世界カブトムシ化計画
2031年。
最初に異変に気づいたのは、
小学校の教師だった。
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生徒たちの将来の夢。
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「カブトムシになりたい」
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一人ではない。
クラスの半分以上が、
そう書いていた。
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最初は流行りだと思われた。
動画サイトの影響。
子供特有のブーム。
誰も気にしなかった。
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だが。
翌年には、
大人も言い始める。
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「人間って、
効率悪くない?」
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SNSで、
奇妙な思想が広がる。
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カブトムシは強い。
飛べる。
硬い。
シンプル。
かっこいい。
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「人類は進化を間違えた」
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最初はネタだった。
完全に。
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2034年。
世界初の“外骨格整形”。
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全身へ人工甲殻を埋め込み、
カブトムシ的シルエットへ変形する。
一部富裕層で流行。
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意味はない。
ただ。
「美しい」から。
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2036年。
昆虫食ブーム加速。
ただし、
誰もカブトムシは食べない。
神聖視され始めていた。
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ネット上では、
カブトムシ画像が異常拡散する。
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人々は、
長時間カブトムシを見ると安心する。
理由不明。
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2040年。
世界各地で、
巨大カブトムシの目撃情報。
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最初は作り物扱い。
だが。
軍用ヘリが、
森の中で全長12mの個体を撮影する。
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それは、
普通に飛んでいた。
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生物学的に不可能な重量。
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しかも。
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“人間を襲わない”。
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巨大カブトムシは、
都市の近くへ現れても、
ただ静かに歩き回る。
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人々は熱狂する。
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「守護者だ」
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2043年。
ある研究者が、
恐ろしい仮説を発表する。
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人類の集合無意識が、
現実を書き換えている。
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みんながカブトムシを崇拝しすぎた結果。
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“世界が、
カブトムシ寄りになっている”。
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当然、
笑われた。
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だが。
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空がおかしくなる。
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夜空。
星座が、
全部カブトムシ型へ並び変わっていく。
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2045年。
人類の身体変化開始。
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子供たちの背中に、
硬い甲殻。
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成人男性の握力増加。
女性の髪が触角化。
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痛みはない。
むしろ、
皆ちょっと嬉しそう。
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世界政府は緊急声明。
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「落ち着いてください。
まだ人類です」
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その会見中。
大統領の額から、
小さな角が生える。
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世界同時視聴者数、
過去最高記録。
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2047年。
都市構造変化。
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人々は、
なぜか土を求め始める。
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高層ビル解体。
巨大樹木建設。
腐葉土輸入。
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東京が、
巨大な森になる。
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地下鉄は廃止。
代わりに、
樹液輸送網が整備される。
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2049年。
人類の言語簡略化。
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「ブブブ」
「カサカサ」
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それでも、
なぜか意味が通じる。
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科学者たちは、
泣きながら研究を続ける。
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「文明が……
昆虫に侵食されてる……」
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2051年。
月面観測で、
衝撃映像。
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月の裏側。
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巨大な角。
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地表から突き出している。
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しかも動く。
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人類は理解する。
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カブトムシは、
地球生物じゃなかった。
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もっと昔から、
宇宙にいた。
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2055年。
地球人口、
急減。
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死んだのではない。
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羽化した。
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巨大な繭。
都市サイズ。
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そこから、
人型の面影を残した、
黒光りする存在が現れる。
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彼らは、
嬉しそうに夜空へ飛んでいく。
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2060年。
地球最後の有人放送。
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森。
巨大樹木。
空を埋める、
何百万匹もの巨大甲虫。
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カメラの前。
最後の“ほぼ人間”。
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彼は、
半分ほど甲殻化した顔で笑う。
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「なんか……
思ったより悪くないよ」
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背中が割れる。
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巨大な羽。
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彼は、
夜空へ飛び立つ。
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カメラだけが残る。
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その後の地球は。
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ずっと、
ブブブブブブブブブ……って音がしていた。




