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世界樹ダンジョンで囮にされた僕、風精霊と同化して銀髪美少女へ 〜学園では落ちこぼれDクラスなのに、配信者を救いまくっていたらネットの神になっていた件〜  作者: あかぱん
深層特務調査編

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深淵へ

決行の日の朝。世界樹ダンジョンの空気は、いつも以上に肌を刺すような冷気と緊張を孕んでいた。


転移陣を乗り継ぎ、たどり着いたのは地下20層。

樹冠が天を覆う美しい地上階層とは完全に隔絶された、湿った巨木の太い根が網目のように張り巡らされた岩窟の底だ。

その最奥に位置する『第20層セーフゾーン』は、巨大な魔導防壁によって瘴気とモンスターの侵入を遮断した、人類が安全を確保できる事実上の最前線基地であった。白光を放つ結界のドーム内には非常用の備蓄コンテナや通信設備が並び、重苦しい機械の駆動音が低く響き渡っている。


学生選抜チームの四人は、すでにそれぞれの装備を完璧に整えていた。


生徒会長・神薙氷華は、動きやすさを重視した純白の防護軽装に、腰には青く澄んだ魔力を宿す氷の細身剣。

クラリスは、高貴な緋色の布地に金糸の刺繍が施された特注の耐火魔導ローブを纏い、先端に紅蓮の宝玉を嵌め込んだ優美な長杖を静かに構えている。

クローディアは、長身に馴染んだハードレザーアーマーと、背中に背負った身の丈ほどもある無骨な両手大剣。

そして僕――ノアは、軽量な探索者用のレガースと胸当てを身につけ、表向きは支援科の生徒らしく、腰のポーチに各種ポーションや測定用の魔導具を忍ばせていた。


すでにセーフゾーンの中央には、先日街で言葉を交わした水無瀬マリンとレオンの姿があった。


「おっ、みんな来たね! おはようー!」

マリンが軽快に手を振って出迎えてくれる。

「おはよう、四人とも。良い顔つきだね。よく眠れたかい?」

レオンも左右の腰に一対の風切り双剣を佩き、相変わらず気負いのない柔らかな微笑みで迎えてくれた。


「はい、体調に問題はありません」

氷華が背筋を伸ばして応じる横で、カツ、カツ、と硬質なヒールの音が結界内に響き渡った。


「ふふ……初々しくて可愛らしいお嬢さんたちね。そこの華奢なあなたも、そんなに肩を強張らせなくていいのよ?」


「は……はい!」


緊張するノアの傍まで、濡れたような艶やかな声音とともに歩み寄ってきたのは、息を呑むほど妖艶な美女だった。

肩や腰回りを大胆に露出させた紫紺のレザースーツに、薄手の防護マント。紫水晶のような瞳はどこか気だるげで、蠱惑的な魅力を振り撒いている。だが、その右手に握られているのは、幾重もの鋭利な刃の節が連なる異形の武器――蛇腹剣だ。

彼女が歩くだけで、細い指先からパチパチと極めて高密度に圧縮された紫電の火花が微かに爆ぜていた。

名を、シエラ・ナイトシェイド。変幻自在の間合いと苛烈な雷撃で敵を屠る、ギルドでも指折りの特級遊撃手だ。


「なっ……な、何ですのその破廉恥な装いは! 探索を何だと思っていらっしゃいますの!?」

思わず顔を赤くして噛みついたクラリスに、シエラはクスリと笑う。

「あら、お熱い歓迎ねお嬢様。これでも雷の魔力伝導率を極限まで計算した特注品なのよ? きみも、目のやり場に困っちゃうかしら?」

「えっ、あ、いや……その……!」

からかうようにウインクされ、僕はたじたじになって視線を泳がせるしかなかった。


「これ、シエラ! 学生たちをからかうでない!」


地響きのような重厚な声が響き、重い甲冑の擦れ合う音がシエラの悪戯を遮った。

歩み出てきたのは、白髪交じりの立派な髭を蓄えた、岩山のように屈強な老齢の重騎士だった。

身の丈をゆうに超える漆黒のタワーシールドを左腕に固定し、右肩には無数の戦傷が刻まれた巨大な戦斧を担いでいる。皺の刻まれた顔立ちには歴戦の凄みが漂い、直立するその姿はまるでそびえ立つ城壁そのものだった。

名を、ボルドー・グレイヴ。鳴神冴香先生が探索者として頭角を現すよりも遥か昔から第一線で戦い続けている、探索者ギルドの生ける伝説と呼ばれる最古参の重鎮だ。


「ただでさえ未知の階層へ挑むのだ、余計な気を散らせてやるな」

「ボルドーのおじ様ったら、相変わらず堅物なんだから。緊張をほぐしてあげようと思っただけなのに」

シエラが肩をすくめると、ボルドーはフンと短く鼻を鳴らし、僕たちに向き直って深々と頷いた。

「若人らよ、よくぞ参った。老骨ではあるが、盾としての役目は我が命に代えても果たそう。背中は預けてもらいたい」

「よろしくお願いします、大先輩!」

クローディアが嬉しそうに目を輝かせ、大剣の柄を叩いて気合を入れた。


プロ四名、学生四名。計八名が揃ったところで、大型通信コンソールの前に立つ鳴神先生が、ゆっくりと振り返った。


「全員、顔合わせは済んだな」


普段の職員室で見せるような気だるげな笑みは微塵もない。結い上げた黒髪の下から覗く双眸は、鋭利な刃物のように研ぎ澄まされていた。

先生自身、腕利きの探索者として前線に飛び込みたい気持ちは痛いほどあるはずだ。だが、今回の任務において最も重要なのは、外からリアルタイムでデータを解析し、退路の安全を監視する絶対的な管制官の存在だった。


「冴香さん、いつでもいけますよ」

レオンが声をかけると、先生は頷き、指先でコンソールを操作した。

青い立体ホログラムが空間に浮かび上がると同時に、セーフゾーンの隅に待機していた二基の銀色の円盤が低音の浮遊音を響かせながら宙へと浮上する。


「今回の探索には、ギルド本部直轄の偵察・データ収集用ドローン二基を随伴させる。お前たちの視覚情報、バイタルサイン、周囲の魔力濃度および瘴気指数は、リアルタイムでこのゲート管制室へ送信される」


先生はホログラム地図――地下20層から下へと伸びる、黒く塗りつぶされた未踏エリアを指し示した。


「地下25層以降は、過去に数えるほどのトップランカーしか足を踏み入れておらず、地形構造も生態系もほぼ未解析の暗黒領域だ。直近で観測されている魔力の異常潮流を見る限り、何が起きても一切の不思議はない」


「……つまり、何が飛び出してきても自力で対処しろ、ってことですね」

マリンがおどけて肩を竦めると、先生は厳格な視線で八人を見据えた。


「そうだ。よって――いかなる状況であれ、単独行動および学生チームのみでの突入・先行は厳禁とする。前線はボルドーとレオンが統括し、索敵と遊撃はシエラとマリンが担当する。学生チームはプロの指示に絶対に従い、外との通信リンクを常に維持しろ」


「了解いたしました」

氷華が凛と返答する。先生はさらに声を落とし、最も重要な任務目標を告げた。


「今回の最終到達点は、地下30層に存在する【最奥入口ゲート】だ。そこへ到達した時点で、ドローンによる瘴気の濃度測定、および扉周辺の空間構造スキャンを実施する。解析が完了するまでの間、ゲート前で迎撃態勢を維持しろ」


そこで先生は言葉を切り、一段と強い眼差しで全員を見回した。


「いいか、よく聞け。ゲートの奥へ踏み入ることは、今回の任務には一切含まれていない。扉の向こう側で何が蠢いていようと、絶対に開けるな。ドローンの走査が完了次第、速やかに退路を確保し、来た道を戻れ。全員が無傷でこのセーフゾーンへ生還すること――それをもって、本任務の完全達成とする」


「……もし、奥から何かヤバい奴が出てきたら?」

クローディアがニヤリと笑いながら問いかけると、先生は眉一つ動かさずに即答した。


「任務を即座に放棄しろ。想定外の事態、未知の変異体、あるいは隊員の重大な負傷――少しでも状況が破綻へ傾いたと判断した場合、どんな貴重なデータよりも生体反応の維持、すなわち人命を最優先として全力で撤退しろ。……特に、学生チーム」


先生の視線が、氷華、クラリス、クローディア、そして僕のところで止まる。

冷徹な指揮官の瞳の奥底に、生きて帰ってこいという切実な祈りが揺れていた。


「必ず、生きて帰ってこい。……全員揃ってだ。いいな」


「「「「はい!!」」」」


迷いのない、力強い返答がセーフゾーンに響き渡った。


氷華の青銀の瞳には揺るぎない覚悟が宿り、クラリスは杖を握り直して凛と前を見据え、クローディアは不敵に口元を吊り上げている。


その張り詰めた緊張の中、僕の左右の肩口に、周囲の誰にも見えない二つの燐光がふわりと灯った。


『へへっ、いよいよ本番だねノアっち!』

紫電をチリチリと弾けさせながら、フルグルが楽しげに笑いかけてくる。

『あのシエラってオネーサンの雷魔法も悪くないけどさ、アタシの雷の足元にも及ばないよ! なんかあったら遠慮なく言ってよね、ドカンと一発、瘴気ごと吹き飛ばしちゃうかんね!』


『フン、相変わらず騒がしい奴だなフルグルは』

反対側の肩で、焔を揺らめかせたイグニスが腕を組んで鼻を鳴らした。

『だがノア、奴の言う通りだぜ。地下25層以降の瘴気はかなり淀んでいる。これまでの変異種とはわけが違うやつらがうじゃうじゃいるかもしれねー。……遅れを取んじゃねーぞ』


(フルグル、イグニス……ありがとう。頼りにしてるよ)


心の中で二対の精霊に応えると、魂の奥から熱いものが湧き上がってくるのを感じた。表向きはただの支援科として立ち回るけれど、僕の背後にはこれ以上なく心強い仲間たちがついている。


「よし。――深層特務調査隊、出撃!」


鳴神先生の号令とともに、コンソールから甲高い承認音が鳴り響いた。


重厚な機械音を立てて、地下20層と21層を隔てる巨大な三重の魔導障壁が、下層へと向かってゆっくりと解放されていく。

防壁が開いた瞬間、結界の中へとなだれ込んできたのは、肌をピリピリと刺すような高濃度の瘴気と、未知の深淵が放つ底知れない冷気だった。


「行くぞ若人らよ、我が背に続け!」


歴戦の重騎士ボルドーが巨大な漆黒の大盾を構えて先頭に立ち、その左右を風の双剣を抜いたレオンと、紫電を纏わせた蛇腹剣を下げるシエラが固める。

マリンが軽快なステップで周囲のクリアランスを確認し、その後ろ詰めに氷華たち学生チームが隊列を組んだ。


未知の変異と深淵の闇が口を開けて待つ、地下21層以深へ。

二基のドローンが青い光の軌跡を描いて先行する中、八人の調査隊は一歩、また一歩と、迷いのない足取りで暗黒の階段へと消えていった。

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