1話 仮想空間
目が覚めるとそこは都会だった。
先程まで頂上に太陽が居たのに、今はなぜか空が夕焼けとなっている。
その場所は見たことのない場所でまるで夢の中のようだった。明日香はほっぺたをつねってみる。少し痛い。どうやら夢ではないようだ。しかし路上を歩いているのは日本人ばかりなので外国に転送された訳でもないらしい。
……みんなを探さなきゃ
そこがどこかは知らなかったけど、近くにきっと知っている人がいると信じて歩き出す。都会なのに暗い顔の人はいなかった。
明日香は目の前にいたスーツの男に話しかける。
「すみませーん……ここってどこですか?」
「ん?ここはポコヌミテサラリトだよ」
ランダムな文字として生成されたような不思議な文字列に一瞬戸惑う。どうやらこの街の名前のようだ。そしてこの男はずっとこの街に住んで働いているという。
「君は別の街から来たのかい?」
「は、はい!」
「じゃあ案内所に行くといいよ。あ、地図あげるよ。」
明日香は地図を受け取った。日本語で「ポコヌミテサラリト」「案内所」と書かれているので別の文字を使っている世界ではないようだ。男は笑顔で去っていった。
案内所についた。途中で通った路地裏には暗いながらも清潔で治安のいい街なんだなと思った。案内所と地図に示された場所はポコヌミテサラリトの市役所だった。明日香は案内所の扉を開く。
「こんにちは、どのようなご要件ですか?」
中にいたお姉さんがゲームのNPCのようにしゃべった。そこには人間らしさがなく、明日香はすこし戸惑った。
「あ、あの……私よその街から来たのですが……」
「出身と名前をお願いします」
「え、えと……日本」
ポコヌミテサラリトなど日本に存在しない。なので迷った明日香はとりあえず「日本」と答える。しかし女性は首をかしげた。
「ニホンとはどこでしょうか?それともお名前ですか?」
やっぱり彼女は日本をしらなかった。やはりここは別の世界のようだと明日香は確信した。
「日本出身の須浦明日香です」
「ニホン、ニホン……そのような街は存在しません。ご確認ください」
「そうですよね……私、出身がわからないんです」
そうこうしているうちに時間は過ぎ、後ろに2、3人の列ができる。一番後ろにいる男が舌打ちをした。
……別世界から来たんだからしょうがないじゃん!
「君、日本から来たのかい?」
後ろにいた黒いフードの男が言った。その人があまりにも長身だったので身長約143cmの明日香はもしかしたら怒られるんじゃないかと心臓をバクバクと鳴らしている。
「日本を『覚えて』いるのかい?」
何か知ってそうな口ぶりだった。明日香は警戒しながら「はい」と答えた。黒いフードから少しだけ見えた口元が笑った。
「来てくれない?」
男が明日香の腕を強く掴む。急に掴まれて心臓の鼓動が速くなった。この人は何か知っているのだろうか。悪いことを考えているのだろうか。
「……嫌です。目的を教えてください」
意外と弱かったので腕を振り払った。周りの視線が2人に集まる。こう見えて明日香は空手をやっていたことがある。
「どうしても来てほしいんだ!お願いします!」
「殴りますよ。目的はなんですか」
「ならば力ずく」
男はカバンから黒い銃をとりだした。周りの人間は逃げていく。もしかして銃で脅す気だろうか。早く逃げなきゃと思い出口まで駆けていく。しかしお姉さんが出口をふさぎこう言った。
「ミトウロク、悪意ヲケンシュツシマシタ」
お姉さんの目つきが変わる。それはまるで戦闘モードのロボットのようで、周りの人の数人も同じようになっていた。
「逃げろ!」
黒いフードの男がお姉さんの頭にドンと銃を撃つ。断面は黒いヘドロになり、また再生した。それを見た他のロボットのような人間は悪魔のような爪と翼を生やしフードの男を襲った。
「逃げろと言っている!」
明日香は自分の足が動いていないことに気づいた。それを見た男は怒り、明日香の腕を掴んで外へ走った。「転移陣を近くにしておけばよかった」と意味不明な独り言を吐く。外には誰もいない。男は光る透明な宝石を手渡した。
「これから僕たちのアジトに連れて行く。その石を大切に持っておけ」
明日香は消しゴム程の大きさしかない石を強く握る。その石にはまるで生きているかのようなぬくもりがあった。
「この世界がどこか知りたいか?」
「あたりまえじゃないですか。知らない間に変な街に飛ばされて」
発した言葉には荒い息があった。なぜなら後ろにはたくさんの黒い悪魔のような人たちがいるからである。知らない場所に来た恐怖、追いかけてくる恐怖、知らない人につれてかれる恐怖。無意識に感じていた恐怖にここでやっと気づく。石が温かく感じる。
「……怖いのか?」
「あなたは?」
「僕らは悪意の研究者。そしてこの世界は『悪意の化身』が創った仮想空間の世界」
この世界は「日本にいるすべての人間」が幸せに暮らすために創られた仮想空間だ。人間は魂となり、五感没入型VRゲームのように仮想空間で暮らす。
「あー、アニメとかでよく見るぶいあーるえむえむおー?みたいな奴だと思えばいいってことね」
「ほぼそんなもんだ。だが、この世界には運営側がいる。そして運営の都合のよい世界になっている」
世界を支配しているデビルは人間の悪意を喰らう。悪意を持った人間は喰われ、善良な人間となる。これがこの世界を平和にするシステムだ。普通の人間はすでに悪意と日本にいた記憶を喰われており、「元から暮らしていた人間」と思い込ませられてこの世界にいる。
「さっきの黒いやつらはデビルの分身だ。魂が記憶を取り戻さないよう、日々監視している」
「でも私は最初から記憶があった」
「そう、君は普通じゃない。ああ、僕らもだ」
走っている途中に細い路地に入った。男は「ここなら安全だ」という。黒い悪魔たちは道でつっかえて止まっていた。しばらくは大丈夫そうだ。
「伏せろ!」
光線が隣を走った。
その光は黒い悪魔たちがとけたヘドロの頭にいつの間にか生えていた砲台から放たれていた。
「うわぁ!逃げましょう!」
「いいや、魔石にもう一度光線を見せよう」
しかたなく従ったが、フードの下からはさっきとは違うマッドサイエンティストのような笑みが見えた。男は慌てて口元を隠した。
「そろそろ発射してくる。絶対に避けて。ああ、あとその石を光線にかざして」
「こ、こうですか?」
明日香は石を持った手をつきだしてみる。いったい何をするのだろうか。明日香は不安になった。
「よけろ!」
ヒュンと隣を一筋の光線が通過した。石をかざしたまま避けたが、たいして石に変化はなかった。もっと不安になり男に石を見せる。
「これでいいんですか?」
「ああ、きっと。次は相手に石を見せて。そしたら石からさっきの光線を出すイメージで。呪文は……光線でいいかな」
「きゃ、きゃのん?」
目の前がビカッと光る。驚いた明日香が目をつぶる。その魔石から出た虹色の光線で敵は殲滅していた。
……こっ、これ一般人が持ってていいものじゃない!
明日香は思わず石を手放した。
「あの……逃げないんですか?」
「素晴らしい!」
男が急に喋りだした。その目はまるでテレビを見る5歳児のように輝いていた。続けてにっこりした口が開く。
「これが一条様の作った魔石の御力!一瞬で敵を塵にするとは!やはり一条様は天才だ!!」
男は明日香をぎょろりと見つめる。見た先には明日香の困惑した顔があった。
「……失敬。僕ながら当たり前の事を言っていました。しかし一条様は凄いでしょう、君もそう思わないかい?」
「え、ええ」
明日香は愛想笑いをする。そうだ、この人は初見で銃を向けてきて勝手に自分をここまで連れてった人だ。意味の分からない言動をしていて当然である。
「しかしいったい一条様はどこにいるのでしょう?君はわかりますか?わかりませんよね。あのお方は研究熱心故きっと僕らより先にこの世界を調べているのでしょう。うう、早く会いたい。会わなければ僕は死んでしまう!!一条様は魔石を作った素晴らしい方なんですよ。それは数年前のこと………
「うるさいぞ釣相!そして早く例の少女を連れてこい!」
男のカバンから少しはみ出して見える機械から声がした。通信機だろうか。その気だるげな女性の声は大きく叫ぶ。
「おい聞け!!この一条狂!!」
「様をつけなさい、『様』を!!」
男はまた一条という者について語り始めた。呆れた通信機の奥の者は明日香と話すことにした。
「そこに誰かいるだろう。この馬鹿のカバンから筒のような機械を出してくれ」
明日香は男のカバンの中を見る。筒のような青白く光るラインの入った機械があった。
「赤か?青か?それとも光はないか?」
「あお……です」
「ここはポコヌミテサラリトだよな。よし、魔力をこめろ。……ああ、忘れてた魔力を知らないんだな。なんとなく筒が開くイメージで触れてみろ」
言われた通り触れてみるとキャノンを使ったときと同じような感覚がした。筒が大きくなりワープゲートのような扉が現れた。
「敵が戻ってくる前にゲートに入れ。馬鹿は置いてけ」
明日香が振り向くと後ろに黒いドロドロが迫っていた。だんだんと人の形を作っていて、人形のような表情をしていた。
明日香はゲートへ飛び込んだ
こんにちは、わたし自称様といいます。
厨二病真っ只中のわたしでございますが、しっかり週一投稿は守りますのでどうか読んでくれると嬉しいと思います。よく、展開が早いなどと言われるのですがどうでしたでしょうか。小説は初心者ですのでアドバイスくれると嬉しいです。次回は「2話 ログアウト」です。では、また。




