実習終了!
突如現れた変異種モンスターの乱入により、合同実習は急遽その場で打ち切りとなった。
幸いにも氷華の迅速な足止めと『翠光の仮面』の介入、そして教官たちの迅速な突入によって、生徒側に一人の重傷者も出すことなく事態は収束した。
そして、ダンジョン入り口の広場にて、中断時点でのスコアによる結果発表が行われることとなった。
【学内実習:最終結果】
1位:ノア隊(75,000pt)
2位:クラリス隊(8,400pt)
3位:クローディア隊(6,200pt)
「「やったぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」」
スコアボードを見上げた瞬間、リノと夜々が手を取り合って飛び跳ねた。
「うひょ~!!マジで1位っすよ! ノアちゃん、夜々ちゃん! 最高評価の単位確定っす〜〜!!」
「ふぇぇぇ……っ、夜々、Cクラスなのにこんな順位とれるなんて夢みたいですぅ……!」
無邪気にはしゃぐ二人を見て、僕もほっと胸を撫で下ろす。
すると、リノがふと思い出したように僕の顔を覗き込んできた。
「そういえばノアちゃん、さっきの避難騒ぎのとき、一体どこ行ってたんすか? 気づいたらいなくなっててめっちゃ心配したんすよ!」
「え、あ、あはは……。ちょっとあまりの恐怖に急にお腹が痛くなっちゃってさ……」
「もう、ノアちゃんったら肝心な時にヘタレなんすから〜!」
「でも、ご無事で本当によかったですぅ……!」
二人があっさりと納得してくれて、僕は背中に冷や汗を流しながら苦笑いを浮かべた。
「――それでは、実習上位チームの表彰を行います。1位、ノア隊の代表者は壇上へ」
放送に呼ばれ、僕は特設の表彰台へと向かった。
壇上へと上がる途中、2位の列に並ぶクラリスから「……絶対に何かあります」と言わんばかりの、悔しさと強い疑惑に満ちた鋭い視線が突き刺さる。
(うぅ、クラリスさんの視線が痛い……)
縮こまりながら壇上の中央へ進むと、そこには表彰状を手にした生徒会長・神薙氷華が立っていた。
だが、いつもの凛とした佇まいとは違い、どこか視線が宙を彷徨い、ぼんやりと考え事をしているようだった。
「……神薙会長?」
心配になって、僕が下からそっと顔を覗き込むように声をかけると――
「……っ!?」
氷華の身体がビクッと跳ね上がった。
至近距離で瞳を見つめた瞬間、彼女の脳裏に、先ほど自分を救い去っていった『翠光様』の姿が鮮烈にフラッシュバックしたのだ。
(なっ……!? なぜ、この子を見ていると、あの御方の姿が……!?)
「ひゃ、あ……っ!」
氷華は耳元まで一気に真っ赤に染め上げ、手元の賞状を取り落としそうになりながら激しく動揺した。
「か、会長……!? 大丈夫ですか? さっきの戦いで、やっぱりどこかお怪我でも……?」
「な、なんでもありませんっ! 気にしないで頂戴……っ!」
氷華はぶんぶんと小さく首を振ると、両手で自らの頬を軽く叩いて強引に冷徹な生徒会長の顔を取り戻した。
そしてコホンとひとつ咳払いをし、表彰状を僕の前に差し出す。
「……第1位、ノア隊。貴方たちの見事な観察眼と採取技術は、実習において極めて優れた成果を収めました。……困難な状況下でも冷静に役割を果たしたその功績を称え、ここに表彰します。おめでとう、ノアさん。立派でしたよ」
「あ、ありがとうございます……!」
僕が両手で賞状を受け取ると、氷華は微かに微笑み、続けてマイクへ向けて通る声で全体へ語りかけた。
「……今回の実習は予期せぬ事故により中断となりましたが、皆さんが協力し、努力された結果は厳正に評価いたします。突然の危機にも関わらず、一人も脱落者を出すことなく実習を終えられたことは、皆さんが日頃の訓練の成果を正しく発揮された証です。……以上をもって、本実習を終了とします」
生徒たちから大きな拍手が沸き起こり、波乱に満ちた合同実習は幕を閉じたのだった。
◇
同日夕刻――学園都市南区画・魔導生体研究開発所。
薄暗い研究室の中、鳴神冴香は白衣を着た主任研究員の男の前に立ち、腕を組んでモニターを睨みつけていた。
画面には、ノアたちが採取した月光草と、討伐された黒骸竜の細胞スキャンデータが並んで表示されている。
「……で、解析の結果はどうなんだ」
冴香が低く問い詰める。
研究員は眼鏡のブリッジを押し上げ、脂汗を浮かべながら重い口を開いた。
「信じられんよ、鳴神先生。月光草の葉脈、そしてあの黒骸竜の筋組織の深部から検出された瘴気だが……通常ダンジョン内で生じる循環濃度の比じゃない。文字通り、桁が違いすぎるんだ」
「桁違いの瘴気濃度……。通常のモンスターが自然発生するレベルを遥かに逸脱している、ということか」
「ああ。これほど凶悪な濃度となれば、原因の心当たりは一つしかない。……以前から極微量に観測されていた、あの未踏の地下区画だ」
研究員は震える指先で、画面上のダンジョン断面図の最底辺――未踏領域である地下深くを指し示した。
「……ダンジョンのさらに底、未だ誰も足を踏み入れていない最深部から、膨大な瘴気が漏れ出している可能性がある」
「…………」
冴香は愛刀の鍔に親指をかけ、険しい表情でモニターの深淵を見つめた。
浅層にまで這い上がってきた異変の影。
その正体を突き止めるための嵐が、すぐそこまで迫っていた。




