますよ。弥太郎さんはゆっくり戻ってきて結構です」


 馬を掛けさせる私に段蔵が小走りで追従してくる。

 それを見て、一声かけることにした。


「段蔵も馬を所有すればいいのに」


「いえ、飼育費も掛かりますし、走った方が早いし自由が利くので必要ありません・・・それにお尻が痛くなりませんし・・・」


 確かに馬はお金がかかる。

 でも本音は最後の言葉にあった。

 慣れないととにかくお尻が痛くなるのだ。無理に長時間素人が乗ろうものなら、お猿さんの様に真っ赤に晴れて夜も眠れないだろう。

 きっと段蔵は百里駆けの特技を持たされたのを感謝しているに違いない。

 馬を飛ばして四半刻、城に戻った私は馬を厩番に預けて、一応、服を着替えて身嗜みを整えた。

 相手は商人と言えど大物である。

 下手を打てばこちらが侮られるかもしれない。

 時間は取るけど、ここまで待たせているわけだし、しっかりとした姿で臨む方がいいだろう。

 私が部屋に入るとごく自然な動作で頭を垂れる男性。

 大名が着ていても不思議じゃない高級な衣装。


「面をお上げください」


 宇佐美殿に上座を譲ってもらい声をかける。

 ふむ。

 年のころは40過ぎ、広い額がつるりと光ってる。やや小太りながら、雰囲気は引き締まってる。質こそ違えで幾つもの修羅場を潜り抜けてきた印象を受ける人物だ。

 では、ステータスはどうかな?

 武勇22 統率34 知略71 内政92 外交82


「え!?」


「いかがされましたでしょうか?」


「あ、いや・・・父上の代からご活躍成されていたと聞いていたので、もっとお年を召されたお方だと思っていましたので驚いたのです」


 大嘘だ。

 本当は内政92という数値に吃驚したのだ。

 武将でもないのに・・・大商人って凄いんだな。


「そうでしたか、それは手前の父でございます。先代様とのご関係は私が30の頃よりお付き合いをしておりますが」


「なるほど、それで当代殿はこの景虎に如何な用がございましたのでしょう?」


 上手く誤魔化せたのでさっさと話しを進める。

 多分、石鹸の事じゃないかと当たりをつけていたら、彼の返答に本当に驚かされた。


「何でも、景虎様は済み酒よりも酒精の強い酒をお造りになられたとか?」


「焼酎の事ですか? 何処でそれを・・・」


「ほう。焼酎と申すのですな? いや、手前、先ごろの済み酒の件で酒座の代表に就きましてですな。済み酒をお造りになられた景虎様に興味を持ちまして、能生の酒蔵の話を伺っておったのですわ」


 ふむふむ・・・

 まあ、あり得ない話じゃないか。


「そうしたら、何でも済み酒以外の酒を造ってる蔵があると聞きまして、詳しく調べさせて頂いたところ件の焼酎? とやらに行き着いたのですわ」


 ああ、別に口止めはしてなかったね。

 味醂の製法は秘密にしてるけど。もしかしたら練酒の方に引っかかった可能性もあったか。

 でも、蔵田さんほどの商人なら博多の練酒は知ってるかもしれないから、聞いたこともない焼酎に興味を持っていかれたのかな。


「それで焼酎を酒座に卸してほしいというお話でしょうか?」


「お話が早くて助かります」


 ちらりと宇佐美殿を見れば、お好きなようにどうぞと言った風に頷いている。


「そうですね・・・あれは試みに作ったものでして量があまりないのです。販売するほどでは・・・」


 そうなのである。

 元々、味醂が欲しいから作らせただけで、本当に数はないのだ。

 段蔵が注文した蒸留器も一機だけだしね。

 まあ、それでも段蔵は余った分の焼酎を特権で飲んでるけど。飲兵衛め。


「では、手前どもが出資いたしましょ! 大々的にお造りになられては如何ですかな?」


「ちょ、ちょっと! いくら何でも、海の物とも山の物とも言えないものにいきなり投資は無謀過ぎませんか!?」


 話を聞いた限りは蔵田さんは焼酎を飲んでいないように思える。いや、間違いなく飲んでいないだろう。

 試作品と言うことで成功しても失敗しても全量買い上げで造らせたのだから。酒造元が味見ぐらいはしただろうけど、横流しまでは出来ないだろう。


「では、手前に一杯味合わせては頂けませぬでしょうか?」


 もしかして此奴も飲兵衛かと疑いながらも視線を段蔵に向ける。


「段蔵。貴女が持ってる物をお出しになってあげなさい」


「ええ!? あれは毎夜の晩酌で楽しみに・・・」


「二度は言いませんよ段蔵?」


「わかりましたぁ・・・持ってくればいいんでしょ、もってくればぁ」


 ストーンっと肩を落とし影を纏いながら段蔵が立ち去る。

 それを見た蔵田さんが何とも申し訳なさそうだ。

 くぅ! 美人はどんな姿も絵になるぅ!

 しばらく待っていると、段蔵が瓶に徳利と盃を乗せて戻って来たので、早速、蔵田さんに飲んでもらう。

 因みにお酌はなし。段蔵の眼差しが冷たい。


「ほう・・・済み酒のように透き通っておりまするな…盃の赤い漆が冴えて見えまする」


 そして一気に飲み干す。

 とはいかない。

 左手に盃を持ち顔の前まで持ち上げると、右手で軽く仰いで匂いを確認する。


「おお、芳醇な酒の匂いがしますな」


 熱燗でもないのにそんなに強い匂いがするのかな。未成年には分からない世界である。


「それでは、失礼をしまして・・・」


 遂に口に含み、寸毫口の中で味わった後に飲み下す。


「はぁ~っ! これは凄い。この様な酒は、この蔵田五郎左衛門、今までに味わった事がございません!」


 感動したと言わんばかりの勢いで思わず叫んだ蔵田さん。

 私がいることも忘れて徳利から二杯目を手酌で注ぐと今度は迷わず一気に飲み干した。


「いやー、美味い! これは止められませんな!」


「そうですよね! これを止めるなんてとんでもない!」


 段蔵が合いの手を入れた。

 類が友を呼んだか、飲兵衛仲間を得て、先程までの不機嫌を何処に置き忘れたのやら、破顔している。


「えへん! どうやら気に入って貰えたようで何より。これは出資を迷うことはありませんね。では、後はウチの本庄と細かい打ち合わせをしてください」


 飲兵衛には付き合ってられないと私はそう言い残して部屋を出る。

 去り際に宇佐美殿に視線を送っておいたから心得てくれるだろう。

 まさか三人揃って酒談議になりはすまい。・・・ならないよね?

 でも、焼酎で稼ぐ気は無かったから思いもよらぬ所で資金をゲットできそうで、なんだかんだで私も嬉しかったりする。

 先ずは出資金で酒蔵を建てて、人の雇用を促そう。

 杜氏も集めないといけないし、やることは多い。

 何より思いがけず、蔵田五郎左衛門と言う大商人とコネが出来たのもいい。

 販売ルートの確保も楽に出来そうだ。

 先は明るいと私は心を躍らせるのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ