介護世紀
2032年。
高齢化は、
もう誰もが知っている問題だった。
ニュースでも、
政治でも、
何十年も言われていた。
だから逆に、
危機感が薄れていた。
「前から言ってるけど、
なんとかなってるし」
多くの人がそう思っていた。
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2038年。
地方の病院が、
少しずつ閉まり始める。
医者不足。
看護師不足。
赤字。
特に地方が深刻だった。
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救急車を呼んでも、
受け入れ先がない。
搬送まで数時間。
それが普通になる。
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2041年。
介護職の人手不足が限界を超える。
待遇改善は行われる。
でも、
人数が足りない。
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社会全体が高齢化している。
支える側も、
もう若くない。
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2045年。
「老老介護」が当たり前になる。
80代が80代を介護する。
転倒。
認知症。
孤独死。
ニュースでは毎日流れる。
でも件数が多すぎて、
誰も驚かなくなる。
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2048年。
団塊世代よりさらに人口の多い層が、
後期高齢者へ突入。
医療費急増。
国家予算の多くが、
維持費になる。
未来への投資が減る。
教育。
研究。
インフラ更新。
全部後回し。
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2051年。
若者の間で、
「人生を始められない」
という言葉が流行る。
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親の介護。
祖父母の介護。
実家の維持。
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結婚できない。
子供を持てない。
転職も難しい。
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でも、
誰かを見捨てることもできない。
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2054年。
空き家問題が限界へ。
地方都市では、
家の3軒に1軒が空き家。
管理されない家は、
急速に腐る。
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崩れた屋根。
雑草。
害獣。
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街が、
ゆっくり朽ちていく。
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2057年。
インフラ維持不能地域が出始める。
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水道管交換ができない。
道路補修が追いつかない。
橋を閉鎖。
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自治体そのものが、
維持できない。
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2060年。
都市への人口集中がさらに進む。
でも都市も余裕がない。
高齢者だらけ。
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若い世代は少ない。
物流。
介護。
建設。
全部人手不足。
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2063年。
学校統廃合加速。
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子供が少なすぎる。
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一方で、
老人ホーム待機は数年単位。
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街の風景が変わる。
保育園より、
デイサービス施設の方が多い。
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2067年。
「静かな破綻」
という言葉が使われ始める。
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大恐慌ではない。
戦争でもない。
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ただ。
社会を維持する人数が、
足りなくなっていく。
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2070年。
夜。
地方都市。
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コンビニは24時間営業をやめている。
バスは1日3本。
病院は予約半年待ち。
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駅前商店街は、
シャッターだらけ。
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でも。
完全に終わっているわけじゃない。
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人々は、
なんとか暮らしている。
助け合いながら。
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2074年。
ある高校生が、
進路希望を書けずにいる。
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祖母の介護。
父の病気。
母も働き詰め。
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先生が言う。
「やりたいこと、
ないのか?」
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高校生は、
少し考えて答える。
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「遠くに行ってみたいです」
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それだけで、
少し泣きそうになる。
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2079年。
人口減少は続く。
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でも、
人類は滅びない。
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ただ。
昔みたいな、
勢いのある社会ではなくなる。
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未来へ進むというより。
壊れないよう、
ゆっくり支え続ける時代になる。
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誰も悪くない。
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みんな、
できる範囲で頑張っていた。
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それでも。
社会は、
少しずつ重さに耐えきれなくなっていった。




