表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末日記  作者:
15/20

階段の下

2036年。

最初に報告されたのは、

ごく普通の失踪事件だった。


東京のマンション。


会社員の男性が、

突然いなくなった。


部屋はそのまま。

財布もスマホもある。


ただ、

玄関のドアだけが開いていた。



防犯カメラ映像には、

奇妙なものが映っていた。


男は深夜2時、

部屋を出る。


そして階段を降りる。


降り続ける。



そのマンションは5階建てだった。


だが映像の男は、

10分以上、

階段を降り続けていた。



やがて画面が乱れる。


そして男が振り返る。


恐怖で顔が歪んでいる。


何かを見た。


その直後。


映像が切れる。



男は見つからなかった。



同じ事件が、

世界中で起き始める。


階段。


地下鉄。


長い廊下。


“下へ続く場所”。



人々は、

途中で消える。



2038年。


ネット上で、

共通証言が話題になる。



「下から音がする」



水音。

咀嚼音。

足音。


そして時々。


誰かが、

自分の名前を呼ぶ声。



精神疾患扱いされた。


だが、

録音にも入る。



存在しないはずの地下から。



2040年。


ある建設会社が異常を報告する。


地下掘削中、

設計図にない空間が見つかる。



巨大な空洞。


コンクリートではない。


岩でもない。


壁が、

湿った皮膚みたいだった。



調査隊が入る。


通信は正常。


最初の数分は。



隊員たちは、

地下を歩き続ける。


一本道。


終わらない。



「おかしい、

深さが合わない」


GPSは使えない。


方位磁石も回り続ける。



その時。


先頭の隊員が止まる。



「誰かいる」



暗闇の奥。


何かが立っている。



人間に見える。


ただ。



異様に細長い。



脚が長すぎる。


腕が床につくほど。


顔が、

暗くて見えない。



隊員がライトを向ける。



それは、

人間の顔をしていた。


ただし。



顔の皮が、

上下逆に付いていた。



口が額にある。


目が顎に並んでいる。



それが笑う。



隊員の悲鳴。


通信断絶。



回収された映像には、

最後に変な音だけが残っていた。



階段を降りる音。



2042年。


世界各地で、

“深度異常”が発生。



地下鉄駅が、

本来より深くなる。


降りても降りても、

ホームに着かない。



エレベーターが、

存在しない階へ行く。



帰ってきた人間もいる。


だが。



どこか変だった。



家族の顔を見ても、

認識に数秒かかる。


食事を見つめ続ける。


暗い場所を異常に嫌がる。



そして時々。


夜中に、

床へ耳を当てている。



「まだ上がってきてない」



そう呟く。



2045年。


地下利用禁止法制定。


世界中で地下鉄封鎖。


地下駐車場閉鎖。


地下街閉鎖。



だが意味はなかった。



“下”は増えていく。



押し入れの奥。


排水口。


ベッドの下。



本来、

深さが存在しない場所に、

深度が発生し始める。



子供たちが消える。



「下に行った」


それだけ言い残して。



2047年。


ついに空にも異常が出る。



夜空を見上げた人々が、

奇妙なことを言い始める。



「空が深い」



星空が、

穴に見える。



吸い込まれそうな、

“下方向”。



その頃から、

自殺者が急増する。


高所から飛び降りる人々。


皆、

同じことを言う。



「落ちれば戻れると思った」



2049年。


最後の大規模調査。


核シェルター地下。


深度1200m。



調査隊は、

途中で気づく。



もう地球内部じゃない。



壁に、

巨大な爪痕。



遠くで響く、

無数の足音。



そして。



下から、

人間の声。



何万人分もの声で、

同時に囁いている。



「見つけた」



映像終了。



2053年。


世界人口激減。



人々は、

“下”を恐れて暮らす。



椅子の下を確認する。

ベッドの下を覗く。

マンホールを避ける。



それでも。



夜中。


静かな部屋で。



階段を降りる音だけが、

時々聞こえる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ