表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末日記  作者:
16/20

星を植える人

2066年。

その年、最後の春が来なかった。



冬が終わらない。


雪は降り続け、

海はゆっくり凍り始めていた。


原因は分かっている。


太陽。


ほんのわずかに、

弱くなっていた。



たった数%。


それだけで、

地球は死に始める。



農作物は枯れ、

動物は消え、

都市は暖房の奪い合いになる。


世界中の科学者が、

必死に対策を探した。


だが。


太陽は、

人類にどうこうできる相手じゃなかった。



2071年。


世界政府は、

“最後の計画”を発表する。


恒星種子計画。



人工恒星の核になる物質を積んだ船を、

宇宙へ送り出す。


何百年後かに、

新しい太陽を作るために。



成功する保証はない。


そもそも、

人類がそこまで生き残れるかも分からない。



それでも、

誰かが未来へ火を残さなければならなかった。



問題は、

船の動力だった。



恒星間航行に必要なエネルギーを積めない。


だから。



“人間”を燃料にすることになった。



正確には、

脳。



人間の意識を量子演算資源として使い、

船を制御する。


数万人分の人格を融合させ、

何百年も航行を続ける。



志願制だった。



誰も応募しないと思われていた。


だが。



世界中から、

膨大な数の応募が来た。



子供を失った親。

余命宣告された人。

恋人を亡くした人。


そして。



未来を見たかった人たち。



2080年。


地球平均気温、

-34℃。



都市は静かだった。


雪に埋まり、

ビルは白い墓標みたいに並ぶ。



空腹で死ぬ者も増えた。


だが暴動は少なかった。


もう、

怒る気力も残っていなかった。



人類は、

静かに終わりを受け入れ始めていた。



2084年。


打ち上げの日。



宇宙港には、

数万人が集まる。


みんな厚い防寒服を着ている。


吐く息が白い。



巨大な船。


全長40km。


黒い宇宙空間へ向かう、

最後の棺。



志願者たちは、

眠るためのポッドへ入っていく。


泣く者もいる。


笑う者もいる。



若い女性スタッフが、

老人に尋ねる。



「怖くないんですか」



老人は、

少し考えてから答える。



「怖いよ」



そして、

凍った空を見上げる。



「でも、

誰かが春を持っていかないとな」



発射。



轟音。


白い雪原の中を、

巨大な光が空へ昇っていく。



地上の人々は、

最後まで見送る。



誰かが拍手する。


少しずつ、

拍手が広がる。



泣きながら。



2091年。


地球人口、

数百万人。



海は完全に凍結。


空は、

青ではなく灰色。



夜。


残された人々は、

空を見る。



小さな光。



恒星種子船。


まだ見える。



誰かが呟く。



「あれ、

今も飛んでるんだな」



誰も返事をしない。



2117年。


地球最後の通信。



地下シェルター。


薄暗い部屋。


老人が、

震える手で通信機を操作している。



外は-70℃。


発電も限界。



彼は、

宇宙へ向けて最後のメッセージを送る。



「もし、

そっちに届くなら」



咳き込む。



「春を、

よろしく頼む」



通信終了。



数百年後。



暗い宇宙空間。



静かに進む、

たった一隻の船。



その内部。



数万人分の夢が、

まだ燃え続けている。



遠い未来。


新しい太陽が灯る頃には。


もう、

人類はいないのかもしれない。



それでも。



あの星は、

確かに人間が植えた光だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ