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内政チート(現代知識編)

「実乃さん、弥太郎さんに段蔵、私の留守の間のお役目ご苦労様でした」


 約一月の間、能生を留守にしてた間は彼らが頑張って領地の経営を行ってくれていたのだ。

 

「そうです? 人類皆兄弟令の方は少しは馴染んで来ましたか?」


「もめ事の件数が明確に減ってぎざいますれば、徐々に民に根付いてきていると存じます。よその領地からの流民も徐々にやって来ておる様子ですな」


 実乃さんの報告に満足に頷くと、私は膝を叩いた。


「では、内政の次の段階に移りましょう。これから途端に忙しくなりますよ」


 大まかな内政については段蔵の知識チートに頼ることが大きくなるけど。私の知識より彼女の歴女としての嗜みとかやらは、グレードが違った。

 ただ、段蔵が提案するより私が考えた事にした方が事をスムーズに進められると言うことで、彼女の手柄を横取りする形になるのが心苦しい。あとで帆人的に何か褒美を上げようと思う。


「で、一体全体何するつもりなんでえ?」


「以前の討議でも出たけど、今回は資金を稼ぎますよ。町からの税収がない今は、城の台所事情は火の車ですからね」


「税を上げるか、矢銭に徴収するのでござろうか?」


「実乃さん、それは悪手ですよ。せっかく人が集まってきたのに、皆逃げてしまいます」


「それでは、如何に致すおつもりですかな?」


「特産品を作って流通させましょう。これは今まで税を掛けなかった商品とっしては第一号の商品になりますよ」


 私はにやりと笑って見せる。

 この為の人類皆兄弟令であったとも言えるのだ。


「それは何でございましょうや?」


 宇佐美さんの問いに思わずにやけてしまう。これを言ったらどんな表情をするのやら。


「これは段蔵から聞いた話なのですが、彼女は鞍馬山で天狗の技を習っていたそうです」


 今、明かされる段蔵の秘話(嘘)。

 彼女を忍者として使うための方便である。


「真にございますか? 鞍馬の天狗と言えば源義経公の・・・」


「はい。真の天狗かと言われますと自信が揺らぐところもありますが、師匠は鼻の長い赤ら顔の身軽な山伏の様な方でした」


 皆の視線を一斉に受けても澄まし顔の段蔵に、私は提案する。


「百聞は一見にしかず。論より証拠と申します。段蔵、鞍馬の天狗より授かりし秘儀をお目にかけてあげなさい」


「わかりました。では・・・」


 素早く印を組んだ段蔵の姿がその場からかき消える。

 その現象に目玉が飛び出しそうなほどに驚く三人。


「き、消えた!? いったい何処に!」


 周囲を見渡す三人。襖は締まっているし、部屋から出た痕跡はないというのに、姿かたちも見えなくなった段蔵に肝を冷やしているようだった。


「もう、十分でしょう。段蔵出ていらっしゃい」


 私が声をかけると、先程と全く変わらない場所に段蔵の姿が出現する。

 それにもまた驚く皆さんがた。

 この術。

 段蔵の幻術で姿を見えなくして忍術で気配を絶っただけなんですが、まあ、吃驚はしますよね。


「これで、段蔵が天狗に秘術を学んだ事は分かりましたね?」


「はあ、正直申せば狐に抓まれた心地ですが、疑う余地はござらんですな」


 宇佐美殿が納得した所で、話を修正する。


「実は段蔵は秘術だけでなく、生活の知恵も天狗から授かっているのです」


「ほう、それが先に申した特産品とやらに成り得るのでどざいますかな?」


「流石越後一の知恵者である宇佐美殿。その通りです。その名を石鹸と申します」


 因みに天狗の件から嘘八百を素面で並べ立てているのですが、話に信憑性を持たせる事、段蔵が役に立つというバックボーンを築くために止むを得ないのです。


「石鹸ですか? 聞いたことがありませんな」


 実乃さんの言う通りだろう。石鹸の起源は古いけど、明確に石鹸として日本に伝わったのはもっと南蛮貿易が盛んになった1560年以降とされており、名前もシャボンであったはず。


「うむ。何でも汚れを落とし、病に罹りにくくする効果があるとか。そうですよね、段蔵?」


「はい、姫様。仰せの通りにございます」


「であれば、かなり優れた品でございますな。作るのもたいへんそうでございますが・・・」


「いいえ、宇佐美様、それがそれほど困難でもないのです」


「獣脂2に灰を溶いた水1を煮詰めて、冷やせばできるそうです」


 段蔵と一緒に簡単に説明すると、皆驚いた顔になる。

 何しろ獣脂と言えば・・・


「新国衆の出番ですな?」


 実乃さんが言う新国衆とは、河原者と山窩の新しい呼び名である。

 差別語だった2つを変えるために。評定で議題に賭けた所、決まった名だ。

 この新国衆とただ河原者と言う言葉を禁止するという案が出て争論になったのだ。

 新国衆の最押しは宇佐美殿で禁止派は段蔵だ。

 段蔵が言うには、別の名を与えることがそもそも差別視しているんじゃないかという現代的な考えに対し、身分の高い者から名を与えられるのは栄誉なことであるというこの時代の主張が戦ったわけだ。

 結果、時代に沿ったモノとして新国衆に決まったのである。


「もしや、初めからこれを狙っておられたのですがな?」


「考えがなかったと言えば嘘になるけど、差別を無くしたかったのはそれだけじゃないですよ」


 そう前をおいて、私は自論を展開する。


「そもそも、人は生まれ落ちた瞬間は皆が等しく同じ身分だと思うのです。それは、私達武士も町人も村人も河原者と呼ばれていた彼らや、そしてとても畏れ多いことですが都の主上でさえもです」


「な、なんと! その様な滅相な事、口にしてはなりませんぞ!」


 宇佐美殿が大いに慌てるが、私の口は止まらない。


「生まれた時は本当に、いや、その後も神仏の前には皆等しく人の子であるのです。ただし、生まれついた先がどんな身分であるのかは様々ですし、その後の働きでは貴きものと下賤な者とに分かれて行ってしまいます。例えば大名の子に生まれながら愚か者に育つ者もいれば、農民の中に立派な心を持つ者もおりましょう。特に主上においては、毎日を日ノ本の民の為に私心を捨て祈り続け徳を積み続けるという坊主すら感服するしかない生活をお送りになられておられる、日ノ本一の貴きお方であられます」


「むむ・・・確かに一理ありますな・・・ですが、やはり人前でお口に上らせるべき話ではないかと存じまする」


 宇佐美殿は平伏して、私に諫言する。

 そうか。これがこの時代のスタイルなのか。


「わかりました。宇佐美殿の言葉、肝に命じましょう。ですが、私は常にこの気持ちをもって人に接している事も忘れないで欲しい」


「景虎様・・・貴女様こそ、真に神仏の生まれ変わりなのやもしれませぬな」


 宇佐美殿が話をそう括ると、皆が私を拝みだした。

 ちょ! 

 段蔵まで何してるの!?

 ここは合わせるべきでしょう? とウインクで教えてくれる。

 むぅ・・・仕方ないか・・・


「それで、話を戻すけどこの石鹸を能生の特産品として町で税をかけますよ。程よく他国からも商人などがやって来ているようですし、上手く噂を広めてもらい他所から注文が来るくらいになれば財源は大きく潤うでしょう」


「おお」


「人を集めるために町の税を基本として無税にし、特別な品を他国に売りさばくとは・・・並大抵の者には考え付きませぬ」


「虎様には商人の方が武士より向いてるのかもねぇ?」


「こら! 弥太郎、おぬしはまた!」


 そんなやりとりに私はクスクスと笑みをこぼす。


「これからの時代、こう言った既存では考えられない事を行う者が台頭してくると思いますよ」


 かの織田信長がそうであるように。


______________________________________________


「じゃあ、新国衆の皆には段蔵が話を通してきてください。弥太郎さんは鋳物職人を手配してきて」


 石鹸を型に詰めて固形石鹸にする為に鋳物職人さんを呼んでもらう。

 私と実乃さんは別の仕事だ。

 宇佐美殿には通常の政務を行ってもらう。


「新しいお触書ですか? 今度は何をしようと言うのでしょうか?」


「うむ。思うことがあって椎茸が欲しい」


「椎茸でございますか。具体的に何をなさるおつもりで?」


「椎茸を栽培できないかと考えているのですが」


「なんと!? その様な話は聞いたことがありませんぞ!」


 実乃さんの驚きは最もで、この時代、椎茸は松茸以上の高級品である。むしろ現代と立場が逆であるからして、栽培できれば大儲け間違いなしなのである。


「だからこそですよ。上手く栽培方法を確立できれば長尾家は莫大な利益を得れる。もちろん、これは秘匿すべき事であり、余人を間に挟ませないので売り上げ全てが蔵で呻ることになるでしょう」


 自信に満ちて言う私に、これまでの経緯から相当上方修正入った熱い眼差しを向けられて、思わず仰け反ったのは内緒である。


「まずは椎茸そのものよりも生えていた場所に注目したい。そこには椎茸が生える秘密があるだろうからね」


「なるほど、確かにそうですな」


 納得と言った顔の実乃さんにお触れの内容を書き留めてもらう。


「椎茸を市場の倍の価格で買い取る。ただし、摘み取りはこちらで行うので場所を覚えておき案内できるようにすること」


 場合によっては同じ場所を案内されるかもしれないが、そこに椎茸がなければ話は終わりである。仮になかったとしても嘘をついたと疑って罰を与えない事も追記する。

 場所と椎茸があれば、そこで原木栽培を試せばいい。

 上手くいけば、秋には収穫できる。

 成功した場合、その区域は立ち入り禁止にする。

 もちろん、ばれる恐れもあるだろうけど、原木栽培の理論を知らなければ見た目だけ真似しても上手くはいかないだろうから、そんなに心配はしていない。

 因みに立ち入り禁止区域での猟や採取は罪になることは知らせておかないといけない。それも相当厳しい罰を用いておく。


「取り合えずはこんなところですか。石鹸と椎茸・・・ああ、一番簡単な儲け話を忘れてた」


 私の独り言に反応して首を「ん?」と傾げる実乃さん。


「実乃さん、済み酒を造りましょう」


 濁り酒に灰をいれるだけで作れるのだ。やらない手はないだろう。

 ただ、これを特産品にするかは少し迷うところだ。

 城下町で安く買えるようにして人をさらに集めるのに使った方がいいかもしれない。

 これは、実物ができてから春日山の晴景兄上達にも相談してみようかな・・・

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