表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
203/232

その8 「リリサvs.リサ」

 村をくまなく探し回ったが、リリサの姿はどこにもなかった。


 マイとシンにも伝えたが、二人がリリサを見かけたのも昨日が最後だったという。


 二人とも私と一緒に探してくれた。


 ランとアイも見かけてないと言う。


 レーナだけは、何か思うところがあるのか、終始黙っていた。


「後で話すわ……」


 それだけ私に伝えて、ベッドから出てこなかった。


 ガルドさんや村の人々まで総出で探してくれたが、結果は同じだった。


 リリサがいない。


 痕跡すらない。


「リリサ……どこへ行ったんだ」


 やっと会えた。


 家族みたいに大切な人。


 胸の奥から、不安と悲しみがじわじわと広がった。


 嫌な予感がするーー。




* * * * * *



 

 この世界のどこかに存在する――魔王軍の居城。


 淡く光る転移門の前で、私は一度だけ目を閉じた。


 深く息を吸う。


 そして、迷いを振り払うように一歩を踏み出した。


 転移門を抜けた瞬間、肌を刺すような冷気が身体を包む。


 私は静かに前を向いた。


(……来た)


 私は、エレナ様に隠していたことがある。


 魔王ヴァルゼインに攫われた後、ある魔族に助けられ、リホーン族の村で暮らしていたこと。


 そこまでは話した。


 だが――本当に隠していたのは、その先だ。


 聖女リサ。


 勇者一行の僧侶。

 

 その彼女と、私は接触していた。


 ある日、単独で森へ魔物討伐に向かった帰り道。


 討伐を終えた私は、そこで一人の女と出会った。


 黒い髪。


 整った顔立ち。


 優しげな微笑み。


 聖女リサだった。


 誰もが知る有名人。


 勇者エレナ様の仲間。


 最初は驚いた。


 なぜ、こんな魔界の奥地に彼女がいるのか。


 だが、リサの話を聞くうちに、私は次第に彼女を信じてしまった。


 ……今思えば。


 最初から、私と接触するために来たのかもしれない。


 リサは静かに語った。


 魔王ヴァルゼイン討伐後、勇者エレナは精神を壊したと。


 狂気に堕ちた。


 仲間を殺した。


 私すら殺しかけた。


 そして今、勇者エレナは地上で指名手配されていると。


 国家転覆を狙う反逆者として。


 到底、信じられる話ではなかった。


 あのエレナ様が?


 優しくて、不器用で。


 誰よりも人を守ろうとしていた、あの人が?


 だが、リサの言葉には奇妙な説得力があった。


「魔王の怨念が取り憑いたのかもしれない」


 そう言われた時。


 私は否定しきれなかった。


 魔王ヴァルゼイン。


 あれほどの存在だ。


 何が起きても、おかしくない。


 何よりリサは、エレナ様の仲間だった。


 だから信じた。


 信じてしまった。


 ……でも。


 事実はどうだ。


 エレナ様は狂っていなかった。


 理性も。


 優しさも。


 覚悟も。


 何一つ失っていなかった。


 狂っていたのは、むしろ――


(リサ……貴方の方じゃない……!)


 大魔王を名乗り。


 魔王軍を率い。


 人族を滅ぼそうとしている。


 私はエレナ様から話を聞いていて驚いた。


 そして、エレナ様を殺そうとしている。


 騙されたことより。


 その事実が、許せなかった。


 だから私はここに来た。


 真実を聞くために。

 

 問いただすために。


 私は城内を進む。


 ここへ来るのは二度目だ。


 だが、違和感があった。


(……静かすぎる)


 誰もいない。


 魔将も。


 魔人も。


 兵士すらいない。


 以前は、あれほど多くの魔族が歩いていたはずなのに。


 今は、私の足音だけが響く。


 コツ。


 コツ。


 コツ。


 その音が、やけに大きく聞こえる。


 まるで、城そのものが、死んでいるようだった。


  不気味な静寂。


 嫌な汗が背中を伝う。


「嫌な感じ……」


 やがて、巨大な扉へ辿り着いた。


 大広間。


 以前リサと話したのは個室だった。

 

 だが、そこにはいなかった。


 なら、残る場所はここしかない。


 直感が告げていた。


 ――リサはここにいる。


 私は扉を押し開けた。


 重々しい音が響く。


 ギギギ……。

  

 広間の最奥。


 高く据えられた玉座。


 そこに、彼女はいた。


 足を組み。


 頬杖をつき。


 まるで私が来ることを最初から知っていたかのように。


「あら?」


 リサが微笑む。


「リリサ。久しぶりね」


 その笑顔を見た瞬間。


 背筋が凍った。


 怖い。


 違う。


 これまで見てきたリサじゃない。


 優しい聖女の顔ではない。


 その微笑みの奥にあるものを私は本能で理解した。


 ――怪物だ。


 魔王ヴァルゼインなんて足元にも及ばない。


「……リサ」


 声が震える。


 喉が乾く。


 それでも、私は絞り出した。


「私は……貴方を信じていました……でも――」


「エレナを殺そうとしている私に腹が立つ?」


 被せるように言われた。


 その瞬間。


氷槍アイスランス!!」


 無数の氷槍が生成される。


 空気が凍る。


 槍は一直線にリサへ襲い掛かった。


 だが、リサは微動だにしない。


氷槍アイスランス


 リサは静かに唱えた。


 同じ魔法。


 同じ構成。


 同じ速度。


 空中で激突。


 砕け散る。


 氷片が雪のように舞った。


「ふふ」


 リサが笑う。


 私の目が見開かれた。


「リサっ!」


「おお、怖い」


 くすくす笑う。


 まるで遊んでいるみたいに。


「鬼の形相ね」


「あんたって人は……!」


 怒りで身体が震えた。


 魔界に来て一年。


 私はリサを信じた。


 彼女を助けた。


 魔王軍に協力したくはなかった。


 でも、エレナ様を救うためならと、自分を納得させた。


 同じ人族。


 同じ冒険者。


 やっと出会えた仲間だと思っていた。


 嬉しかった。


 心強かった。


 ……全部、嘘だった。


「リサッ!!」


 怒りが爆発する。


 エレナ様を殺そうとする彼女に殺意が湧く。


「絶対に許さない!!」


 リサの赤い瞳が細まる。


「その表情が、本来の貴方よね」


 ただの根無草だった私が、ブレイジング家の人々と過ごしてから変わった。


 穏やかになれた。


 優しくなれた。


 人間らしくいられた。


 エレナ様。


 その家族。


 メイド仲間たち。


 みんなが、私を救ってくれた。


 だからこそ、そのエレナ様を傷つける者だけは、絶対に許せない。


 たとえ鬼になろうと。


 悪魔になろうと。


 構わない。


「許さない」


 私の周囲に、氷と炎の魔力が渦巻き始める。


 青白い冷気。


 灼熱の炎。


 相反する魔力が共鳴し、空気を震わせる。


 床が軋む。


 壁が唸る。


 魔力の圧だけで、大広間が揺れた。


「貴方を絶対に許さない」


 リサは、その姿を見て恍惚と笑った。


 まるで、この瞬間をずっと待ち望んでいたかのように。


「……そう」


 ゆっくり立ち上がる。


 黒いドレスが揺れる。


「いい調子よ」


 長い髪が流れる。


 赤い瞳が、愉悦に染まった。


「やっと――」


 リサが両手を広げた。


 歓迎するように。


 愛おしむように。


 壊したくてたまらない玩具を見つけた子供のように。


「この日が来たわ!」


「──炎弾(フレイム)!!」


 私の前方に、灼熱の魔力が一気に収束した。


 空気が歪む。


 拳大だった火球は、一瞬で人の背丈を超える巨大な炎球へと膨れ上がった。


 轟々と唸りを上げながら、それは一直線にリサへ向かう。


 熱風が大広間を駆け抜け、床石すら赤く焼ける。


(まずは牽制――)


「──っ」


 リサの眼前まで迫った瞬間、私は指を鳴らした。


「──爆ぜろ!」


 ドォォォンッ!!


 炎球が大爆発を起こす。


 爆風。


 閃光。


 轟音。


 一瞬でリサの視界を灼熱が覆い尽くした。


 肌が焼けるほどの熱。


 普通なら、これだけで動きは鈍る。


(今っ!)


 爆炎の陰から、私は次の魔法を放つ。


氷舞槍(アイスダンスランス)!」


 無数の氷槍が生成され、踊るように舞う。


 鋭利な氷の槍群が、殺意そのものとなって爆炎の中へ突き進んだ。


「いけぇぇぇ!!」


 槍が炎を突き破る。


 だが、私の狙いはそこじゃない。


(氷槍が本命だと思わせる……!)


 誘導。


 揺動。


 視線を奪うための布石。


 そして――本命。


 私の瞳に雷光が走る。


雷撃(サンダーボルト)!!」


 バチィィィィッ!!


 轟雷が落ちた。


 青白い閃光が爆炎ごとリサを飲み込む。


 床が砕け、石片が跳ね上がる。


 直撃。


 そう思ったがーー。


「甘いわ」


 静かな声。


 爆煙の中から、リサの声だけがはっきり響いた。


 ぞくり、と背筋が冷える。


 煙が晴れる。


 そこにいたリサは、無傷だった。


 彼女の周囲には、半透明の魔法障壁が展開されている。


 紫がかった光の膜が、ゆっくりと脈打っていた。


 まるで生き物みたいに。


 私の魔法を喰らったはずなのに、障壁表面に傷一つない。


「くっ……!」


 私は歯を食いしばる。


 無傷。


 本当に、かすり傷一つない。


 あり得ない。


 私の雷撃は魔物すら一撃で沈める。


 それを、完全防御……?


「こんな初歩の魔法で、やれると思って?」


 リサが薄く笑う。


 その笑みが癪に障る。


「……ちっ」


 思わず舌打ちが漏れた。


「あら」


 リサの笑みが深くなる。


「その舌打ち、エレナにそっくりね」


 その言葉に、私の眉がぴくりと動いた。


 そっくり。


 そう言われて、悪い気はしない。


 でも――今は戦闘に集中しないと。


 普通の魔法使いが展開する魔法障壁は、万能じゃない。


 攻撃を完全に防ぐものではなく、威力を減衰させる防御壁。


 強力な魔法なら砕けるし、衝撃も通る。


 だけど、リサの障壁は違う。

 

 氷も、炎も、雷も、まるで意味をなしていない。


(硬すぎる……!)


 額に汗が伝った。


 しかも、まだ本気すら出していない顔だ。


 私の全力を、観察している。


 試しているのか。


 そんな余裕が見える。


「まずは、それを突破しないと駄目ですね……」


 周囲の空気が凍った。


 胸の奥で、熱い何かが膨れ上がる。


 怒り。


「次はどうするの?」


 リサがくすりと笑う。


 ――ブチッ。


 何かが切れた音がした。


「……だったらこれはどうしますか?」


 私は得意魔法を使うーー。

読者の皆様、いつもありがとうございます。

次話は6/28日曜日22時に公開予定です。

引き続き宜しくお願い申し上げます。

少しでも「面白い」と思って頂けましたら、ブックマークをよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ