チーム結成
重厚な生徒会室の扉が閉ざされ、室内にはピンと張り詰めた静寂が落ちていた。
デスクに腰掛けた鳴神冴香先生が、集まった僕たち四人――氷華、クラリス、クローディア、そして僕の顔を鋭い眼差しで見渡す。
「集まってもらったのは他でもない。先日の合同実習で起きた異変……そして、それを受けた学園および探索者ギルド上層部からの極秘通達を伝えるためだ」
鳴神先生が手元の端末を操作すると、中央のホログラムスクリーンに巨大な樹木――『世界樹ダンジョン』の立体透過図が浮かび上がった。
「皆も基礎知識としては頭に入っているだろうが、改めておさらいしておくぞ」
先生は指先でホログラムを指し示した。
「人間は現在、大気中の『魔素』を消費してスキルや魔法を行使し、この学園都市では動力や化学製品のエネルギーとしても活用している。だが、魔素は消費されると『瘴気』と呼ばれる有害な老廃物へと変質する。……百年前、世界に溢れかえったこの瘴気を浄化する術は人類にはなかった」
ホログラムの樹木が淡い光を放ち、地中から大気へと循環するラインが描かれる。
「そこに突如として現れたのが、この世界樹だ。世界樹の内部はまるで樹木の静脈のように空洞の迷宮……いわゆるダンジョンが広がっている。地上付近のエントランスから入り、上空へ伸びる枝葉側の上層区画は、世界樹が瘴気を魔素へと還元・浄化して世界へ放出する循環器官だ。対して、地下へ根を張る下層区画は、世界中から集められた有害な瘴気が濃縮されて沈殿する場所となっている」
(……上層最奥は、いつも大精霊様やみんなと過ごしている場所だね)
僕が心の中でそっと呟くと、脳裏で大精霊マグナ・マテル様の声が返ってきた。
『ええ。わたくしたち精霊が管理できているのは、あくまで上層区画全体と地下の一部区画まで。地下の最奥区画はあまりに瘴気が濃すぎて、精霊の力すら届かず手つかずのまま残されている禁忌の領域です……』
「そして本題だ」
鳴神先生の声が一段と低くなった。
「先日の実習でノアが見つけてくれた変異した月光草、そして浅層に乱入してきたあの黒骸竜。解析の結果、双方から検出されたのは、この地下最奥から漏れ出した異常な高濃度瘴気だった」
「っ……やはり、地下最深部で何か起きていると……?」
氷華が青銀の瞳を真剣に尖らせて問う。
クラリスも端整な顔立ちを強張らせ、クローディアは顎に手を当てて静かに聞き入っていた。
「ああ。このまま放置すれば、さらなる変異種が浅層へ雪崩れ込み、学園都市はおろか地上全体に未曾有の災厄が及ぶ恐れがある。そこで――」
先生はモニターを切り替え、一枚の招集令状を表示させた。
「ギルド詰めのプロ探索者チームと合同で、原因を突き止めるための『深層特務調査隊』を結成することが正式に決定した。……そして、学生選抜枠として、先の実習で最優秀の成績を収めたお前たち各隊の代表四名を調査隊に推薦する」
「なっ……私たちが、地下の最深部へ……!?」
クラリスが息を呑み、思わず身を乗り出した。
「先生、いくら実習上位とはいえ、まだ学生の私たちにそこまでの危険な任務を任せるなど……ましてや、支援科の生徒まで同行させるのですか!?」
クラリスの疑念に満ちた視線が僕へと向けられる。
だが、鳴神先生は首を横に振った。
「もちろん、最奥の調査といっても実際には最奥区画入口付近までだ。だが、危険な任務に変わりはない。これは先日の現場に居合わせた当事者であり、かつ各自の卓越した実力と能力を買っての判断だ。クラリス、お前の高い殲滅力。氷華の絶対的な統率力と戦闘力。クローディアの盤石な防衛・突破力。そして――ノアの並外れた観察眼と、異常を嗅ぎ分ける探索能力。どれ一つ欠けても、未知の深層調査は成り立たん」
「……っ」
先生の断固たる言葉に、クラリスは唇を噛み締めながらも反論を飲み込んだ。
「へぇ……プロの探索者と合同で最深部調査かい。危険だが、腕が鳴るねぇ」
クローディアは不敵に笑い、逞しい腕を組んでみせる。
一方、生徒会長の氷華は静かに立ち上がり、凛とした声で応じた。
「生徒会長として、そしてこの学園の探索者として、謹んで拝命いたします。都市の危機を看過するわけにはまいりません」
そう言って決意を固める氷華だったが、ふと僕と目が合うと、先ほどの表彰式を思い出したのか一瞬だけ頬を朱に染め、慌てて視線を逸らした。
「詳しい作戦内容とプロチームとの合流手順は、後日改めて通達する。決行は一週間後だ。各自、万全の装備を整え、訓練に励んでおけ。……以上だ、解散!」
「「「はい!」」」
重い任務を背負い、生徒会室を後にする僕たち。
一週間後に迫る深淵へのダイブ――世界の根幹を揺るがす戦いに向け、嵐の前の静けさが動き出そうとしていた。




