三週目ノ十一
「何度も申しますが、是非ともライ先生にお願いしたい」
この校長、しつこい。昨日の夜に俺の家を訪れたから、すぐに終わるような何か緊急の用事かと思っていたが………
こっちは最初から断っているのに日を跨ぐどころがもう朝になるまで説得してくるのだ。
「いえ、ですから何度も申しますが俺としてはですねぇ……」
「いえいえ、ご謙遜を。ライ先生ほどの実力なら………」
校長が言葉に詰まるとすかさずに副校長がフォローする。俺は文字通り休む暇も無い。
「そんな実力と言っても、俺には校長先生ほどのものは……」
「そんなことはありませんぞ。確かに精神魔法であれば私の専門なのであれですが、純粋な魔法、特にライ先生が扱われるゴーレムを作る魔法は間違いなくトップレベルです!」
「いえ、ですが………」
「校長の言う通りですな。ライ先生のその技術は本当に素晴らしい。その技術を是非とも役立てて頂きたい!」
「で、でも………」
俺は一夜漬けで口論したために睡眠不足で頭が働かない。それに対して校長と副校長の二人は時間が経過するにつれてどんどんと説得の勢いが強まっていく。
それもこれも、全てあの英雄証を持つクソジジイのせいだ。余計なことをしやがって!今度あったら憎まれ口の一つや二つを言わないと気が済まない。
「大丈夫ですよ、ライ先生。できるだけ早く決めれるようにと、既に書類は持ってきています。後はライ先生のサインを貰うだけです。」
校長がトドメとばかりに革の鞄から書類とサインペンを出す。もう、ここまできたら逃れる術は残されていないのかもしれない。だが、俺はどうしても屈するわけにはいかなかった。
意地でもサインをする訳には行かない。どうにかして切り抜けなければ……
そんなことを考えていると、俺が校長と副校長の説得を拒み続ける元凶が現れる。
廊下からリビングへと木製の扉を開けて入ってきたのは……
「あれ?何やってるの、みんな」
俺の幼馴染のレミーだ。そこで俺は思い出した。たしか今日は土曜日なのだ。土曜日といえば、一週間に一度、レミーが俺の家事をやりに来る日である。
土曜日になると、レミーはいつも朝御飯から始まり、掃除にゴミ出し、食材の買い出しまでやってくれている。恐らく、今だって朝御飯を作るためにリビングを経由してキッチンに向かおうとしていたのだろう。
だが、話を聞いてくれない頑固者がいるのでリビングは現在使用中である。だから俺はレミーに、暫く空いている部屋で待っていてくれ、と言おうとしたのだが………
校長と副校長の顔が真っ青になっていた。いつからだろうか……と考えてみても分からないが、校長と副校長の顔は気の毒になるぐらいに悪い。さっきまでは特に体調は悪く無さそうだったのだが、どうしたのだろうか。
「……あ、あのですね、これはですね……」
校長が何かいきなり言い訳をしようとする。それを見たレミーは少し考える素振りを見せながら、二人に指示を出す。
「う〜んと、後は私がやるから二人とも帰ってもいいよ。あ、延長した分のお給料はちゃんと申請しておいてね。」
「は、はい!」
「きょ、恐縮ですっ!」
良く理解できないが……一つ明確なことがあるとするならば、大の大人二人が一人の少女に怯える様子は……カオスだ。
校長と副校長の二人が俺の家を後にした。あれほど俺に固執していたのに、だ。
レミーは朝御飯の支度をすることなく、俺が座っている方とは逆のソファに座る。校長と副校長が座っていたところだ。
「校長と副校長は知り合いなのか?」
「ふふっ。誰がライに職を紹介したと思っているの、私よ。彼らとは知り合いで当然でしょ」
さも、当然のことのようにレミーが微笑む。
俺はレミーについて詳しく知らない。どこに住んでいるのか、とか、仕事は何をしているのか、とか……
一週間に一度会うぐらいなら知っていてもおかしくないはずなのだが、俺は基本的にゲームという名の重大な使命があったため、何も知らなかった。
だが、今の様子を見るにどうやら学校関係者のようだ。しかも、校長がペコペコしていたのを踏まえると、かなり高い地位なのではないのだろうか。
「それでライ。さっきの校長先生と副校長先生の説得の続きなんだけど……、行ってくれるね」
俺が大事な睡眠時間を削ってまで先程の話を断り続けていたのはレミーが週一でくるからだ。そのことを考えて俺は断っていたのだが……
「期間を考えると暫くこの家は開けることになるけど……」
「別に良いわよ」
本人からすれば特に問題は無かったようだ。
どうやら杞憂みたいだ。
と、なると、俺の一ヶ月の予定が決まった。
「あ、お土産は名物のマジックストーンがいいな」
「時間があれば買っとくよ」




