2話 ログアウト
この世界がゲームならばゲートの先はゲームからのログアウトだ。……つまり無法地帯。
気だるげな女の声はそう言った。
ゲートを通った先には広いロビーが広がっていた。カウンターやテーブルがあるのでおそらく応接室だろう。カウンターにいた女が近づいてきた。
「おかえりなさい。……釣相様、どちら様でしょうか?」
「ん、街中で見つけた子。記憶があるらしくってね。毒島ちゃんよんでよ」
いつの間にか後ろにフードの男がいた。「かしこまりました」と言い女は扉の向こうへ行く。「あの椅子に座って」と言われた明日香はテーブルに向かい合って並ぶソファの一つに腰掛ける。昔行ったホテルのロビーを思い出す。
「お前が拾ってきたんだろ、面倒みろよ馬鹿!」
「ええー、いいじゃん。この子中学生っぽいから同性の方が接しやすいでしょ」
エレベーターからでてきたスマホを持った女が怒鳴る。おそらく彼女がさっきの電話の声の主だろう。女は明日香と一瞬目を合わせた後、隣に座った。
「……やあ、君が新人ちゃんだね。俺は毒島。君は?」
「須浦明日香……です」
「おら、馬鹿も自己紹介しろ」
毒島はフードの男の背中を叩く。
「僕は釣相量琉助。好きなように呼んでいいよ」
そう言って釣相は反対側のソファに腰掛けた。釣相が「まずはお茶にしようか」と笑顔で言う。そしてすぐにお菓子やお茶が運ばれてきた。食べてもいいのかと困ったが毒島がどんどん食べていくので明日香も食べ始めた。
「毒島ちゃん、そんなに食べたらもうなくなっちゃうよ」
「うるせぇ」
……このお菓子美味しい
「さて本題。明日香ちゃん、ようこそ僕らの研究所へ。僕らは魂、心、記憶などについて研究している組織だ。そして君には一時的にこの組織の一員となってほしい」
釣相はフードをはずし、メガネをかけた。なんともいえないただの黒縁メガネ。だがそれのおかげで釣相の雰囲気は変わった。
釣相は茶髪でくせ毛だった。そして金色に光るその目は人の心をみているようで怖い。明日香と目が合った釣相はにっこり笑った。
「協力してくれるかい?」
「……嫌です。怪しいです」
メガネをかけたからかなぜかその笑みが胡散臭く見える。隣で毒島がミニタルトを食べながらチッと舌打ちをするのをみた釣相はもう一度笑顔で明日香を見た。
「言い方を変えよう。君、協力しないと死ぬよ?」
釣相が脅す表情で言う。毒島はため息をつき、カバンからドサッと資料をだした。
「これが楽園の主『名留亜依』の資料だ。悪意はこの少女を介して独裁世界を支配している。ここまでわかったな?」
「………は?」
「もう一度言うぞ。あのな
「名留さんが……支配者……?……で、独裁世界?!」
クラスメイト、そして仲良くなりたかった人が世界の頂点になってると気づく。しかしそれがデビルだったとしたなら私が話したのも黒い影もすべて名留さんではなかったと言えるだろう。
「ああ、友達だったな。そしてこの世界は名留亜依の夢の中の世界。そしてすべての人間の記憶が書き換えられている。おい、聞いてるか?」
「………はい!聞いてます!聞いてます!」
「毒島ちゃん、説明うまいねぇ。そして速い」
「うるせぇ。……そしたら友達特権かなんだかしらないけど明日香ちゃんだけ世界に登録されてなかったんだ。つまり記憶が消されてないわけよ」
それならみんなが日本を知らなかったのも知らない地名だったのも説明がつく。そして一部の人間は悪意を持つ人間を見つけた場合それを「デビルの分身(黒いドロドロ)」とともに捕らえるようプログラムされているらしい。
「質問です!なんで毒島さんたちは記憶があるのですか?」
「するどいね君!」
明日香は毒島に話しかけたのにさっきから話したそうにしてた釣相が割って入ってきた。
「実は記憶は目覚めさせる事ができる。誰かが僕たちの記憶を目覚めさせてくれたんだ。つまり君のほかにももう一人記憶があった人がいる。その名も……」
「おい!この馬鹿!」
毒島があわてて釣相の口をふさいだ。「こいつを何処かに連れて行け」と毒島が叫ぶ。毒島も周りの人も焦った表情でいた。
「一条様だ!!」
誰かが「あーあ」と声を漏らした。釣相は毒島達に取り押さえられながらも口を開いた。そして少しずつ明日香に近づく。
「君、明日香ちゃん。たしか一条様の素晴らしさを教えてあげてる途中だったね。一条様は―
ペラペラと「一条」という者について流暢に語り出す。毒島たちはあきらめて頭をおさえていた。「聞かなくていいよ」と言われた明日香は九割ほど聞いてない。
「つまり一条様は素晴らしいのです!」
毒島がチクッと注射器で刺した。もちろんその中身は毒で、釣相は気絶してしまった。
「ちょちょちょ、これでいいんですか?!」
「大丈夫。死なない。一時間ほどで目覚めるよ」
そばにいた女の一人が釣相を引きずりエレベーターへと連れて行った。毒島はもう一度ソファに腰掛けサクサクのクッキーを食べ始める。
「一条ってのは組織の幹部だよ。今の組織にはボスがいないんだけど一条が実質ボスみたいなもんだ」
明日香はどんな人だろうと想像してみた。貫禄のあるおじいさんか、誰もが見惚れる好青年か、はたまた美女か。そういえば一条の姿についてはひと言も語ってなかった気がする(ほとんど聞いてなかったが)。
「さて、本題に戻ろう。どこまで話したっけな」
「はい。亜依ちゃんがデビルに利用されていること。私が特別なこと。……あと一条さんについてです。それでなぜ私は協力しないといけないのですか?」
「そうか結論から言おう。明日香ちゃんは特別だ。これは言ったか。故に名留亜依、いやデビルが君を狙っている。そのためにあっちの世界ではデビルが君を探し、襲ってくるだろう」
「………何のために……ですか?」
「喰べるんだよ。君を。そして新たな力を手に入れる……と俺たちは考えている。危険だろう?」
「はい」と答える。毒島はクッキーを取る手を止めほんのすこし笑顔になった。
「だがこの世界は違う。あの世界から完全に隔絶された世界、つまり支配から逃れた世界だ」
なにをするのも自由だと言う。毒島はデビルが支配する楽園をゲームとたとえた。
「俺たちの目的は楽園をハッキングし支配すること。そして元の世界に戻ること」
「そのハッキング作業の為に協力してほしいというわけ……ですね?」
「そうだ。それとさっき言った『保護』も兼ねている」
毒島はカップケーキのような物を手に取った。一口食べて幸せそうな顔になった。そんな顔を見て少し緊張が解けた気がした。
……この人たち少し怖いけど……いいかもしれない
「わかりました」
「お、ありがとう!じゃ契約書にサインして」
そばにいた女が最初から契約してもらう気満々で契約書を持っていた。その紙はペラペラなのに透き通らないし、インクは光るしで不思議な感覚だった。明日香はよく読んで最後の場所に名前を書き込む。
……須浦明日香っと
「お、書けたね」
毒島とその周りにいた人々が笑顔で声をそろえる。毒島もカップケーキを置いて立ち上がった。
「ようこそ!我々の研究室へ!」
明日香は一瞬戸惑ったがみんなの笑顔をみてニカッと笑った。
「もう夜だ。今日はとりあえず休め」
「は、はい!」
いつの間にか時間は過ぎていた。
毒島、25歳、女。適当に伸びた紫色の髪と暗い桃色の目。常に白衣。明日香達を預かることになる。そして……
3ヶ月後に死ぬ
ちょっと短いですか?
もう少し内容増やしましょうか?
次回は「3話 私の魔石」です




