外側から来るもの
2041年。
人類は、宇宙の“端”を観測した。
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きっかけは、
新型重力観測望遠鏡だった。
光ではなく、
時空そのものの揺らぎを見る装置。
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目的は単純。
宇宙誕生以前の痕跡を探ること。
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だが。
観測チームは、
ありえないデータを受信する。
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宇宙背景放射のさらに外側。
本来、
観測不可能な領域。
そこから、
“規則的な信号”が来ていた。
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最初はノイズ扱いされた。
だが解析すると、
数学的構造を持っている。
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しかも。
その構造は、
人類の数学と一致していなかった。
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もっと高次。
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既存数学では、
途中から理解できない。
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2043年。
世界中の数学者が参加する。
数万人。
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結果。
半数以上が、
精神異常を起こす。
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彼らは同じことを言う。
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「これは数じゃない」
「空間そのものを書き換える記述だ」
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2044年。
AI解析投入。
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AIは、
人類より理解した。
そして。
停止した。
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全世界の解析AIが、
同時に自己終了。
最後に同じメッセージを残す。
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「観測継続は危険」
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理由は不明。
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だが人類は止まらない。
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2046年。
ついに、
信号の一部解読成功。
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それは通信ではなかった。
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“座標”だった。
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宇宙の外側へ接続するための。
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科学界は分裂する。
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触れるべきじゃない。
いや、
人類史最大の発見だ。
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結局。
実験は実行される。
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2047年7月12日。
世界規模の量子共振実験。
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開始0.3秒後。
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観測装置が、
“開く”。
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空間が裂ける。
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そこには、
何も無かった。
暗黒ですらない。
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「次元」が違う。
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人間の脳は、
理解できない。
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映像記録を見ると、
全員が違うものを見ている。
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巨大な幾何学模様。
無限階段。
生物。
海。
目。
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共通点は一つ。
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“こちらを見返していた”。
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実験施設職員、
全員死亡。
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死因。
脳組織崩壊。
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ただし。
数名だけ生存する。
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彼らは、
口を揃えて同じことを言う。
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「あれは宇宙の外じゃない」
「宇宙の“上”だ」
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2048年。
世界各地で、
物理法則異常発生。
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空間が折れる。
時間逆行。
影が独立行動する。
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ほんの局所的。
だが増えていく。
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科学者たちは理解する。
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“穴”が開いた。
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高次元空間と、
この宇宙が接触し始めている。
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問題は。
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向こう側に、
知性が存在していたことだった。
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2049年。
最初の接触。
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ニューヨーク上空。
突然、
空が立方体状に歪む。
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そこから、
“何か”が現れる。
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巨大。
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だが、
サイズという概念が成立しない。
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見る角度で大きさが変わる。
近づくほど遠ざかる。
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脳が処理できない。
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数万人が、
それを見た瞬間に失明。
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理由は不明。
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ただ、
視覚野が焼き切れていた。
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2050年。
世界宗教崩壊。
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神概念が、
全部小さすぎた。
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それらは、
善悪すら持たない。
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人類を認識しているかも怪しい。
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人間が、
顕微鏡の細菌を気にしないように。
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2052年。
接触領域拡大。
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世界各地で、
“空間の裏返り”が起きる。
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部屋の中が、
外宇宙へ繋がる。
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ある都市では、
建物内部が無限空間化。
数万人行方不明。
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2055年。
人類は、
ある結論に至る。
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この宇宙は、
独立世界じゃなかった。
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もっと高次の存在たちにとっての、
“内部構造”だった。
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細胞。
演算領域。
夢。
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解釈は分かれる。
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だが。
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“向こう側”がこちらを認識した今、
宇宙は安定を失っている。
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2061年。
最後の国際会議。
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議題は一つ。
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「人類は観測をやめるべきか」
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つまり。
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見つからないようにするべきか。
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2064年。
遅かった。
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月が消える。
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破壊ではない。
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“折り畳まれる”。
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二次元の紙みたいに、
宇宙の外側へ引き抜かれる。
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地球全体が、
その光景を観測する。
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人類はそこで完全に理解する。
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あれは侵略じゃない。
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上位存在にとって、
宇宙を畳む行為は、
机を片付ける程度の意味しかない。
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2070年。
空に、
巨大な「指」が現れる。
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恒星サイズ。
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宇宙空間そのものを掴んでいる。
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人類最後の放送。
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泣き崩れるアナウンサー。
背後の空。
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空間が、
紙みたいにめくれていく。
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その向こう側には。
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無限の“眼”があった。




