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終末日記  作者:
18/20

長い停電

2039年。

始まりは、ただの不景気だった。


世界的な物流停滞。

資源価格の高騰。

気候変動による不作。


どれも以前から言われていた問題だった。


だから人々は、

「またその話か」としか思わなかった。



数年かけて、

少しずつ生活が悪くなる。


電気代が上がる。

食料が減る。

保険料が上がる。


でも、

まだコンビニは開いているし、

動画も見れる。


人類は、

“ゆっくり悪化する危機”に驚けない。



2042年。


大規模熱波。


複数国の電力網が限界を超える。


停電。


最初は数時間だった。


だが、

送電設備の交換部品が届かない。


工場も止まっている。


輸送燃料も不足している。


復旧できない。



都市の一部が、

数週間単位で停電し始める。


冷蔵庫が止まる。

エレベーターが止まる。

通信基地局が止まる。


人々は初めて、

現代社会が「常時稼働」を前提に作られていたと知る。



2043年。


金融不安。


各国は補助金を出すが、

もう支えきれない。


高齢化。

医療費増大。

災害復旧。

エネルギー不足。


全部が同時に来る。



国家は壊れなかった。


でも、

“細く”なっていった。


救急車が来ない日が増える。

水道修理に数ヶ月かかる。

警察が来ない地域が出る。


それでもニュースは、

「直ちに問題はありません」と言い続ける。



2045年。


食料供給が不安定化。


世界全体では食料は足りている。


問題は輸送だった。


港湾ストライキ。

燃料不足。

コンテナ不足。


スーパーから、

いつも何かが消えている。


米がない週。

卵がない週。

薬がない月。



人々は、

少しずつ備蓄を始める。


でも、

映画みたいなパニックにはならない。


皆、

「そのうち戻る」と思っている。



2047年。


夏。


記録的猛暑。


変電所火災。


大都市圏で、

1ヶ月規模の停電が発生する。



最初の数日は、

みんな耐えた。


スマホで情報交換し、

店に並び、

水を配給してもらう。


だが。


冷房がない。



老人から死に始める。


次に、

薬が必要な人。


透析患者。


在宅医療。



都市は、

“静かに”壊れていく。



2048年。


インターネット断片化。


維持費が払えない国や企業が増える。


クラウドサービス停止。

動画配信終了。

オンラインゲーム終了。


人類は、

想像以上にネットの上で生きていた。



若者たちは、

何をしていいか分からなくなる。



2050年。


航空網ほぼ崩壊。


飛行機は飛ぶ。


でも、

維持できない。


部品不足。

整備士不足。

燃料高騰。


海外旅行が、

昔話になる。



2052年。


都市離れ加速。


地方へ移住する人々。


井戸。

畑。

薪ストーブ。


そんな動画ばかり再生される。



でも、

全員は移住できない。


都市には、

まだ何千万人もいる。



2055年。


国家は存在している。


選挙もある。


テレビも放送している。


でも、

昔みたいな“力”はない。



インフラを維持できない。


未来へ投資できない。


ただ、

今を延命するだけ。



2058年。


ある小学生が、

授業で質問する。


「先生、昔って毎日電気ついてたの?」


教室が少し笑う。


先生は答えられない。



2063年。


夜の地球。


宇宙から見ると、

光がかなり減っている。


特に沿岸部。



それでも、

人類は絶滅していない。


戦争で滅びたわけでもない。


AIに支配されたわけでもない。



ただ。


維持できなくなった。



便利すぎる文明を。



2065年。


世界は、

「崩壊後」というより、

「低出力」で動いていた。



昔の映像では、

街は24時間光っている。


電車は数分ごとに来る。

店には商品が溢れている。

誰もが小さな機械を持ち、

世界中と繋がっている。


若い世代には、

それが信じられなかった。



都市はまだ存在している。


ただ、

縮んだ。



使われなくなった区画は封鎖され、

人が住む場所だけに電力を集中する。


夜になると、

街の半分は真っ暗だった。



高層ビルは危険だった。


エレベーターが止まりやすい。


水圧も維持できない。


人々は低層へ降りる。



2070年。


「修理屋」が、

最も重要な職業になる。



新しい物は作れない。


半導体工場も、

巨大物流も、

昔ほど機能していない。


だから。


壊れたものを直し続けるしかない。



古いエアコン。

発電機。

浄水装置。

20年前のノートPC。


街には、

何度も継ぎ接ぎされた機械が増えていく。



若者たちは、

昔のYouTube動画を教材に修理を覚える。



「この時代の人、

なんでも動画残してるな」



冗談みたいに言いながら。



2074年。


夏の最高気温、

48℃。



昼間は外を歩けない地域が増える。


作業は夜。



人々の生活時間が変わる。


夜に畑を耕し、

夜に移動し、

夜に市場が開く。


都市は、

静かな夜行性生物みたいになる。



2080年。


国際社会は、

かなり小さくなる。



昔みたいなグローバル経済はない。


輸入品は高級品。


海外のニュースは、

数週間遅れで届く。



それでも、

人類は適応していく。



地域ごとに、

独自の生活ができ始める。


小水力発電。

地域農業。

中古部品市場。


不便だけど、

死ぬほどではない。



2089年。


世界人口、

かなり減少。


でも、

減り方は緩やかだった。



多くは、

子供を持たなくなったから。



未来が、

見えにくい。



「この世界で、

子供に何を残せるんだろう」


そう考える人が増える。



2093年。


ある地方都市で、

久しぶりに鉄道が復旧する。



廃線だった路線。


地元住民たちが、

少しずつ直していた。



開通の日。


小さなホームに、

大勢の人が集まる。



たった2両編成。


塗装も剥げている。



でも。


電車が来た瞬間、

泣く人がいた。



昔は当たり前だったものが、

奇跡みたいになっていた。



2101年。


冬。


老人が、

孫へ古いタブレットを見せる。



そこには、

昔の動画。



明るい東京。

テーマパーク。

海外旅行。

ライブ配信。



孫は驚く。



「これ、

映画じゃないの?」



老人は笑う。



「昔は、

みんなこんな暮らししてたんだ」



孫はしばらく黙る。



「戻れると思う?」



老人は、

少し考える。



外では、

小型風力発電機が回っている。


遠くで、

修理中の発電機の音。



「どうだろうな」



そして、

少しだけ笑う。



「でも、

ゼロから始めるよりは、

マシかもしれない」



夜。


停電した街の向こう。



本当なら見えないはずだった星空が、

ゆっくり広がっていた。


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