表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
209/228

その14 「エルバラの力」

 エレナの暴走は落ち着いたが、意識を失っている。


 リリサさんは恐らくもう……。


 いや、今は考えるな。


 考えると集中できない。


 今ここで集中しないと、全員が死ぬ。


 私は大きく息を吸った。


「ラン、アイ!」


「二人で前衛をお願い!」


「はい!」


「任された」


 二人が同時に地面を蹴る。


 ランは双剣を逆手に構え一直線に。


 アイは姿勢を低くし、木々を利用しながらエルバラの死角へ回り込む。


火球ファイアボール!」


 私は魔法を放つ。


 無数の火球がエルバラを囲む血の刃へ次々と衝突した。


 ドドドドドンッ!!


爆炎が森を照らす。


血の刃と火球が相打ちになり、辺りに赤い霧が舞った。


「ふふっ」


爆煙の向こうから笑い声が聞こえる。


「さすが蒼天の魔法使い」


その隙を逃さない。


アイが腰のクナイを三本抜き放つ。


「――っ!」


シュンッ!


一直線ではない。


一本目は牽制。


二本目は死角。


三本目は逃げ道を塞ぐ軌道。


同時にランも飛び込んだ。


双剣を逆手に構え、一気に間合いを詰める。


「はぁぁぁぁっ!!」


左右から斬撃が走る。


「そんな拙い攻撃――」


エルバラは翼を大きく広げた。


ふわり、と。


まるで風に乗るように宙へ舞う。


ランの剣も、アイのクナイも、紙一重で躱される。


「当たらないぞ」


その瞬間だった。


雷撃サンダーボルト!!」


ゴォォォォン!!


次の瞬間、巨大な雷が真上から落ちた。


「――っ!」


エルバラは反射的に身を捻る。


雷が翼の先端を掠めた。


バチバチッ!!


黒い羽が数枚焼け落ちる。


「まだまだよ!」


私は畳み掛ける。


氷舞槍アイスダンスランス!!」


空気中の水分が一斉に凍り付く。


数十本もの氷槍が踊るように空中へ現れた。


「行きなさい!」


氷槍が四方八方からエルバラへ襲い掛かる。


血殺刃けっさつじん!」


エルバラも叫ぶ。


周囲に血液が現れ、一斉に形を変えた。


無数の赤い刃。


それらが氷槍へ真正面から激突する。


ガガガガガガッ!!


氷と血が衝突。


空中で無数の爆発が起こった。


「あんた!使いすぎて貧血で倒れるんじゃないの!?」


「これは私の血ではない」


エルバラが妖しく笑う。


「これまで人族から吸い続けてきた血だ!」


 エルバラが構える。


「くらえぇぇぇぇ!!」


 一本。


 二本。


 十本。


 いや――数え切れない血の刃が私を襲う。


「遅いわ!」


 私は即座に魔法障壁を展開した。


 半透明の障壁が私を包み込む。


 ガガガガガッ!!


 血刃が次々と弾かれる。


「甘いな!」


 エルバラが右手を握る。


 その瞬間だった。


 無数だった血の刃が、一点へ収束する。


 一本。


 巨大な血の槍へ。


血魔槍ブラッドランス


「しまっ――」


 ドゴォォォォン!!


 血槍が障壁へ直撃した。


 障壁が大きく軋む。


 ピシッ……


 細い亀裂が走る。


 パリンッ!!


 障壁が粉々に砕け散った。


「きゃああっ!!」


 血槍が私の左肩を貫いた。


 衝撃で身体が大きく吹き飛ぶ。


 地面を何度も転がり、木へ激突した。


「レーナさん!!」


 ランが叫ぶ。


 アイの表情も変わる。


「よそ見をするな」


 エルバラの赤い瞳が二人を捉えた。

  

「次は貴様らだ」


 吹き飛ばされたレーナは木に激突し、その場に崩れ落ちる。


 左肩から血が流れ、立ち上がることができない。


「ぐっ……」


(まずい……)


 左腕に力が入らない。


 骨までやられている。


 エルバラはゆっくりと地面に着いた。


「蒼天が一番危険だからな。後はーー」


「よくもレーナさんを!」


 ランが地面を蹴った。


「許さないっ!!」


「待って、ランさん!」


 アイの制止も届かない。


「ーー雑魚だからな!」


 双剣が閃く。


 右、左、右。


 まるで嵐のような連撃。


「速いがーー」


 エルバラは微笑む。


「それだけだな」


 翼を軽く羽ばたかせるだけで、全ての斬撃を紙一重でかわした。


「ここ!」


 ガッ!!


 エルバラの蹴り。


 腹部へめり込む。


「がはっ!」


 ランの身体が吹き飛び、地面を何度も転がる。


「ラン!」


 今度はアイが動いた。


 懐から黒い玉を取り出す。


 地面へ叩きつける。


 パンッ!!


 白煙が辺りを包んだ。


「煙?」


 エルバラが眉を上げる。


 その瞬間だった。

 

シュッ!


シュシュシュッ!!


 四方八方からクナイが飛ぶ。


 一本ではない。


 二本。


 三本。


 五本。


 十本。


 全て軌道が違う。


「ほう」


 エルバラは身体を捻る。


 紙一重。


 紙一重。


 紙一重。


 全て避ける。


「姿を隠すのは上手い」


 アイの姿は見えない。


 煙の中を高速で移動している。


「だがーー」


 エルバラは目を閉じた。


「吸血族を舐めるな」


 足元へ手をかざす。


 地面へ染み込んだ血。


 空中へ舞った血。


「血は命」


「命は我が手となる」


 ザァァァァァッ!!


 煙の中から血が無数の糸となって走る。


「っ!」


 アイの足首へ巻き付いた。


「しまっ!」


「見つけた」


 エルバラが腕を引く。


 アイの身体が宙へ引き寄せられる。


「アイ!」


 ランが立ち上がる。


 腹を押さえながら、それでも走る。


「離せぇぇぇぇ!!」


 双剣が唸る。


 ガガガガガッ!!


 血の糸が切れる。


 アイは空中で体勢を立て直し着地した。


「ありがとう」


「お礼は後!」


 二人は並んだ。


 エルバラは少しだけ目を細める。


「なるほど」


 ランは剣を構え直す。


「まだまだ!」


 エルバラは鼻で笑う。


「だからヒューマンは弱い」


「……!」


 ランの瞳が揺れた。


「」


 エルバラは首を振る。


「速さも威力も十分だ。だが、真っ直ぐすぎて読みやすい」


 今度はアイを見る。


「小娘」


「お前は速さだけだ。戦場で隠れるのに長けても意味が無い」


 アイは何も言わない。


「それと経験値も足らんな」


 アイは静かにクナイを握り直した。


 ランが笑う。


「助け合う、それが人族は当たり前なんです」


 アイも頷いた。


「合わせます」


 二人が同時に地面を蹴る。


 ランは正面。


 アイは木々を蹴り、死角へ。


 左右。


 上下。


 挟撃。


「はぁぁぁぁっ!!」


 双剣が襲う。


 同時にクナイが首筋を狙う。


 今までで最高の連携だった。


「ほう」


 エルバラの笑みが初めて消える。


「悪くない」


 ガキィィン!!


 エルバラは伸ばした爪で、双剣を受ける。


 その一瞬。


 シュッ!!


 クナイが頬を掠めた。


 赤い血が一筋流れる。


「アイ、いいですよ!」


 ランが叫ぶ。


 だが、エルバラは指で頬をなぞる。


 傷は、みるみる塞がっていった。


「……そんな」


 アイが息を呑む。


「血を大量に飲んだからな」


 エルバラは笑う。


「遊びは終わりだ」


 ゴォォォォォ……


 魔力が一変した。


 翼が大きく広がる。


 森中が震える。


「な、何……」


 ランが後退る。


 エルバラの出した血液は巨大な濁流となり、空を覆った。


「こんなの……」


 アイがクナイを構えたまま呟く。


「防げない……」


 レーナも歯を食いしばる。


(まずい……)


(この魔法は止められない)


 エルバラは両腕を広げた。


「これで終わりだ」


 血の大津波が、四人へ向かって落ち始めた――。






 暗闇。


 光も音もない世界。


 私は膝を抱えたまま、小さく息を吐いた。


「なぁ」


『なんだ?』


「エスタで再会した姉様達とは仲直りしたけどさ……」


 私は膝を抱えたまま呟く。


「リリサを……本当の姉だと思ってたんだ」


 目を閉じる。


 すると自然と、メイド服姿のリリサが頭の中に浮かんできた。


 優しく笑う顔。


 怒った顔。


 呆れた顔。


 全部思い出せる。


「五歳で、この世界に転生したって気付いてさ」


「勇者として旅立つまでの十年間……ずっとリリサが側にいてくれた」


 庭で追いかけっこをした日。


 勉強を教えてもらった日。


 悪戯をして叱られた日。


 泣きながら謝った日。


 どれも昨日のことのようだった。


「仲良かったけど、喧嘩もしたし……」


 思わず笑う。


「何度泣かされたかわからない」


 小さなエレナが頬を膨らませている。


 その横で困ったように笑うリリサ。


 懐かしい。


「精神年齢だけなら私の方がずっと上だったはずなのにな」


「この世界で最初に私を支えてくれたのは、リリサだった」


 草原を歩くリリサ。


 夕日を背に笑うリリサ。


 全部、大切な思い出だった。


「でもさ……」


 涙が頬を伝う。


「リリサとの思い出は、全部いい思い出なんだ」


 涙は止まらなかった。


「昨日の夜もさ」


「夜通し話したんだ」


 私は少し笑う。


「勇者になって旅立ったこと」


「魔王を倒したこと」


「罪人になったこと」


「また冒険者として歩き始めたこと」


「リサを倒して、人族と魔族の未来を守ろうと思ってること」


「全部話した」


 静かな沈黙。


「でも、一つだけ話さなかった」


『ほう』


「私が転生者だってこと」


 イグレイズは静かに聞いている。


「……なんでだと思う?」


『申してみよ』


「リリサには、この世界のエレナに接してほしかった」


「前世の私じゃない」


「アルファストで生きてきた、エレナとして」


「家族になりたかったんだ」


 長い沈黙。


 するとイグレイズが小さく笑った。


『うむ』


『面白い』


 私は眉をひそめる。


「面白い要素あったか?」


 イグレイズは黄金の瞳を細めた。


『前世の家族を想い、眠れぬ夜を過ごしていた貴様が』


『この世界で初めて、心から家族と思えた者がおった』


『それがリリサだった』


 私は思わず苦笑した。


「あぁ……そういうことか」


『人族』


『特にヒューマンという種は不思議だ』


『弱く』


『短命で』


『すぐ死ぬ』


『だが、その短い命を燃やし、人との絆を築く』


『我ら龍には真似できぬ』


 私は笑った。


「それってさ」


「イグレイズが私と友になった理由も似たようなものなんじゃないか?」


 イグレイズも笑う。


『ふ』


『そうかもしれんな』


 二人で笑う。


 久しぶりに笑えた気がした。


『……少しは落ち着いたようだな』


「うん、落ち着いた」


 私は頷く。


「ありがとう、イグレイズ」


『礼など不要だ』


『我らは友だからな』


 少し間を置いて、イグレイズが前脚を差し出した。


 その爪先には、小さな紅い光が灯っている。


「これは?」


『一つ、良い事を教えてやろう』


 私は首を傾げた。


『貴様は勘違いしている』


「え?」


『リリサの命は、まだ尽きておらん』


 その言葉に、私は勢いよく顔を上げた。


「……え?」


『鼓動が、まだ僅かに残っている』


 信じられなかった。


「本当か!?」


『あぁ』


『ほんの僅かだ』


『今にも消えそうな炎だがな』


「どうしてわかった?」


 イグレイズは当然のように答えた。


『リリサは今、暴走した貴様の隣で眠っておる』


『我の力は周囲の生命を感じ取れる』


『近くにおるゆえ、我にもわかった』


 私は立ち上がる。


「助けられるのか?」


 イグレイズは静かに首を振った。


『可能性があるだけだ』


 その一言で、私は息を呑んだ。


『右手を』


『リリサの左胸へ当てろ』


『我が力を貸そう』


『だが勘違いするな』


『助かる保証はない』


『傷は深い』


『目覚めるか』


『このまま眠り続けるか』


『それはリリサ自身の生命力と、生きたいという意志に委ねられる』


 私は深く息を吸う。


「それでも十分だ」


「希望があるなら、それでいい」


 イグレイズは満足そうに頷いた。


『うむ』


 私は拳を握る。


「ありがとう」


「本当に……何度助けられたかわからない」


 イグレイズは鼻を鳴らした。


『何度も言わせるな』


『友とは助け合うものだ』


 私は笑う。


「あぁ、わかったよ」


「またな、イグレイズ」


 するとイグレイズは少しだけ真剣な表情になった。


『そろそろ戻れ』


『レーナ達が危ない』


 その一言で、私の表情が変わる。


「……っ!」


『行け、勇者エレナ』


『我はいつでも貴様を見ている』


「あぁ!」


 私は力強く頷いた。


「行ってくる!」


 暗闇が光に包まれる。


 そして私は――現実へと意識を戻した。

読者の皆様、いつもありがとうございます。

次話は7/9木曜日22時に公開予定です。

引き続き宜しくお願い申し上げます。

少しでも「面白い」と思って頂けましたら、ブックマークをよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ