三週目ノ十
*土曜日
「ありがとうございます」
「帰りはいつも通りで良いのかい?」
「はい。お願いしますね」
早朝、まだ陽が昇っているかいないかという早い時間、とある郊外の村の教会に馬車がやってきた。御者は習慣とばかりに手慣れた様子で馬を教会の馬小屋へと引き連れていく。
馬の数は二頭。一見するとどこにでもいる少しおとなしい性格の馬達である。
だが、引き締まった後脚と草食動物とは思えない程のその眼光を見れば、二匹の馬が選りすぐりの精鋭であることが分かる。
下手をすれば王都の一等地に住む貴族よりも品格が高い彼ら。それを手玉に取るように手懐ける御者もまた、只者ではないことは確かである。
「ん、んぅ」
旅の疲れ故か、先程に御者と言葉を交わした少女が背伸びをする。それに呼応して、絹のような金髪が背中で波打つ。今となっては希少性の高いエメラルド色の眼には、欠伸によって涙が滲んでいた。
少女は迷うことなく、村の道とも呼べぬような粗末な経路を進んでいく。まだ陽は完全に昇りきっていないというのに、畑仕事に精を出す村民が少女に声を掛ける。
少女はそれに対して、向日葵のように明るい笑顔で答える。朝の挨拶に軽いジョークを交えて、仕事に対する激励の意を伝える。無難な受け答えだ。
この村は総勢百人にも満たない小さな村だ。王都の郊外にあるとはいえ、村の立地場所と規模が原因で他の村や町との交易は少ない。王都とも交易は数年に一度あるかどうか、といった具合だ。
そのためか、外部からの旅人や通りすがりの行商人はよほどの変人以外は歓迎される。娯楽の少ない村だからこその一種のイベントのようなものなのだ。
少女もその例には漏れず、村人からの人気は高い。フレンドリーに接してくれる、食堂の看板娘的な立ち位置だ。その美貌も相余って村人の中で少女を邪険に扱う人はいない。
少女は次々と老若男女を問わずに出会った村人達に挨拶をしていく。少女は週一でこの村を訪れるため、殆どの人が顔見知りだ。そうなると当然挨拶に時間がかかり、目的地に着くのが遅くなってしまう。
遅れた時間を取り戻すために、少女は速歩きで目的地に向かう。目指す場所は郊外にある村の更に奥まった土地に建ててある二階建ての家。
辺には何も無く、新緑色の雑草が拡がっている。草原という大海原に浮かぶその家は、家主の性格から考えるに、自由奔放な海賊船といったところか。
少女………レミーはその家の玄関の前に立つと首にかけていた鍵で扉を開けた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
王都の中の王宮、その更に中にある謁見の間では、件の事件の報告が行われていた。
「…………は総員を取り押さえ、投獄し事情聴取を行いました。拷問も行なっていますが、捜査はあまり捗っていないとのこと。但し、魔王との関係が無いことは分かっています」
「うむ、引き続き捜査を続行せよ」
玉座に座りしはマカール王国を統べるもの。その威厳はそれ相応であった。髪が全て白く染まろうとも、その手腕は留まることを知らない。
それに対応するようにして跪いているのはその頑丈な肉体によって数々の災厄からマカール王国を護ってきたもの。ライによって『クソジジイ』のレッテルを貼られたあの取調官である。勿論、この男の本業は取調官ではない。
「先日、追加の容疑者候補として浮上した三名につきましては、私が直に確認いたしました」
「首謀者と思わしき奴らのことだったな」
「左様です。内二名は無関係の一般人。一名は首謀者で間違いないかと……」
「ふむ。後で資料を公安テロ対策本科に送付しておくように」
「畏まりました。これで、王女公認マカール王国立第一高等専門学校に関しての事件は大方片付いたと見ても良いでしょう」
「そうじゃな。だが、最近魔物共の動きに変化が見られない」
「それは………あの可能性は無いはずでは………?」
「念の為じゃ。マカール王国現国王が命ずる。王国聖騎士団は手の空いているものから魔物、及び魔王の調査を極秘に開始せよ」
「ハッ。陛下の仰せのままに」




