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その20 「魔王城突入」

 五人で魔王城へ攻め込む。


 そう決めた私たちは、最後の確認をしていた。


「城の中へ入ったら、一直線に魔王を目指す」


「当然、魔族が邪魔してくると思う。もし数が少なければ、そのまま全員で突破する。でも……」


「数が多すぎたら、私たち三人が残る」


 ノンナが続ける。


「ザインと私、それにレインで魔族を引きつけて倒す。その間にエレナとリサが魔王のところまで向かう」


「わかった」


 レインが頷く。


「うん。頼む」


 エレナも頷いた。


 それから、ふとエレナが後ろを振り返った。


「……馬はどうしようか」


 私たちの後ろには、ここまで一緒に旅をしてきた馬たちがいる。


 長い旅だった。


 エルフの都を出て、バイエルン帝国を抜け、イグニス王国へ向かい、そして再び帝国へ戻った。


 その間ずっと、私たちを乗せて走り続けてくれた。


「可哀想だけど……連れていけないわね」


 レインが馬を見る。


「ここで待たせても、魔物に襲われるかもしれない」


「だったら、このまま逃がそう」


 ザインが言った。


「ここから先は仕方ないな」


「……そうね」


 私は馬の首を撫でた。


「今までありがとう」


 エレナも自分の馬の首を撫でる。


「ごめんな。魔王城には連れていけない」


 もちろん、馬に言葉がわかるわけではない。


 それでも、その瞳を見ていると、どこか寂しそうに見えた。


「ここからは好きに走って、好きなところへ行きな!」


 全員が手綱を外す。


 すると――。


「ヒヒーン!」


 まるで「わかった」とでも言うように、馬達が鳴いた。


 そして、ゆっくりと私たちから離れていく。


「……元気でね」


 私たちは手を振った。


 馬たちの姿が森の奥へ消えていく。


 これで、本当に後戻りする理由がなくなった。


 私は魔王城へ視線を戻す。


 巨大な城。


 黒い雲に覆われた空。


 遠くから見ているだけでも、身体の奥に重い圧力がかかってくるようだった。


「じゃあ、行きましょう」


 レインが杖を構えた。


「まず私の霧魔法で姿を隠すわ」


「どのくらい持つ?」


「魔王城の門までなら十分。だけど――」


 レインが私たちを見る。


「光の屈折を利用して姿を見えなくするだけだから、音や気配までは消せない。走ると足音で気付かれる可能性もあるわ」


「わかった」


「それと、魔力を使えば使うほど霧が乱れる。だから門の前までは極力魔法を使わないで」


「了解」


 全員が頷いた。


「門の前で霧を解く」


 レインが続ける。


「そこからは、エレナ、お願いね」


「うん」


 エレナが左腕を見る。


 そこには白銀のオリハルコンで作られた小手。


 そして、その小手に宿る剣――クラウ・ソラ。


「最大火力で門を破る」


 エレナの目に迷いはなかった。


「そのまま突入する」


「ええ」


 レインが魔法を発動する。


「――霧隠れ」


 瞬間。


 私たちの身体を薄い靄が包み込んだ。


 手を伸ばしてみる。


 自分の手がぼんやりと霞み、やがて輪郭が見えなくなっていく。


「……すごい」


「でしょ?これも……」


 レインが少し得意げに笑う。


「まぁいいわ。くれぐれも静かにね」


「わかった」


 私たちは互いに頷いた。


 そして、魔王城を見据える。


 ここから先に何が待っているのかはわからない。


「行こう」


 エレナが小さく呟いた。


 私たちは魔王城の門へ向かって歩き始めた。


 誰にも見つからないように。


 音を立てないように。


 五人で最後の戦場へと近づいていく。


 やがて、目の前に巨大な門が姿を現した。


 レインが小さく息を吸う。


「……ここね」


「霧を解いて」


 エレナが左腕を前へ出す。


「私が開ける」


 レインが頷いた。


「――解除」


 霧が一瞬で晴れる。


 五人の姿が、魔王城の門前に現れた。


 そして、エレナの左腕が、白く輝き始めた。


「クラウ・ソラ」


 淡い光が、次第に強くなる。


 エレナが右手を添えた。


 同時に、白銀の剣が顕現する。


 魔王城の巨大な門を前にして、エレナは剣を構えた。


 そして――。


「――行くよ!」


 エレナがクラウ・ソラを構えた。


 白銀の剣に魔力が集まる。


 次の瞬間。


 ズドォォォンッ!!


 クラウ・ソラが振り下ろされ、魔王城の巨大な門が吹き飛んだ。


「突入!」


 エレナを先頭に、私たちは一気に城内へ飛び込んだ。


 だが、予想を裏切られた。


「数が多すぎる!」


 ザインが叫ぶ。


 広い城内には、大量の魔族が待ち構えていた。


「作戦、見破られてたな!」


 ノンナが拳を振り抜く。


 魔族の身体が吹き飛び、別の魔族がすぐに襲いかかってくる。


「でも、なんとかするぞ!」


 エレナが叫ぶ。


「みんな!ついてこい!」


 クラウ・ソラが閃く。


 白銀の斬撃が一直線に走り、目の前の魔族たちをまとめて薙ぎ払った。


「今よ!」


 レインが杖を掲げる。


放電(スパーク)!」


 バリバリバリッ!!


 凄まじい雷撃が城内を駆け抜ける。


 エレナの斬撃で崩れた隊列へ、レインの放った雷撃が容赦なく突き刺さった。


 魔族たちが次々と倒れていく。


 一瞬だけ、私たちの前に道ができた。


「今のうちに!」


 私も声を張り上げる。


「突き進めるだけ突き進みましょう!」


 ザインが盾を構える。


「俺が前を押さえる!」


「私も行く!」


 ノンナがザインの横へ並ぶ。


「レインはエレナの援護!」


「了解!」


 エレナが振り返る。


「私はみんなの後ろから支える!」


 私がそう答え、杖を握り直した。


「そして、また敵が集まったら――」


 私は魔力を高める。


「火力の高い攻撃で、まとめて吹き飛ばしましょう!」


「それでいこう!」


 エレナが笑った。


「じゃあ――」


 クラウ・ソラを構える。


「魔王のところまで、一気に行くよ!」


「おう!」


「任せろ!」


「もちろん!」


「うん!」


 五人が同時に駆け出す。


 魔王城の奥へ。


 魔王が待つ場所へ。


 私たちは、ただひたすらに突き進んだ。


 だが、無理だった。


「多すぎる!」


 ザインが叫ぶ。


 魔王城の内部には、予想を遥かに上回る数の魔族がひしめいていた。


 倒しても、倒しても次が現れる。


「エレナ!」


 レインが叫んだ。


「このままだと、エレナまで消耗するわ!リサと二人で魔王のところへ行って!」


「……!」


 エレナが一瞬だけ振り返る。


 その視線の先には、魔族を相手に戦う三人の仲間たち。


「わかった!」


 エレナは迷いを振り切るように叫んだ。


「三人とも、すまない!頼む!」


「任せてくれ!」


 ノンナが魔族の一体を殴り飛ばす。


「任せて!」


 レインも杖を掲げる。


 ザインは剣を構えながら、ニヤリと笑った。


「勇者様が魔王を倒すまで、ここは通さないさ」


「じゃあ、リサ!」


 エレナが私を見る。


「行こう!」


「うん!」


 私とエレナは、大広間の奥にある階段へ駆け出した。


「行かせるな!」


 魔族が迫ってくる。


 だが――。


「雷魔法――大放電スパーク!」


 轟音と共に、無数の雷が大広間を駆け抜けた。


「今よ!」


「ありがとう、レイン!」


 私たちは雷撃によって生まれた隙を逃さず、階段を駆け上がる。


 背後から、魔族たちの怒号が聞こえてくる。


 振り返ると、レイン、ノンナ、ザインの三人が魔族を食い止めていた。


「リサ! エレナ!」


 レインが叫ぶ。


「絶対に勝ってきなさいよ!」


「任せろ!」


 エレナが叫び返す。


 そして、私たちは階段を駆け上がった。


 レインたちの姿が、徐々に小さくなっていく。


 やがて――見えなくなった。


「……行こう」


 エレナが前を向く。


「うん」


 階段を上り切る。

 

 その先には、さらに長い廊下が続いていた。


 先ほどまでの騒がしさが嘘のように静かだった。


 魔族の姿もほとんどない。


「……少ないわね」


「大広間に集中させていたんだろうな」


 エレナが周囲を見渡す。


「私たちを足止めするために、あえてあそこへ戦力を集めていたのかもしれない」


「じゃあ、今はチャンスね」


「あぁ」


 私とエレナは、さらに奥へ進んだ。

 

 歩くたびに、空気が重くなっていく。


 まるで空気そのものが、私たちの身体を押し潰そうとしているようだった。


「……エレナ」


「なんだ?」


「魔王との戦い、私は回復と補助に努めるわ」


「わかった」


 エレナはクラウ・ソラを握り直した。


「私も、できるだけ集中する」


「魔王、倒しましょうね」


「あぁ」


 エレナが力強く頷く。


「もちろんだ!」


 その瞬間だった。


 ゾクリと、身体の芯まで凍りつくような悪寒が走った。


「……っ」


 足が止まる。


 エレナも同じだった。


 廊下の先。


 そこから、何かが漏れ出している。


 目には見えないが、それでもわかる。


 圧倒的な魔力。


「こ、これ……」


 エレナが息を呑む。


「魔王の魔力か?」


「たぶん……」


 空気が重い。


 呼吸をするだけでも苦しい。

 

 不思議なことに、魔族も魔物も一匹もいなかった。


 まるで、この先へ進むことそのものを恐れているかのように。


「ちょっと待って、エレナ」


「え?」


 私はエレナの背後へ回り、その背中に両手を添えた。


「今から魔法をかけるわ」


「わかった」


 私は目を閉じる。


 魔力を集中させる。


 そして――。


「――癒光」


 私の両手から光が溢れ出した。


 それはエレナの身体を包み込み、淡い光となって全身へ染み込んでいく。


 エレナの身体から、先ほどまで感じていた疲労が少しずつ消えていく。


「……身体が軽い」


「万全にしておきましょう」


「ありがとう、リサ」


「いいえ」


 私はエレナの背中から手を離す。


「万全の状態で戦ってもらわないとね」


 エレナが振り返る。


 私たちは互いに頷いた。


 もう言葉はいらなかった。


 廊下の先。


 禍々しい魔力が渦巻く扉へ向かって、私たちは歩き出す。


 一歩。


 また一歩。


 その先に待つ、魔王のもとへ。


 最後の戦いが、始まろうとしていた。

読者の皆様、いつもありがとうございます。

次話は8/25火曜日22時に公開予定です。

引き続き宜しくお願い申し上げます。

少しでも「面白い」と思って頂けましたら、ブックマークをよろしくお願いします。

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