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その12 「リリサとの再会」

凍りついていた森の空気が、少しずつほどけていく。


さっきまで周囲を覆っていた青い炎は、静かにその輝きを失い、青白い霧となって消えていった。


私は、ただ目の前の女性を見つめることしかできなかった。


呼吸の仕方すら、忘れてしまったみたいに。


目の前にいるのは――。


五歳の頃から十年間、ずっと私の側にいてくれた人。


泣いた時も。

怒られた時も。

剣を握った時も。

初めて魔法を使えた時も。


いつだって隣にいた。


私の、姉のような人。


「……っ」


頭の中が真っ白だった。


なぜ、リリサが魔界にいるのか。


なぜ、アイと戦っていたのか。


あの魔法は何なのか。


ブレイジング領の崩壊とともに、死んでしまったのではないかと思っていた。


聞きたいことは山ほどある。


でも、そんなこと、全部どうでもよくなるくらい。


もう二度と会えないと思っていた人が、確かにここにいる。


リリサもまた、同じ顔をしていた。


信じられないものを見るように。

でも、夢ではないと確かめるように。


震える瞳で、私を見つめている。


「エレナ様……」


その声を聞いた瞬間。


胸の奥に押し込めていた感情が、一気に溢れ出した。


「…リリサ……」


自分でも驚くほど、情けない声だった。


「……エレナが探してた(ひと)?」


レーナが呆然と呟く。


私は走った。


考えるより先に、身体が動いていた。


「……っリリサ!!」


すると、リリサも同じように駆け出してくる。


「エレナ様!!」


次の瞬間。


私たちは強く抱きしめ合っていた。


「……っ」


温かい。


リリサが生きている。


夢じゃない。


私はリリサの肩を掴み、何度も確かめるように抱きしめた。


リリサもまた、震える腕で私を抱き締め返してくる。


「…本当にエレナ様なんですね……!」


「リリサ…生きてたんだね…っ!」


言葉にならない。


涙ばかり溢れてくる。


魔界に来てから、ずっと張り詰めていた何かが壊れてしまったみたいだった。


「会いたかった……!」


気づけば、そんな言葉が口から零れていた。


勇者になって。


旅に出て。


たくさんの人と出会った。


でも、心のどこかでずっと寂しかった。


リリサがいない。


それだけで、世界の色が少し違って見えていた。


「私もです……!」


リリサの声も震えていた。


「ずっと……お会いしたく……!」


その言葉が、どうしようもなく嬉しかった。


ランは耳をぴくぴくさせながら、涙を拭っていた。


「……ずっと探してましたもんね」


小さな呟きだった。


私はリリサから少しだけ離れ、その顔を見つめる。


昔と変わらない。


少し疲れた顔をしていいるが、私の知っているリリサだった。


「……リリサ」


「はい」


「会えて、よかった」


その言葉に、リリサは泣き笑いのまま何度も頷いた。





しばらくして。


ようやく私たちは落ち着きを取り戻した。


私は小さく息を吐き、まずはアイの方へ向き直る。


「アイ」


「はい、エレナ様」


「彼女は、私の家族みたいな人なんだ。だから敵じゃない」


そう伝えると、アイは静かに頷いた。


「……お二人のやり取りを見て、そう感じました」


そう言いながら、腰に構えていたクナイを静かに収める。


その横で、リリサが申し訳なさそうに頭を下げた。


「エレナ様。悪いのは私です」


「敵かと思い、仕掛けてしまいました」


「え?」


私は思わず目を瞬かせる。


「じゃあ、先に手を出したのって……」


「はい、私です」


リリサは真面目な顔で頷いた。


その瞬間。


「私は何もしてませんよ」


アイがむっとした顔で頬を膨らませた。


珍しい。


普段感情をあまり表に出さないアイが、露骨に不満そうにしている。


「いきなり襲われて、凍らされて、大変だったんですから」


「うっ……」


リリサが目を逸らす。


「ご、ごめんなさい……」


リリサが、しょんぼりしている。


私は思わず吹き出しそうになった。


「ふふっ……」


「エレナ様!?」


「だ、だって……リリサが怒られてるの、久々に見たから……」


「その……申し訳ありません……」


その様子を見て、レーナが呆れたように肩をすくめる。


「とりあえず解決ね」


「でも、よかったです」


ランがほっとしたように耳を揺らした。


その言葉に、私は静かに頷いた。


本当に、よかった。


もし少しでも再会が遅れていたら。


もし、私たちが間に合わなかったら。


アイとリリサ、どちらかが取り返しのつかないことになっていたかもしれない。


私は改めてリリサへ向き直った。


「……それで、リリサ」


「はい」


「ここで何してたの?というか、どうやって魔界に来たの?」


聞きたいことが多すぎる。


リリサは少し困ったように笑った。


「はい……話せば長くなるのですが……」


「大丈夫。時間はあるから」


そう答えた、その時だった。


――ガサガサ。


近くの茂みが揺れた。


全員の空気が一瞬で変わる。


ランが低く身構え、アイが再びクナイへ手を伸ばす。


レーナの杖も魔力が集まり始めた。


私も反射的に左腕へ手をかける。


だが――。


「待ってください、エレナ様」


リリサが、私を制した。


「え?」


その声には焦りではなく、どこか困ったような響きがあった。


次の瞬間、茂みの奥から、小さな影が飛び出してくる。


「リリサお姉ちゃーーん!!」


「いたー!!」


現れたのは――。


小さな角を生やした、二人の魔族の子供だった。


「ちょっと! 二人とも、村に帰ったんじゃなかったの!?」


リリサが呆れたように声を上げる。


すると、角の小さな男の子が胸を張った。


「リリサお姉ちゃんが心配になって来たのさ!」


「すごい音いっぱいしてたもん!」


もう一人の女の子も、うんうんと頷いている。


リリサは額に手を当て、大きくため息を吐いた。


「本当にもう……」


だが、その表情はどこか優しい。


二人もそれを分かっているのか、えへへ、と笑っていた。


そして今度は、子供たちの視線がこちらへ向く。


「その人たちは?」


「ヒューマンと獣人族だね」


ランの耳を見てそう言った。


リリサは少しだけ困ったように笑いながら説明する。


「この方たちは、私の知り合いです」


「お姉ちゃんのお友達ってこと?」


「……そうですね。そんな感じです」


その返答に、私は思わず笑ってしまった。


リリサの口からそう言われると、なんだかくすぐったい。


すると、子供たちはぱっと表情を明るくした。


「じゃあ村においでよ!」


「みんな喜ぶよ!」


「え?」


私は思わず聞き返した。


「みんな?」


「うん!リリサお姉ちゃん以外にも、ヒューマンの人たちいるし!」


その瞬間、私たち全員が驚いた。


「……他にも、人族がいるの?」


レーナが真剣な顔になる。


リリサは静かに頷いた。


「はい」


「私と一緒に、魔界へ連れてこられた人々がいます」


「連れてこられた……?」


私は眉をひそめた。


その言葉には、聞き捨てならない響きがあった。


人族が魔界にいる。


しかも連れてこられた。


それはつまり――。


「詳しいことは、村でお話しします」


リリサはそう言って、子供たちの肩に手を置いた。


「まずは、この子たちを早く帰さないと」


「えー! まだ大丈夫だよー!」


「だめです」


リリサがぴしゃりと言い切る。


「ご両親が心配するでしょう?」


「ちぇー……」


「わかったよー……」


二人はしゅんと肩を落とした。


だが、その様子からはリリサへの信頼がよく分かる。


魔界の子供たちが、ここまで懐いている。


それだけで、リリサがこの場所でどう過ごしてきたのか、少しだけ伝わってきた。


私はちらりと仲間たちを見る。


レーナは警戒半分、好奇心半分といった顔。


ランは静かに周囲を警戒している。


アイは少しおとなしい。


私は小さく頷いた。


「……行こう」


こうして私たちは。


リリサと、二人の魔族の子供たちに案内されながら、魔界の村へ向かうことになった。

読者の皆様、いつもありがとうございます。

次話は5/30土曜日22時に公開予定です。

引き続き宜しくお願い申し上げます。

少しでも「面白い」と思って頂けましたら、ブックマークをよろしくお願いします。

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