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世界樹ダンジョンで囮にされた僕、風精霊と同化して銀髪美少女へ 〜学園では落ちこぼれDクラスなのに、配信者を救いまくっていたらネットの神になっていた件〜  作者: あかぱん
風の精霊と学園都市

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二度目の降臨

深夜、午前二時。

静まり返った学生寮の窓を開けると、ひんやりとした夜風が銀色の髪をさらりと揺らした。


『……ノア。第25層、大気の魔力脈に強い歪み。……異常発生の兆候』

テラの低く落ち着いた声が脳内に響く。


『へっ、やっぱりな! さっきから風の通りがやけに重苦しいと思ってたぜ。ダンジョンの深部で魔力が詰まってやがる』

イグニスが腕を鳴らすように呟いた。


風の大精霊と同化して以来、僕の身体は世界樹ダンジョン内の空気の乱れを、まるで自分の呼吸のように感知してしまう。

大気が淀み、魔力が異常に凝縮した場所には、高確率で狂暴化した変異種が現れる。放っておけばダンジョン災害に発展しかねない。


「……ちょっとだけ、風の通りを良くしてこよう」


僕は制服を脱ぎ、動きやすい黒のインナーに濃紺のマントを羽織った。

そして、あの真っ白な磁器の仮面を顔に当てる。

仮面が素顔に吸い付くように馴染み、僕の翡翠の瞳に澄んだ翠の燐光が宿る。


部屋の窓を静かに乗り越えると、足元に微細な上昇気流を発生させた。

音もなく、重力すら置き去りにするように、僕は夜の闇を滑り抜けて世界樹の巨大な幹――ダンジョン入口へと滑り込んだ。



世界樹ダンジョン・第25層『水晶鍾乳洞』。

本来ならプロのAランク探索者しか立ち入れない危険地帯に、けたたましいアラート音と青白い魔導ドローンの光が乱反射していた。


「――っ! 結界が保ちません! 早く後退を!」

「ダメだ、退路を塞がれた! クソッ、なんだってこんな層に第35層クラスのネームドが湧いてやがるんだ……!?」


悲鳴を上げていたのは、現役の学生プロ探索者パーティ『白銀の翼』の面々だった。

彼らの頭上に君臨しているのは、全長十メートルを超える巨大な結晶甲虫――【変異種・ダイヤモンド・ビートル】。

全身を覆う超硬度の水晶装甲は、あらゆる物理・魔法攻撃を跳ね返し、周囲の大気圧を押し潰すほどの魔力を撒き散らしていた。


彼らの後ろでは、自動追従型の配信ドローンが明滅を繰り返している。

深夜の突発事故にもかかわらず、突如始まった危険度S級の戦闘配信に、ネットの閲覧数は瞬く間に跳ね上がっていた。


【緊急配信】白銀の翼、第25層で変異種と遭遇/全滅の危機

《同接:185,000人》


『うわあああ白銀の翼が詰んでる……!』

『救援要請は!? ギルド本部は動いてるのか!?』

『第25層だぞ!? 最短でもSランク部隊が到着するまで30分はかかる!』

『逃げてえええええええ!!』


甲虫が巨大な水晶のハサミを振り上げ、前衛のシールドごと押し潰そうと振り下ろされた――その瞬間。


ヒュンッ。


甲高い、澄み渡るような風切り音が洞窟内に響いた。


「……え?」


前衛の戦士が目を見開く。

振り下ろされたはずの巨大なハサミが、何もない空中でピタリと静止していた。

いや、違う。

ハサミの周囲の空間そのものが、超高密度の旋風によってガチガチに固定されていたのだ。


闇を切り裂いて、ふわりと舞い降りた一つの影。

はためく漆黒のマント。

闇夜に淡い翡翠に輝く白銀の長髪。

そして――無機質な白い仮面の奥から覗く、吸い込まれそうな翠光の双眸。


『……え?』

『うそだろ……?』

『ま、まさか……!?』


配信のコメント欄が一瞬で止まり、次の瞬間に濁流となって流れ始めた。


『翠光様アアアアアアアアアアアアアア!!!』

『本物だあああああああああ!!!』

『また現れた!! 守護天使様だあああああ!!!』


洞窟内の異常な魔力の淀みを感じ取りながら、僕は右手をスッと水平に薙いだ。


――散れ。


声は出さない。ただ、大気にそう命じる。


ダイヤモンド・ビートルを取り囲んでいた大気が、分子レベルで極限まで圧縮され、次の瞬間に一斉に解放された。

不可視の真空刃が、甲虫の周囲数百メートルの空間を幾重にも交差して切り刻む。


パキィィィィィィィン……!


硬度10を誇るはずの水晶装甲が、まるで薄氷のように粉々に砕け散り、巨大な巨躯が一瞬にして無数の水晶粉末となって光の粒子へと還っていった。


爆発も、派手な魔法陣も、詠唱すらもない。

ただのひと薙ぎ。それだけで、Aランクパーティを壊滅寸前に追い込んだ悪夢が消滅した。


「あ……あ……」

呆然とへたり込む探索者たち。


僕は彼らに視線を向けることもなく、空中に滞留していた淀んだ魔力脈を風でさっと散らし、呼吸を整えた。

……よし、これで大気の詰まりは解消された。


(……げぇ!?)


背後で配信ドローンがパシャパシャと赤いレンズを点滅させているのに気づき、僕は内心で冷や汗を流しながら、マントを翻した。


『あはは! ノアっち、カメラ目線バッチリ決まっちゃったね!かっくい~!』

フルグルが脳内でケラケラと笑う。


(やばい、早く帰らなきゃ……! 明日、一限から授業なんだから……!)


突風を足元に巻き起こし、僕は一瞬で洞窟の天井の裂け目へと跳び上がった。

残されたのは、煌めく水晶の燐光と、現場に漂う爽やかな緑風の香りだけだった。



【速報】翠光の仮面様、第25層に降臨! ネームドを一撃粉砕【同接300万】


その夜、ネット掲示板とSNSは完全にサーバーが焼き切れるほどの狂乱に包まれていた。


『公式切り抜き動画キタアアアアア!』

真空断層(ヴォイド・スライサー)の無詠唱発動とか魔導理論崩壊してて草』

『あの圧倒的な美しさと強さ……完全に神の御業だろ……』

『マリンちゃんの話はガチだったんだ……!』

『【朗報】翠光教、正式に発足へ』


そんなネットの世界の熱狂を余所に、ノアは寮のベッドに潜り込み、毛布を頭まで被って小さく丸まっていた。


「……は、はずかしぃ……」


小さく漏らした溜息は、夜の風に乗って静かに消えていった。

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