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その22 「仲間たちと一緒に」

 エレナが再び剣を構えた。


 私も杖を握り直す。


「貴様に、良いことを教えてやろう」


 魔王ヴァルゼインが静かに口を開く。


「なんだ?」


 エレナが睨みつける。


「貴様の故郷、ブレイジングの街と言ったか……」


 魔王がニヤつく。


「貴様の家族を殺したのは、我だ」


「――――っ」


 エレナは何も言わなかった。


 ただ、握った拳が震えている。


「父と子が三人、我に向かって来たぞ」


 魔力が身体から漏れ出していた。


 今までのエレナとは明らかに違う。


「あぁ、母の方は、我ではないがな」


 いつも明るく、誰にでも優しい。


 魔族との戦いですら、仲間を気遣う余裕を失わなかった。


「簡単に捻り潰してやったわ」


 そんなエレナが、今は違う。


 怒り、憎しみ。


 そして、殺意。


 それらすべてが、彼女の魔力となって溢れ出している。


「……そうか」


 エレナが呟いた。


「よく、わかったよ」


 その声には、感情がほとんどなかった。


「父様も……母様も……兄様も……」


 クラウ・ソラを握る手に力が入る。


「お前が……」


 次の瞬間。


 エレナの姿が消えた。


「!?」


 私も魔王も、その動きを目で追えなかった。


 エレナは一瞬で魔王の右側へ回り込んでいた。


 大剣を構える暇すら与えない。


「っーーーー!」


 クラウ・ソラが閃く。


 ズバッ!


 魔王の左腕が二本、宙を舞った。


「――ぐっ……!」


 初めてだった。


 魔王ヴァルゼインの顔に、明確な苦痛が浮かんだ。


「貴様っ!」


 魔王が大剣を振り抜く。


 しかし、エレナはすでにそこにはいない。


 巨大な剣が床を砕き、石片が周囲へ飛び散る。


「遅い!」


 エレナは魔王の背後へ回っていた。


 魔王の後方に残された二本の腕が動く。


「黒炎!」


 黒い炎が渦を巻き、エレナへ襲い掛かる。


「火炎弾!」


 エレナの手から放たれた炎が正面からぶつかる。


 轟音。


 二つの炎がぶつかり合い、魔王の間を熱風が駆け抜ける。


 やがて黒炎が消えた。


 だがエレナは止まらない。


 一気に懐へ入り込む。


「まだだ!」


 クラウ・ソラを突き出す。


 狙いは首。


 魔王は身体を捻ってそれをかわした。


「ははははは!」


 魔王が笑う。


「怒り、殺意、力……満点だ!勇者よ!」


 大剣が振り上げられる。


 エレナの身体を叩き潰そうとした、その瞬間――。


「烈風!」


 私の魔法が魔王の足元を襲った。


「ぬっ!?」


 一瞬、魔王の身体がぐらつく。


 その隙をエレナは見逃さなかった。


「そこだ!」


 クラウ・ソラが閃く。


 ザシュッ!


 魔王の太腿が深く斬り裂かれた。


「――!?」


 大量の血が床へ落ちる。


「いかんいかん。つい聖女を忘れていた」


 しかし、私は思わず目を見開いた。


 傷口が蠢く。

 

 肉が瞬く間に繋がり、裂けた皮膚が塞がっていく。


 数秒もしないうちに、傷は完全に消えた。


「……嘘」


 エレナも動きを止める。


「腕も……」


 先ほど斬り落としたはずの腕も、すでに元通りになっていた。


「再生が早すぎる……」


 私は思わず呟いた。


「……回復というより再生ね……こんなの見たことないわ」


「それを可能にしているのは……あの魔力か?」


 エレナが魔王を見る。


 魔王の身体から溢れ出す、底の見えない魔力。


「そうね」


 私は頷く。


「あの膨大な魔力があるからこそ、あれだけの再生ができるんだと思う」


 すると魔王が笑った。


「どうした?何を驚く必要がある」


 六本あった腕を広げる。


「我の魔力をもってすれば、この程度の傷など問題ではない」


「いえ」


 私は魔王を見据えた。


「いくら魔力が膨大でも、無限ではないはずよ」


「……」


「魔力には必ず限界がある。再生だって同じ。私たちが攻撃し続ければ、いつか必ず魔力は尽きる」


 エレナが隣で頷いた。


「そういうことだ」


「試してみるか?」


 魔王が笑う。


「我を削り切るまで戦い続けることが」


「できるさ」


 エレナが答えた。


「私は仲間と一緒に、ここまで戦ってきた」


 クラウ・ソラを構える。


「お前も同じだ。私たち五人で倒す」


「か弱い種族のヒューマンに、それができるかな?」


 魔王が嘲笑する。


 その時だった。


「私たちを舐めないでもらえるかしら?」


 聞き慣れた声が、魔王の間に響いた。


「来たか」


 エレナが振り返る。


 そこには――。


 レイン。


 ノンナ。


 ザイン。


 三人が立っていた。


「みんな!」


 エレナの表情が一気に明るくなる。


「言っとくけど、お前の部下は全部倒したからな!」


 ノンナが拳を鳴らす。


「あなたの攻撃は俺が受ける」


 ザインが盾を構えた。


 そしてレインは杖を構え、魔王を睨みつける。


「どうやら、間に合ったみたいね」


「三人とも……」


 エレナが嬉しそうに笑う。


 さっきまで怒りに支配されていた顔に、ほんの少しだけいつものエレナが戻っていた。


 私はそんな彼女を見て、自然と笑みがこぼれた。


 やっぱり、エレナには仲間が必要なんだ。


 一人で背負う必要なんてない。


「さぁ、エレナ」


 私は杖を構える。


「勇者一行の戦いを、見せてあげましょう」


 エレナは大きく頷いた。


「――あぁ!」


 クラウ・ソラが白く輝く。


「魔王!」


 魔王ヴァルゼインも大剣を構え直す。


「これが――」


 エレナが一歩踏み出した。


「最終決戦だ!」


 五人と魔王の戦い。


 「行くぞ!」


 エレナが叫んだ。


「おう!」


 私たちも声を揃える。


 真っ先に動いたのはレインだった。


「アイスランス!」


 杖を振る。


 次の瞬間、無数の氷の槍が空中に現れ、魔王ヴァルゼインへ一斉に放たれた。


「良い魔法だ」


 魔王は避けようともしなかった。


 その周囲に無数の黒炎が浮かび上がる。

 

 氷槍が黒炎へ触れた瞬間、ジュッ、と音を立てて消滅していく。


「でも――」


 私は杖を振った。


「烈風!」


 レインの魔法が作った隙をさらに広げるように、強烈な風が魔王へ襲い掛かる。


 本来の烈風は攻撃魔法だが、その風に乗るように、エレナとノンナが飛び込んだ。


「はぁぁぁ!」


「あぁぁぁ!」


 左右から同時に拳を繰り出す。


 エレナの右拳。


 ノンナの左拳。


 二人の拳が、ほぼ同時に魔王の身体へ叩き込まれた。


「ぐっ……!」


 魔王の身体が僅かに揺れる。


「はははは……」


 魔王は笑った。


「心地よい連携だ。だが――」


 四本の腕が同時に動く。


「まだ甘い!」


 四本の拳が二人へ襲い掛かる。


「させません!」


 その間にザインが割って入った。


 ドンッ!


 巨大な盾が魔王の拳を受け止める。


「ぐっううう、攻撃はさせませんよ!」


「ほう。我の拳を防ぐか」


 魔王が僅かに目を細める。


 その隙にエレナとノンナが左右へ散った。


 エレナはクラウ・ソラを振り抜く。


「はぁっ!」


 白銀の刃が魔王へ迫る。


 反対側からはノンナが飛び込む。


「これでも食らえ!」


 強烈な蹴り。


 だが――。


「甘い!」


 魔王の身体から、凄まじい魔力が放出された。


「くぅぅぅ!」


 エレナは少し飛ばされて踏みとどまった。


「うわぁぁぁ」


 しかしノンナは耐えきれず、吹き飛ばされる。


「ノンナ!」


 私は反射的に杖を振った。


「烈風!」


 ノンナの身体を風が包み込み、壁へ叩きつけられる寸前で勢いを殺す。


「サンキュ!リサ!」


 ノンナが親指を立てる。


「どういたしまして!」


 私も親指を立て返した。


「これはどう!」


 レインが杖を掲げる。


「ファイアボール!」


「はい!」


 私もファイアボールを放つ。


 二つの火球が同時に魔王へ飛んでいく。


 ザインはすぐに距離を取った。


 そして――。


「火炎弾!」


 エレナもファイアボールを放つ。


 三つの炎が、ほぼ同時に魔王へ迫る。


「なるほど……」


 魔王は大剣を構えた。


「いけ――!」


「いけぇぇぇ!」


「いけーー!!」


 三人の声が重なった。


 次の瞬間。


 三つの炎が魔王を飲み込んだ。


「ドォォォォォン!!」


 凄まじい爆発が魔王の間を揺らす。


 炎と煙が一気に広がり、私たちの視界を奪った。


「やった……?」


 ノンナが呟く。


「まだよ」


 レインが煙の向こうを睨む。


 私も杖を握り直した。


 まだ終わっていない。


 魔王ヴァルゼインの魔力は、まだ消えていなかった。


 そして、煙の向こうから――。


「……なるほど」


 低い声が響いた。


「仲間と戦うというのは、こういうことか」


 黒い魔力が、煙を押し退けるように膨れ上がる。


「いい!いいぞ!実に面白い」


 私たちは、再び身構えた。


「あの攻撃を食らったのに、まだ立ってるのかい!」


 ノンナが驚きの声を上げる。


「姉さん……さすが魔王だね」


 ザインも盾を構えたまま、僅かに声を震わせていた。


「でも、私たちの連携なら少しずつでもダメージを与えられる!」


 レインが叫ぶ。


「その通りよ!」


 私は杖を握り直した。


 魔王ヴァルゼインは、そんな私たちを見つめていた。


 そして――。


「ふむ……迎え撃つのは、我の性には合わんな」


 ゆっくりと身体を起こす。


「今度はこちらから行こう」


 魔王が構えた。


 空気が変わる。


「来るぞ!」


 エレナが叫ぶ。


 次の瞬間、ドンッ!


 魔王ヴァルゼインが床を蹴った。


 その巨体からは想像もできない速度だった。


「――っ!」


 漆黒の大剣が大きく振り上げられる。


「任せて!」


 ザインが私たちの前へ飛び出した。


「うおおおおおお!」


 ガァァン!


 凄まじい衝撃音が響く。


 ザインの盾と魔王の大剣が激突した。


「ぐっ……うぅぅぅぅぅ!」


 ザインの足が床を滑る。


 それでも倒れない。


「我の攻撃を……二度も受けるか」


 魔王が僅かに目を見開いた。


「だが――」


 大剣を受け止めているのは、魔王の二本の腕。


 残った四本の腕が、ザインへ向かって伸びる。


「やらせないわ!」


 レインが杖を掲げた。


「スパーク!」


 バチバチバチッ!


 凄まじい雷撃が魔王の四本の腕へ直撃する。


「むっ!」


 魔王の身体が僅かに揺れた。


 焦げたような匂いが、魔王の間に漂う。


「今よ!」


 エレナとノンナが同時に動いた。


 前後から魔王へ回り込む。


 エレナは後ろ。


 ノンナは前。


 そして私はーー。


「泥沼!」


 私は杖を地面へ向けた。


 魔王の足元にある地面が一気に湿り、土が泥へと変化する。


「何っ……!」


 魔王の足が沈んだ。


 ほんの僅かな隙。


 だが、私たちには十分だった。


「はぁぁぁぁ!」


 エレナが踏み込む。


 クラウ・ソラが閃いた。


「ぐっ!」


 魔王の左側にある二本の腕を、立て続けに斬りつける。


 そこへ――。


「おおおおおっ!」


 ノンナが拳を振り抜いた。


 ドゴォッ!


「ぐおっ!」


 魔王の頬へ拳がめり込む。


 巨体が大きく揺れた。


「ぬぅぅ……!」


 魔王が片膝をつく。


「今だ!」


 レインが叫ぶ。


「ライトニング!」


 天井から大きな雷撃が落ちた。


 轟音と共に、巨大な雷が魔王ヴァルゼインを包み込む。


「おおおおおおおお!」


 魔王が初めて明確な苦痛の声を上げた。


 雷が消える。


 魔王の身体から煙が上がっている。


「……はぁ……はぁ……」


 魔王がゆっくりと顔を上げる。


 その表情には、明らかな苦痛が浮かんでいた。


「ダメージ……入ってるじゃない!」


 レインが叫ぶ。


「うん!」


 私は頷いた。


 エレナもクラウ・ソラを握り直す。


「いけるぞ!」


「そうよ!」


 ノンナも拳を構える。


 ザインは盾を構えたまま、魔王を睨みつけた。


 五人全員が、再び魔王を囲む。


 だが、魔王ヴァルゼインは、苦痛に歪んだ顔のまま笑っていた。


「……面白い」


 その声に、私たちは一瞬動きを止めた。


「実に……面白いぞ、勇者一行」


 魔王の周囲から、先ほどまでとは比べものにならないほど濃密な魔力が噴き出す。


「こんなに楽しいのは、二百年前の勇者以来だ」


 エレナがクラウ・ソラを構え直す。


「光栄だね」


 その瞳には、もう怒りはなかった。


「ここで終わらせる!」


「来い、勇者よ」


 魔王も大剣を構え直す。


「最後まで……我を楽しませてみろ!」


 魔王の間に、再び激しい魔力が渦巻き始めた。

読者の皆様、いつもありがとうございます。

次話は8/29土曜日22時に公開予定です。

引き続き宜しくお願い申し上げます。

少しでも「面白い」と思って頂けましたら、ブックマークをよろしくお願いします。

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