星を植える人
2066年。
その年、最後の春が来なかった。
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冬が終わらない。
雪は降り続け、
海はゆっくり凍り始めていた。
原因は分かっている。
太陽。
ほんのわずかに、
弱くなっていた。
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たった数%。
それだけで、
地球は死に始める。
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農作物は枯れ、
動物は消え、
都市は暖房の奪い合いになる。
世界中の科学者が、
必死に対策を探した。
だが。
太陽は、
人類にどうこうできる相手じゃなかった。
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2071年。
世界政府は、
“最後の計画”を発表する。
恒星種子計画。
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人工恒星の核になる物質を積んだ船を、
宇宙へ送り出す。
何百年後かに、
新しい太陽を作るために。
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成功する保証はない。
そもそも、
人類がそこまで生き残れるかも分からない。
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それでも、
誰かが未来へ火を残さなければならなかった。
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問題は、
船の動力だった。
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恒星間航行に必要なエネルギーを積めない。
だから。
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“人間”を燃料にすることになった。
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正確には、
脳。
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人間の意識を量子演算資源として使い、
船を制御する。
数万人分の人格を融合させ、
何百年も航行を続ける。
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志願制だった。
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誰も応募しないと思われていた。
だが。
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世界中から、
膨大な数の応募が来た。
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子供を失った親。
余命宣告された人。
恋人を亡くした人。
そして。
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未来を見たかった人たち。
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2080年。
地球平均気温、
-34℃。
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都市は静かだった。
雪に埋まり、
ビルは白い墓標みたいに並ぶ。
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空腹で死ぬ者も増えた。
だが暴動は少なかった。
もう、
怒る気力も残っていなかった。
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人類は、
静かに終わりを受け入れ始めていた。
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2084年。
打ち上げの日。
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宇宙港には、
数万人が集まる。
みんな厚い防寒服を着ている。
吐く息が白い。
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巨大な船。
全長40km。
黒い宇宙空間へ向かう、
最後の棺。
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志願者たちは、
眠るためのポッドへ入っていく。
泣く者もいる。
笑う者もいる。
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若い女性スタッフが、
老人に尋ねる。
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「怖くないんですか」
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老人は、
少し考えてから答える。
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「怖いよ」
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そして、
凍った空を見上げる。
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「でも、
誰かが春を持っていかないとな」
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発射。
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轟音。
白い雪原の中を、
巨大な光が空へ昇っていく。
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地上の人々は、
最後まで見送る。
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誰かが拍手する。
少しずつ、
拍手が広がる。
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泣きながら。
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2091年。
地球人口、
数百万人。
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海は完全に凍結。
空は、
青ではなく灰色。
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夜。
残された人々は、
空を見る。
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小さな光。
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恒星種子船。
まだ見える。
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誰かが呟く。
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「あれ、
今も飛んでるんだな」
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誰も返事をしない。
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2117年。
地球最後の通信。
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地下シェルター。
薄暗い部屋。
老人が、
震える手で通信機を操作している。
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外は-70℃。
発電も限界。
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彼は、
宇宙へ向けて最後のメッセージを送る。
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「もし、
そっちに届くなら」
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咳き込む。
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「春を、
よろしく頼む」
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通信終了。
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数百年後。
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暗い宇宙空間。
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静かに進む、
たった一隻の船。
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その内部。
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数万人分の夢が、
まだ燃え続けている。
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遠い未来。
新しい太陽が灯る頃には。
もう、
人類はいないのかもしれない。
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それでも。
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あの星は、
確かに人間が植えた光だった。




