続・段蔵との会話
「改めて、加藤段蔵、本名は加藤季衣。季節の季に衣で、としえ。25歳のフリーの翻訳家よ。段蔵としては、景虎様に看破されちゃったけど、幻術と忍術、あと百里駆けができるわ」
私が落ち着くと、ちゃんとした挨拶をすることになった。
翻訳家さん。凄い頭いいんだなと思う。
聞いたら、英語、中国語、スペイン語、ポルトガル語が分かるらしい。凄い。リアルチートだ。
「私の番ね。長尾景虎、本名は長尾景虎よ。景虎と書いてけいこと読ませるの。17歳の女子高生」
「あー! 何処かで見たと思ったけど美少女剣聖じゃない! 凄い! リアルチート初めてみた!」
目をキラキラさせた季衣さんからもリアルチート言われた。
何かチート持ちでないと此処にはこれないんだろうか?
「じゃあ、さっきの刀で地面切ったのも現代でも出来たの?」
「まさかですよ。あれは毘沙門天の加護で剣気を飛ばしたものです」
毘沙門天の加護にある身体能力の大幅な上昇って、筋肉や神経だけじゃなく気功の分野にまで及ぶらしい。弥太郎さんの木刀を木刀で斬れた現象を考察して剣気が鋭さを増したからじゃないかと考えたら剣気を飛ばせたのには驚いた。
「剣気なんて言葉リアルで聞いたの初めてだわ」
「そうですか、意外と古流剣術の流派には相応に使われているかと思いますよ?」
「それじゃあ、景虎ちゃんはその毘沙門天の加護の他に何が使えるのかしら?」
「そうね、特技とかではないですけど、サーモグラフィやナビアプリみたいな物とか、あと人の名前や自分の配下の忠誠度のおおよその見当が付けられるし、人を健康にするツボみたいなのもわかったりするよ」
モデリング能力は秘しておこう。変な目で見られそうだ。
「なんだか節操なしに見えて、共通性はありそうね」
こめかみに人差し指を当てて思案する季衣さん。美人はどんなポーズも絵になるわ。
「景虎ちゃんにあって私にはない、その特技とは違う能力。その関係性は・・・」
「関係性は?」
知らずに喉が鳴る。
「ずばり、主人公とモブよ!」
「え・・・?」
「そうよね、幾ら段蔵様が素敵でも、上杉謙信と比べたらダメよ。ゲームでも主人公大名とその家臣でしかないわけだもの」
「そんな理由・・・?」
「明確に言うとプレイヤーとNPCね。貴女の能力はプレイヤーがゲームをするうえで必要、または役に立つ当たり前のシステムみたいなもので、私の特技はNPCが持つスキルと言うだけの違いだと思うわね」
はぁ、そうですか。
いや、そう言われればそんな気がしてくる。
「で、サーモグラフィとか人体のツボとか良くわからないことまで出来るとなると、ある意味万能な力かも。多分だけど、太鼓を叩くときに何処を叩けばいいとかわかるかもしれない。釣りをするのに良いポイントとか教えてくれたりとか・・・この世の事象を全てゲームの仕様に合わせてナビゲートしてくれるものじゃないかしらね」
な、なるほど・・・それなら戦国時代に無知な私でもやっていけそうではある。
「でもナビがあれば何でもできるわけじゃないのは現実と同じ。あくまでもサポートだから使用する人が失敗するのもあるあるよね」
う~ん・・・
ヲタクって凄い。本当かどうか分からないけど今ある情報からどんどんアイデアが膨らんでいく。
「さて、結構長い事、話し込んじゃったけど何か聞きたい事はあるかしら?」
「そうですね。じゃあ、なんで季衣さんはこの国に来たんですか?」
歴女の彼女なら謙信と段蔵の相性が悪いのは承知のはずだ。
「それは長尾景虎が本当に死んだのか確かめる為」
私の死亡フラグの一つだしねと朗らかに笑う季衣さん。
「まあ、貴女が景虎様なら私は殺されないでしょ。よかったよかった」
忍者何てこの時代じゃ底辺だしと悲し気に零している。
ああ、そうかこの時代だと素波とか乱波とか呼ばれて武士どころか農民にでさえ、同じ人間として扱われない時代だったっけ。
これは考えていた改革を早く行わないといけないなと気を引き締める。
それとは別だけどあと一つ聞いておかないと。
「ねえ、百里駆けってどんな能力なの?」
「うん? 能力の詳細は分からないの?」
「自分の能力なら分かるんだけど、他人の能力持ちは季衣さんが初めてだから・・・」
「じゃあ、もっと良く見てみたらどう?」
ああ、そうか。自分の能力も最初は良くわからなかったな。
「じゃあ、見てみるね」
一応断ってからじっと見つめてみる。
百里駆け:馬の2~3倍の速度で野山を休みなしで走り抜けられる。2倍以上の速度の時10分間に体力を1消費する。また10%速度を上げる毎に体力を1消費する。
お、これは色々と重宝しそうな能力だ。
「見えたかしら?」
「頑張ってもらうね、飛脚屋さん」
私がにこやかに言うと、季衣さんの口角が引き攣った。
お手柔らかにお願いしますという季衣さんに、今度は私に聞きたいことは無いか尋ねてみる。
「じゃあ、なんで景虎ちゃんは、今、こんな辺鄙な所に居るのかしら? 時期的に栃尾城で戦三昧じゃないの?」
流石、歴女。よくご存じでいらっしゃる。
そこで私は中郡周辺の豪族を謀略まがいの作戦で平定したことを教えた。
「は~・・・良くそんな手を思いついたわね。謙信は戦術レベルの大天才だったけど戦略レベルだと平均よりちょい上ぐらいだったのに」
季衣さんが感心したのは国人衆を制圧したことより、彼らから土地を取り上げた事だった。
「それで、そんな大手柄を立てたのにこんな辺鄙な所に左遷されたのは史実と同じに晴景に嫌われてるから?」
「晴景兄上は良い人ですよ。父の為景が嫌悪していたから何かわけがあるんだろうっと追従してただけで、私が女と知った時点で謝罪した上に我儘を聞いてもらったんだもの」
「え。そうなの? ていうか、謙信が女だって認めたわけ?」
思わず開けてしまった大きな口を掌で隠して驚く季衣さん。
「うん。母親の青岩院様が真実を語ってくれたんだよ」
「上杉謙信女性説、本当だったのか・・・」
「でね、私が此処に居るわけは、ここで新しい政を自由に行うためよ」
「自由にって・・・何するつもり? 破落戸を罪人兵とかにしたのって将来の常備軍の為でしょ? 他にあるの?」
「流石、歴女。よくわかってる。それなら残りもわかるんじゃないかな?」
「う~ん・・・内政チートをやりたいんだろうけど、それで態々、自由にしていい領地をもらう必要はなくない?」
「時間があればね」
「あ~そうか! 結果を早く出したいのね! でも従来のやり方を変えるのに抵抗されるから・・・」
ポンと掌を打って納得顔。
「そう。強行するんだよ。で、もし、結果が出なかったら今年の税は取らないってお触れをだす」
「そうよね。やり方を間違えなければ結果は出るはずだし、その成果を直ぐに報告して越後全土で行えば国力は大きく増すわ」
間違いなく越後は史実よりも数倍速く強くなれると太鼓判を押された。
その賞賛に心地よさを覚えた私は、考えている施策を次々と打ち明けて、時にダメ出しをもらい、時により良いアドバイスを貰ったりして充実した時間を過ごしたのである。
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「随分と時間が掛かりましたな」
とは、夕餉を突く宇佐美殿の言。
残念ながら季衣さ・・・いや、段蔵はいない。
彼女はまず罪を償わないと示しがつかないからだ。
因みに罪状は無銭飲食、いわゆる食い逃げである。
と言っても、本人が言うには酒の飲み過ぎで記憶がないとのこと。
金子は持っていたはずだけど気が付いたらなかったそうだ。
因みに気づいたのが今朝がたの朝餉の時だというのだから、どれだけ飲んでいたのやら。
どうしてそんなに飲んだのか尋ねたら、戦国時代で初めて飲むお酒で興奮していたという。でも酒精が弱く飲んだ気分にならないので、杯を重ねるうちに気づいたら、牢屋の中で朝を迎えていたという間抜けな話であった。
あれだけのステータスに特技まであってあっさりお縄に付いたのも納得。
深酒の後での麦粥を前にして逃げなかったのも、納得?
まあ、罪は軽いほうなので七日の罰とあいなりました。
ああ、ついでにいうと彼女には武術の心得は無いとのこと。ただステータスでチンピラ程度はごり押しできるようだ。
あと特技に忍術があるので鎖鎌や苦無等は使えるけど、ただ使えるだけで実戦で役に立つかは分からないらしい。
「まあ、そんなに怒らないで欲しい。お陰で気の置けない仲になれたわけだし」
「怒ってなどおりませぬ!」
あ、ご飯粒が飛んだ汚い。
「景虎様、宇佐美殿はそれが気に食わないのですよ」
「ああ、爺さんの嫉妬なんてみてられねぇ」
なるほど。今日会ったばかりの素性の怪しい人物と竹馬の友の様になってしまったことを妬んでいたのか。
「大丈夫です。宇佐美殿とも分かり合える日が直ぐに来ますとも」
「そうあってもらいたいものでございますな」
やれやれだ。
「さて、明日から本格的に忙しくなるから、皆、よく休むように」
全員が夕餉を終えて人心地付いたところで解散を宣言する。
各々が部屋に帰って行く様を見届けてから、私も部屋を出る。
向かうは、執務室。
明日の朝、皆に一番に発布するお触れを書かなければならない。
私の国造りの根幹としなければならない命令だ。
題して
『人類皆兄弟令』
である。




